オリヴァー・グラスナーが監督に就任して以降のクリスタル・パレスは強豪とも引けを取らない好成績を収めている。今季も好調を維持しており、プレミアリーグ第16節終了時点では5位とクラブ史上初の1桁順位でのフィニッシュも十分に可能な位置につけている。ただ、順調な歩みを進めているように見えるが、実は多くの懸念点が存在する。(文:安洋一郎)[2/2ページ]
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進まないスカッド強化。選手個々への負担は増加
夏の移籍市場ではチームの“設計図“の役割を担うSDが不在のまま、スカッドの強化が進んでいた。
欧州カップ戦出場の有無が決まっていない問題とSD不在の影響で、選手獲得の交渉に後手を踏むことに。
最終的にはエゼのアーセナル移籍が決まった8月23日以降の移籍市場最終盤にMFジェレミー・ピノ、FWクリスタントゥス・ウチェ、DFジェイディー・カンボの獲得が決定した。
しかし、これらの補強でチームの選手層が厚くなったとは言えないだろう。
7月に加入が決まっていたGKワルテル・ベニテスとDFボルナ・ソサを含めた5人の新戦力でスタメンに定着しているのは、新たに背番号10を背負うピノしかいない。
UECLを含めてピノを除く新戦力の出番はかなり限定的であり、結果的にリーグ戦でスタメン出場が続くメンバーが欧州カップ戦でも同じように起用されている。
すなわちグラスナー監督が信頼して起用することができる選手が13、4人しかおらず、特定のメンバーばかりに負担がかかる状況に陥っているのだ。
結果的にクリスタル・パレスは、“編成の失敗”からプレミアリーグで最も選手の入れ替えが少ないチームとなり、現在は過密日程の影響もあってDFダニエル・ムニョスやFWイスマイラ・サール(第16節に復帰)ら主力に怪我人が続出している。
第16節マンチェスター・シティ戦では鎌田大地がハムストリングを痛めて負傷交代を余儀なくされた。
特にチームに致命的なダメージを与えているのがムニョスの離脱である。
開幕戦から全公式戦で先発出場を続けていたムニョスは、プレミアリーグ第15節フラム戦を膝の負傷が原因で欠場。グラスナー監督は12月10日の記者会見で4~6週間の離脱になると明かした。
このコロンビア代表DFはプレミアリーグ第14節まで1試合平均14.4kmという驚異的な走行距離を記録している。
2番目に多いボーンマスのDFアドリエン・トリュフォーで13km、3番目に多いニューカッスルのティノ・リヴラメントが11.9kmであることを踏まえると、彼は飛びぬけて多い豊富な運動量を誇っていた。
しかし、これだけチームへの貢献度が高い選手が離脱をするとなればダメージは大きい。
「節約ではなく投資すべきだった」
フラム戦では4月2日のサウサンプトン戦以来の先発起用となったナサニエル・クラインが守備で奮闘したが、ムニョスのように幅を使った攻撃参加で違いを作ることはできていない。
コロンビア代表DFは左WBのタイリック・ミッチェルと共にグラスナー監督の[3-4-2-1]の戦術的なキーマンであり、同じような役割を担える代役が1人もいないのは問題だろう。
グラスナーからするとムニョスの代役となる選手はいないも同然であり、これらは全て編成に責任がある。
これだけ走るムニョスの控えとなる選手を夏の移籍市場で加えなかったことが彼の過労に繋がっており、フロントの手腕次第ではこのタイミングでの離脱を防ぐことができたかもしれない。
グラスナー監督は後半に2点を決められて逆転負けを喫したプレミアリーグ第13節マンチェスター・ユナイテッド戦後の記者会見でこうコメントした。
「欧州サッカーで初めて歴史的な舞台に立つ時こそ、節約ではなく投資すべきだった。我々は節約した結果、今この状況に直面している」
「夏の移籍市場でチームの層を厚くする機会を逃した。スケジュールは把握していたし、イスマイラ・サールがアフリカネイションズカップに参加することも分かっていた。驚くべきことに、何も起こらなかった」
グラスナー監督が公の場でフロントへの不満を述べたことはポジティブではないだろう。
鎌田大地含め、主力大量放出の恐れも…
彼はヴォルフスブルクとフランクフルト時代にフロントとの摩擦で短期政権に終わった過去があり、現時点で契約は今季終了までとなっている。
契約満了が間近に迫っているのはオーストリア人指揮官だけではない。
今夏にリヴァプールへの移籍が迫っていた主将のマーク・グエイは、契約延長をすることなく2026年夏にフリーで退団することが決定的となっている。
グラスナー監督の誘いでクリスタル・パレスに加入した鎌田大地も今季終了までの契約であり、2027年夏までの契約を結ぶエースのジャン=フィリップ・マテタとの契約延長交渉も停滞している。
監督と主力選手の慰留に大きな責任を背負うのが新SDのマット・ホッブス氏だ。
今夏までウォルバーハンプトン・ワンダラーズでSDを務めていたイングランド人は、10月にクリスタル・パレスと契約した。
しかし、現時点の契約期間は冬の移籍市場までの短期間だとされており、あくまでも目の前のマーケットに目を向けた応急処置のような人事に過ぎない。
仮に冬の移籍市場でホッブスが成果を残せば長期的な契約を結ぶかもしれないが、現時点で足りていないポジションに選手を加えるだけでなく、監督や主力選手の慰留など、取り組まなければいけない問題が多い。
間もなくクリスタル・パレスにとって、最も重要な移籍市場が始まる。
ここから約1ヶ月の立ち振る舞いが、クラブの未来を占うことになるだろう。
(文:安洋一郎)
【著者プロフィール:安洋一郎】
1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。現在は『フットボールチャンネル』をはじめ複数のwebメディアや欧州名鑑などに寄稿。12歳からアストン・ヴィラを応援し、プレミアリーグを中心に海外サッカー全般を追っている。Xアカウント:@yoichiro_yasu
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