京都大会を制し、3大会連続の出場を決めた京都橘イレブン【写真提供:京都橘】
第104回全国高校サッカー選手権大会が12月28日に開幕する。小屋松知哉や岩崎悠人など多くのJリーガーを輩出してきた京都橘は、12度目の挑戦で悲願の頂点を目指す。チームをバックアップするのがスペイン1部リーグで日本人初のプロトレーナーとして活動した株式会社Amistad社長の山田晃広氏だ。2001年の創部以来、チームを基礎から作り上げてきた米澤一成監督と強力なタッグを組み、高校サッカー界に新風を吹き込んでいる。(取材・文:北川信行)[1/2ページ]
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全国優勝を目指すために必要だった取り組み「日本の高校レベルではたぶん初めて」
京都橘の練習拠点は、2022年に完成した「KYOTO TACHIBANA スタジアム」(京都市山科区)。人工芝のサッカーコート1面、フットサルコート2面に夜間照明も備えた最新の施設だ。
米澤監督はこれまでとの変化についてこう話す。
「以前は京都市内の土のグラウンドを借りて練習していました。雨が降ったらグラウンドが使えなくなるので、まったく練習ができないこともありました。自前のグラウンドでコンスタントに練習できるのは大きな変化だと思います。でこぼこした土から人工芝に変わり、選手の技術的な面での上達もだいぶ変わったと思います」
そして、2階建てのクラブハウスには整骨院を併設。山田社長のネットワークを通じて知り合い、応援スポンサーに名を連ねる「まいれ整骨院グループ」(滋賀県大津市)のスポーツトレーナーがほぼ常駐する。
「設計のところから自由にさせてもらい、その中の一つにトレーナー室をつくりたいというのがありました。トレーナーに常駐してもらい、その日に起こったことを日々、解決していく。そうしないと良いトレーニングができないと思ったからです。
選手がけがをしたときにどうするかというのも一つですし、もう一つはけがをしないようにするということ。体のケア、コンディションを整える必要がある。せっかく『箱』ができるので、(トレーナー室を)入れない手はないと思いました。それが選手の安心・安全にもつながります」
このように打ち明けた米澤監督は「ハードなトレーニングをするとけが人が出がちです。しかし、トレーナー室があることによって初期対応ができる。そうすると回復が早い。山田社長の紹介でチームドクターも近くにいます。大きなけがをしても早く回復することにつながっていると思います」と解説する。
一方、米澤監督の整骨院併設構想について山田社長は「最初に聞いたときは素晴らしい取り組みだと思いました。グラウンドの横にトレーナー室があって、ほぼ常勤の状態でトレーナーがいるというのは、日本の高校レベルではたぶん初めて。本気で全国優勝を目指すには、そういう状況じゃないといけないと思います」と評し、その効能を語った。
「けがへの対応もそうですが、トレーナーには選手と監督、コーチの間に入ってチューニングしていく役割もあります。急に先発メンバーから外れたり、逆に選ばれたり。そういった際の選手の心理状況などの情報を共有しやすくなったと思います」
「モデルにしているのは、世界でもトップトップのところ」。ユニークな施策の数々にある背景とは
京都大会を制し、3大会連続の出場を決めた京都橘【写真提供:京都橘】
京都橘ではトレーナーの常駐にかかる費用は部費でまかなっている。クラブとして前述の整骨院に定額を支払うことで、選手たちは自由に施術してもらえる環境だ。
以前はトレーニングなどでけがをした選手は帰宅後、自宅近くのかかりつけの整骨院などに通うのが一般的だった。
米澤監督は「要はグラウンドで起こることは基本的には、グラウンドで解決して帰らせたいと思っています。高校生ですから、帰宅後は勉強したり、早く回復するために就寝したりできるのが大きなポイントだと思います」と胸を張る。
京都橘は全国の高校に先駆けてユニホームに企業スポンサーをつけたり、有料のファンサイトを立ち上げたりしたことでも知られる。
ユニークな施策が次々と思い浮かぶ理由について尋ねると、米澤監督からはこんな答えが返ってきた。
「基本的にはヨーロッパをモデルにしているところがあります。ヨーロッパのクラブでのクラブハウスのあり方、チームのあり方みたいなところを参考にさせてもらっています。それを日本流にアレンジし、われわれができることをできる範囲でやっています」
その上で「モデルにしているのは、世界でもトップトップのところ」と強調する。
もちろん、高校生の選手にそれらの施策を落とし込み、理解させるには、それなりの工夫も必要だ。
例えば、スポンサーについても「どう協力してもらっているとか、お金の問題ではないです。『応援していただいている』という言い方をすると、選手にもわかりやすいと思います。『ユニホームの胸や背中に企業の名前をつけることは、責任が発生する』という話ももちろんして、それがプライドにならなければいけません」と説明する。
2021年には、ジュニアユース(中学生年代)のクラブチームを立ち上げた。そのチーム出身の選手も今回の選手権メンバーに名を連ねる。
「1期生が高校2年生。何人か登録メンバーに入っていますし、レギュラーで出ている選手もいます」と話す米澤監督自身が描く青写真の実現度はいまどのくらいまできているのだろうか。
「スペインとか経歴がすごすぎて、逆にうさんくさい」もう一人のキーパーソン・山田晃広社長のトレーナーとしての視点
オンラインで取材に応じるプロスポーツトレーナーの山田晃広社長【画像:スクリーンショット】
米澤監督に自身が描く青写真の実現度を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「もともと描いてあったものがあったので、それをなるべく具現化していくというか。理想に近い形にできないことももちろんありますが、それをアレンジしながらつくっていく。
選手にとって、地域にとって、サッカーにとってプラスになることができればと思っています。達成度?いろんなことが完成すると、次の目標が出てきます。ここまできたら、次のプランはこうという方が私の中では一番近いかなと思います」
一方、Jリーグや女子のWEリーグのクラブでもトレーナーを務めた経験のある山田社長は「自分たちにできるのは、けがとかフィジカルの部分だけじゃなく、本当に全国優勝というところを目標にやっています。価値を高めていくところから逆算して、足りないところを変えていきたいと思っています」と力説する。
「目標」を立て、そこにどう進んでいくか。山田社長はこう話す。
「3年前に施設が完成してハードのところはできたと思うので、あとはプロのトレーナーとして選手と監督、コーチとの間に入って認識のずれとかをなくしていくことだと思います」
今でこそ山田社長に全幅の信頼を寄せる米澤監督だが、知人を介して紹介してもらった当時の山田社長について「スペインとか経歴がすごすぎて、逆にうさんくさいと思いました」と冗談交じりに振り返る。
「腕はいいので。実績と実力があって本物。チームのこともできる本当に優秀なプロのトレーナーだと思います」
2人の関係の基盤となっているのは、ものの見方、着眼点だ。
