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コラム 4日前

アーセナルはなぜ、アストン・ヴィラが大の苦手なのか。勝ちを逃した試合の共通点、アルテタよりエメリが優れているものは【コラム】

シリーズ:コラム text by 安洋一郎 photo by Getty Images

ミケル・アルテタ監督とウナイ・エメリ監督
アーセナルを率いるミケル・アルテタ監督(左)とアストン・ヴィラを率いるウナイ・エメリ監督(右)【写真:Getty Images】



 現地時間12月6日にプレミアリーグ第15節が行われ、アストン・ヴィラが公式戦18試合で無敗のアーセナルに2-1で勝利を飾った。ウナイ・エメリが監督に就任して以降ホームチームはミケル・アルテタ監督のチームを得意としている。これは決して偶然ではない。両監督の経験値の差に基づく、ある“傾向”が試合結果に直結しているのだ。(文:安洋一郎)[2/2ページ]
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過密日程で行われた試合に勝つため重要なこと

 アストン・ヴィラ(当時3位)がホームでアーセナル(当時2位)に1-0で勝利した2023/24シーズンのプレミアリーグ第16節を一例に挙げよう。

 アストン・ヴィラはホームで行われたマンチェスター・シティ戦(当時1位)から中2日で同じスタメン。アーセナルはアウェイで行われたルートン・タウン戦(当時18位)から中3日でスタメンを1人入れ替えて、この試合を迎えていた。

 7分にジョン・マッギンが先制ゴールを決めてホームチームがリードすると、エメリは66分という早い時間までに4人を交代する。

 アルテタのアーセナルが最初に選手交代を行ったのは70分であり、両チームの選手交代は対照的だった。

 アストン・ヴィラが行った交代で最も驚きだったのが、66分にMFブバカル・カマラを下げてMFレアンデル・デンドンケル(現レアル・オビエド)を投入したこと。



 途中からピッチに立った元ベルギー代表MFは序列が低く、アーセナル戦の前の時点でのリーグ戦の出場時間はわずか7分。直近のリーグ戦4試合で出番がなかった。

 そんな立場の選手を66分という早い時間帯から起用したのは、エメリが過密日程の試合で勝ち切るためには「フレッシュな足」が重要であることを理解しているからだろう。

 彼の交代策を活用した采配はドンピシャで当たる。

 デンドンケルを含め、途中出場のフレッシュな選手たちの貢献もあって試合終盤まで強度を落とさず、1-0のリードを守り切った。

 このような采配は直近の12月6日に行われた試合でも見られている。

試合の明暗を分けた両監督の交代策

 アストン・ヴィラはアウェイで行われたブライトン戦から中2日、アーセナルはホームで行われたブレントフォード戦から中2日でプレミアリーグ第15節を迎えていた。

 最終的にこの試合の明暗を分けたのは、2シーズン前と同じくエメリとアルテタの交代策の使い方にあると考えている。

 アストン・ヴィラは1-1で迎えた86分に、疲労の色が見えた右SBのマティ・キャッシュとCBのパウ・トーレスをベンチに下げた。

 今シーズンのプレミアリーグにおいて、前者は2度、後者は1度しか途中交代していない。

 エメリは絶対的な主力である彼らに代えて、最終的に決勝ゴールを決めたMFブエンディアとDFヴィクトル・リンデロフを投入した。

 特にリンデロフの投入に驚いた人も多かったのではないだろうか。

 彼はアーセナル以前のプレミアリーグの試合において7試合連続で出番なし。トータルでもリーグ戦では、21分間の出場に留まっていた。

 過密日程においては疲労が明らかに蓄積している主力を我慢してピッチに残すのではなく、フレッシュな選手を投入する。これは2シーズン前のデンドンケル投入と同じような意図がある采配だった。



 一方のアルテタは最終的に全ての交代策を使い切った一方で、MFクリスティアン・ノアゴールを投入することなく、明らかに足が止まっていたMFデクラン・ライスとMFマルティン・スビメンディをベンチに下げることはなかった。

 最終的にスコアが動いた直前のシーンでは、GKエミリアーノ・マルティネスのゴールキックをスビメンディが足下での処理を誤っていた。

 万全のコンディションでは起きるはずのないミスが、蓄積疲労が原因で起きたと推測して良いだろう。

 結果論でしかないが、仮にノアゴールを投入していればこのミスは起こらなかったかもしれない。

 逆にエメリはこの試合で、最後の得点シーンで顔を出すMFユーリ・ティーレマンスとMFカマラをフル出場させている。

 両者が同時にフル出場した公式戦は、開幕戦のニューカッスル戦以来であり、それ以外の試合ではプレータイムをコントロールしていた彼らを重要な試合で最後までピッチに残していた。

 一方でライスとスビメンディは同時にフル出場した試合が9試合もある。主力のプレータイム管理という部分でも、過密日程に慣れているエメリの方が優れている。

次回の対戦は12月30日

 交代策が的中するかどうかは結果論でしかない。実際にエメリも選手交代に失敗して敗れた試合もある。

 しかし、彼の交代や試合途中の修正が良い結果に反映されるのが大多数だ。

 今季のアストン・ヴィラはリーグ戦で挙げた9勝のうち、7勝が1点差による勝利。

 6位に終わった昨季のプレミアリーグも得失点がトップハーフでは最少タイの「+7」しかなかったことからもわかるように、最少失点差でも勝利を重ねるのはエメリの采配力によるものが大きい。

 さて、アーセナルとアストン・ヴィラの次回の対戦はエミレーツ・スタジアムで現地時間12月30日に行われる。



 アーセナルはブライトンとのホームゲームから中2日、アストン・ヴィラはアウェイのチェルシー戦から中2日で行われる。

 移動的にはホーム2連戦となるアーセナルが有利ではあるが、スケジュール的にはエメリが得意とする過密日程。

 果たして、優勝争いに大きな影響を与えるであろう大一番で、勝利の女神はどちらに微笑むのだろうか。

 両監督の交代策に注目して、次回の対戦を見ると、さらに試合の面白さが増すかもしれない。

(文:安洋一郎)

【著者プロフィール:安洋一郎】
1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。現在は『フットボールチャンネル』をはじめ複数のwebメディアや欧州名鑑などに寄稿。12歳からアストン・ヴィラを応援し、プレミアリーグを中心に海外サッカー全般を追っている。Xアカウント:@yoichiro_yasu

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【了】

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