コモ1907の躍進が止まらない。ここまでセリエAで14試合を消化してわずか2敗。欧州コンペティション出場圏フィニッシュが現実味を帯びている。しかし、そんな好調なクラブであっても、すでにセスク・ファブレガス監督の後任を考えているという。一体なぜか。短期的な目標だけに縛られない、その取り組みとは。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
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セスクの後任をすでに考えている理由
「私は彼に、将来、ファブレガスの後任になり得る人物について、もう考え始めてほしいと頼んでいる。彼に辞めてほしいからではなく、万が一予期せぬ事態が起きたときに備えるためだ。私自身も同じことをしている。私の後を継げる人材を選び、育てている。
クラブのすべてのディレクターは同じことをすべきだ。ひとりの人物に依存しないことが大切だ。ここまで導いてくれた人物自身が、たとえその人がいなくなっても我々が前進できるよう、方法をともに考えてくれなければならない」
イタリアの多くのクラブが、シーズンごとの残留や昇格といった短期的な目標だけにビジョンを描く中で、コモ1907は、サステナブルな中長期的計画を見据えている。
これが他のクラブとは一線を画すところだ。
「だから私はファブレガスにいつも尋ねる。『誰か面白い人材を見つけたか?』『育てたいと思えるような人間はいるか?』と。
これはチーム全体で取り組むべき仕事だ。もちろん、そんな時がすぐに来ないことを願っているが、いずれ来るとしても、我々は備えておくつもりだ」
今のコモ1907で最も市場価値が高い選手は、ニコ・パスだ。フランチェスコ・トッティの言葉を借りれば「セリエAで唯一私を魅了する選手」である。
21歳ながら、セリエAで圧倒的な存在感を放ち、今季は、5得点5アシストをマーク。昨季の6得点9アシストに迫る勢いだ。
すでにその評価額は7000万ユーロ(約126億円)を超えているとも言われるが、900万から1100万ユーロ(約16億円~20億円)で買い戻しオプションを保有するレアル・マドリードがこれを行使するとの見方が強まっている。
ラ・リーガで不倶戴天の敵バルセロナに首位の座を明け渡したマドリーは、冬の移籍市場で買い戻すためにコモ1907とすでに交渉を始めたとも噂されている。
そして、スワルソ会長は今シーズンの補強と次のメルカートについても触れている。
「1月の移籍市場で新たな補強は…」
「今シーズンの補強にはとても満足しているよ。過去数年の補強では、すぐに結果を出せなかったり、長くクラブに残らなかった選手もいた。
しかし今年は、補強した選手全員が重要な役割を担っている。中には結果が出るまでに少し時間がかかるプレーヤーもいるが、それも現在と将来を見据えた投資だ」
「ここまでの議論を踏まえると、1月の移籍市場で新たな補強は期待しないほうがいい。おそらく、我々が誰も獲得しないのは今回が初めてになるだろう。
すでに今夏に契約を済ませた(ノエル・)トルンクヴィスト(スウェーデンのミェルビーAIF所属の23歳GK、8月31日にコモ1907に移籍が決まったが、今季限りレンタルで同クラブに残留)だけが合流する予定だ。それ以外は何もない。緊急事態でも起きない限り、計画上では補強は“ゼロ”だ」
この発言を信じる限り、ニコ・パスの冬の移籍市場での退団は今のところ想定されていないと見るべきであろう。
もし、退団するようなことになれば、それこそ“緊急事態”となり得る事案で、エースがチームを去るとなれば、なんらかの対策が施されるはずだ。
来年2月には、オーストラリアのパースでミラン対コモ1907の一戦が予定されている。ミランの本拠地サン・シーロがミラノ・コルティーナ冬季オリンピックで使用できないためだ。
地元のサポーターの存在を無視し、選手たちが長距離移動を強いられるこの一戦には、批判的な声が少なくない。
セスク自身も、南半球でのこの一戦を、サポーターのことを考えていないと述べているが、スワルソ会長は“コモ”の名をオーストラリアに知らしめるのは絶好の機会と捉えている。
サポーターをパースにクラブの負担で連れて行く計画も持ち上がっている。
コモ1907が見据える舞台は、イタリア国内にとどまらず、世界だ。イタリア屈指の高級リゾート地として知られるコモが、多くの人々を魅了し、惹きつけてきたように、コモ1907も、世界中にその名を轟かせる準備を整えている。
オーストラリアでの歴史的な一戦となるミラン戦で勝利を収めることがあっても、それはもはやサプライズではないだろう。
(文:佐藤徳和)
【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru
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