トッテナム・ホットスパーは2月11日、トーマス・フランク監督の解任を発表した。だが、指揮官を代えるだけで現状は好転するのだろうか。スパーズの低迷は偶発的なものではない。本稿では、その構造的な要因を考察する。(文:安洋一郎)[1/3ページ]
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トッテナム・ホットスパーがトーマス・フランクを解任
トッテナム・ホットスパーの監督は誰が適任なのだろうか。
2026年2月11日にトーマス・フランク監督の解任が発表された。
昨夏の監督就任時には予想もしていなかった解任劇だ。デンマーク人指揮官には、前所属のブレントフォード時代と同じような「長期政権」を築くことが期待されていたが、わずか8ヵ月でスパーズでの旅が終わった。
このタイミングで彼の職が解かれた理由は様々ある。最も深刻なのが極度の成績不振だろう。
プレミアリーグ第26節終了時点で降格圏まで勝ち点5ポイント差の16位に沈んでおり、18位ウェストハムが好調であることから本格的に残留争いに巻き込まれている。
直近のリーグ戦17試合ではわずか2勝。2026年は未勝利という絶不調であることから、このままでは降格の可能性が現実味を帯びている。内容面の改善が見られない以上、残り12試合での交代は必然だった。
他にもサポーターの士気を下げるような軽率な言動を繰り返してしまったことからホームの雰囲気は最悪に。前半終了時の大ブーイングは恒例となり、通常はアウェイのサポーターが唱える「朝にはクビだ!」というチャントがフランクに浴びせられたこともあった。
ピッチ上における選手たちの振る舞いを見ても人心掌握に失敗をしていた可能性が高く、ロッカールームの崩壊が容易に想像できるほど、チームとしての形を失っていた。
上記の通り、惨事とも言える現状のスパーズの低迷はフランクにも責任がある。怪我人続出という難しい状況であっても、もう少しやりようがあったように思う。
しかし、この成績不振は彼だけの責任ではないだろう。今回の解任によってスパーズが抱える「根本的な課題」が解決されるとは到底思えない。
監督交代で根本的な課題が解決できない根拠
スパーズは2021年以降だけで5人の監督をクビにしている。
この期間に同じだけ指揮官の交代(正式監督のみ。暫定は含まない)を行ったプレミアリーグのクラブはチェルシー、ノッティンガム・フォレスト、ウォルバーハンプトンの4チームしかない。
スパーズの問題は、これだけ頻繫に監督を代えたとしてもチームの状況があまり好転していないことである。むしろ年を追うごとに事態は深刻化しており、これまでの負の蓄積が現状を招いたとも言える。
この責任はどこにあるのか。答えはチームの土台である「フロント」だろう。
スパーズほど過去に率いた元監督から上層部に対して批判的なコメントが集まるクラブは珍しい。直近で解任された上記の5人のうち、ジョゼ・モウリーニョ、アントニオ・コンテ、アンジェ・ポステコグルーが公の場でクラブに苦言を呈している。
特に痛烈だったのがコンテだ。彼のラストマッチとなった2022/23シーズンのプレミアリーグ第28節サウサンプトン戦(3-3)後の記者会見では、解任覚悟で辛辣な発言を繰り返した。
「これがトッテナムの物語だ。20年、このオーナー(ダニエル・レヴィ前会長)でやってきて、一度も優勝したことがない。(中略)もしトッテナムが変わりたいと思うなら、今がそのタイミングだからだ。
この状況を変えるべき時なのだから、選手たちもこの状況に関わらなければならない。もしこのまま続けたいのであれば何度でも監督を代えればいい。でも、状況は絶対に変えられないだろう」
皮肉なことに「監督を代えても変わらない」というのは、今のスパーズの状況を表している。
ポステコグルー前体制で、昨季は17年ぶりのタイトルとなるUEFAヨーロッパリーグ(EL)優勝を飾ったが、最も重要なリーグ戦の成績は下がり続けている。
そして現在進行形で物議を醸しているのが、ポステコグルーの「スパーズはビッグクラブではない」という発言である。
元監督による“ビッグクラブではない“発言の真意
スパーズに久々のタイトルをもたらした前監督は、フランク解任の直後に収録されたポッドキャスト『The Overlap’s Stick to Football』に出演した際に、古巣スパーズに対して正直な意見を述べた。
彼は番組の中で「彼らは素晴らしいスタジアムを建設し、素晴らしいトレーニング施設も持っている。だが、クラブの支出、特に“給与体系“に目を向けると、彼らはビッグクラブとは言えない」と言及している。
この「給与体系」というのはスパーズが抱える大きな問題だ。
彼らは商業面で大きな成長をみせており、世界的な監査法人であるデロイト社が発表した2024/25シーズンの長者番付ランキングでは世界9位(6億7260万ユーロ)にランクインしている。
重要なのはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)に出場していないシーズンでもこれだけの収益を上げたということである。
これは2019年に開業したトッテナム・ホットスパー・スタジアムを筆頭に、レヴィ前会長が仕掛けたビジネス面での功績が大きい。
一方で、2023/24シーズンのトッテナムの給与総額対収益比率(収入に対する給与の比率。スタジアム建設における負債などは控除の対象になるため含まれない)は、サッカー部門だけでなくクラブ全体でわずか42%だった。
現在も50%~55%前後であることが予想(シーズン中なので正確な数値はわからない)され、UEFAが設ける上限70%(過去2シーズンで10%ずつ下げられており、現在の70%が最終的な目標数値)という水準を大きく下回ることが予想されている。
そのためスカッド・コスト・ルール(SCR)に抵触する可能性はない。
スパーズはトッテナム・ホットスパー・スタジアムの建設などにおいて多額の負債を抱えたが、帳簿上では黒字経営を続けている。いわゆる「健全経営」ができているクラブだ。
この「健全経営」というのは聞こえがいいかもしれないが、一方で組織としてリスクを冒していないと捉えることもできる。これはポステコグルーがポッドキャスト内でも指摘していた問題だ。
実際に他のプレミアリーグのライバルと給与総額対収益比率を比較すると、スパーズが圧倒的に低いのだ。



