オリヴァー・グラスナーが監督に就任して以降のクリスタル・パレスは強豪とも引けを取らない好成績を収めている。今季も好調を維持しており、プレミアリーグ第16節終了時点では5位とクラブ史上初の1桁順位でのフィニッシュも十分に可能な位置につけている。ただ、順調な歩みを進めているように見えるが、実は多くの懸念点が存在する。(文:安洋一郎)[1/2ページ]
——————————
プレミアリーグをかき乱すクリスタル・パレス
クリスタル・パレスが2025/26シーズンのプレミアリーグをかき乱している。
ベストの状態における彼らの強さは“本物”と評して良いだろう。
2024/25シーズンのFAカップを制し、2025/26シーズン開幕前に行われたコミュニティ・シールドでも勝利。
10月のプレミアリーグ第7節エヴァートンで敗れるまでは、昨季から合わせて欧州5大リーグで最長となる公式戦19試合無敗を記録するなど、オリヴァー・グラスナー監督のチームは強豪さながらの成績を収めた。
その後リーグで4敗を喫したが、首位アーセナルに次ぐ失点数の少ない堅守を武器に着実に勝ち点を積み上げている。
第16節終了時点ではプレミアリーグで5位に位置しており、クラブ史上初の1桁順位でのフィニッシュや初のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得が現実的な目標となりつつある。
2024年2月のグラスナー招聘からの躍進を見ると、クリスタル・パレスはクラブとして正しい方向に歩んでいるように見える。
しかし、現実は一歩間違えると崖の下に落ちても不思議ではない“綱渡り“のようなチーム状況にあるのだ。
なぜ好成績を収めているにも関わらず、クラブの状況としては不安定なのか。その理由について考察する。
負けた試合の共通点
今シーズンのクリスタル・パレスが喫した4敗の内訳を見ると、ある“傾向”が見えてくる。
その“傾向”とは、いずれもUEFAカンファレンスリーグ(UECL)から中2日で行われた試合であること。
UECLは10月に本戦が始まった。クリスタル・パレスの調子が一時的に落ちたタイミングと重なり、実際に中2日で行われた試合は1分4敗と未勝利に終わっている。
12月14日に行われたホームでのマンチェスター・シティ戦も、UECLのリーグフェーズ第5節から中2日だったこともあり、厳しい戦いを余儀なくされた。
今シーズンのクリスタル・パレスはクラブ史上初めて欧州カップ戦を戦っており、チームとして移動を伴うヨーロッパの過密日程に慣れていないことも苦戦の要因の一つだ。
しかし、過密日程になると顕著に成績が低下しているのは、今夏の移籍市場における準備不足と補強の失敗が最大の理由に挙げられる。
初めて、もしくは数年ぶりに欧州カップ戦出場権を獲得した従来のクラブであれば、それに見合う大型補強を行うのが一般的だ。
2023年夏のニューカッスル・ユナイテッドとアストン・ヴィラがその代表例だろう。
しかし、今夏のクリスタル・パレスはさまざまな要因があって、積極的な補強に動くことができなかった。
夏の移籍市場で積極的な補強ができなかった理由
今夏のクリスタル・パレスで大きな問題となっていたのが、共同オーナーの1人だったジョン・テクスター氏がオリンピック・リヨンの筆頭株主も兼任していたこと。
昨シーズンにクリスタル・パレスはFAカップで優勝したことでUEFAヨーロッパリーグ(EL)の出場権を獲得した。
しかし、リヨンも同大会に出場することから、UEFAの複数クラブ保有規則に違反するとして、欧州カップ戦出場権がはく奪される可能性があった。
6月にテクスター氏はクリスタル・パレスの株式をNFLのニューヨーク・ジェッツのオーナーであるウッディ・ジョンソン氏に売却したが、UEFAからの処分の内容は大きく変わらず。
最終的にはELではなく、UECLへの出場に変更となった。
これが正式に決定したのが8月11日であり、すでに移籍市場は終盤に差し掛かるタイミングだった。
欧州カップ戦出場の有無問題に加え、敏腕スポーツ・ディレクター(SD)として知られていたドギー・フリードマンが3月に同職を退任していたこともマイナスに響いた。
フリードマン元SDは、エベレチ・エゼ(現アーセナル)やミカエル・オリーズ(現バイエルン・ミュンヘン)、アダム・ウォートンら将来有望な選手の獲得に関わったことで知られる。
グラスナー監督を招聘したのも彼の手腕だった。
しかし、『The Guardian』によると、昨季の冬の移籍市場で移籍予算が限定的だったことから、スティーブ・パリッシュ会長らと意見が分かれたそうで、今年3月にクリスタル・パレスのSDを退任していた。
問題は彼の後任をすぐに据えなかったことである。

