今季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)でサプライズを起こすクラブがある。それがFKボデ/グリムトだ。リーグフェーズでマンチェスター・シティやアトレティコ・マドリードを倒しただけでなく、プレーオフではインテルに勝利。ラウンド16の1stレグでは、スポルティングCPを3-0で一蹴した。なぜ、これほどまでに強いのか、その秘密を探っていく。(文:佐藤徳和)[2/2ページ]
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ノルウェー代表も強化
昨年は、FIFAワールドカップ(W杯)欧州予選でも、ノルウェーが、主役を演じた。
6月のホームでの一戦ではイタリアを3-0で一蹴。11月に行われたサン・シーロでの第2戦では、リベンジに燃えたアッズーリに4-1で勝利し、返り討ちまで果たした。
直近の2大会で本大会出場を逃しているとはいえ、W杯4度の優勝を誇るイタリア代表に2戦2勝で計7得点。8試合全勝で、総得点は37得点。全グループの最高得点で2位のオランダに10得点差もつけている。
その、原動力となったのが“怪物”アーリング・ハーランド。たった一人で16ゴールをマーク。凄まじい破壊力を見せつけた。
かくして、1998年以来、28年ぶり4度目の本大会出場をもたらしたのだった。
FKボデ/グリムトも大躍進を遂げたノルウェーの選手が中心となり、構成されているが、ノルウェー代表として、11月のイタリア戦メンバーに名を連ねたのは2人、左SBフレドリク・ビェルカンとセントラルMFパトリック・ベルグだけである。
センターバックのヨーステイン・グンデルセンは6月の試合には招集されているが、11月の試合では名を連ねることはできなかった。多くが代表ではないノルウェー人選手によって、これだけクオリティーの高いチームに仕上がっていることは驚きである。
だが、W杯にはわずか3度、欧州選手権も2000年大会にしか出場していないこのノルウェーに、一体何が起きているのか。人口は約560万人。イタリアの人口(約5,900万人)の約10分の1にすぎない。
日本とは国土こそほぼ同じだが、人口(約1億2,000万人)はその約22分の1だ。東京都の人口(約1,400万人)と比べても半分以下でしかない。“怪物”ハーランドが生まれたのは、果たして偶然の産物なのだろうか。
イタリア国内で開催されたミラノ・コルティナ冬季五輪でも、赤地にインディゴブルーのスカンディナヴィア十字が描かれたノルウェー国旗が何度も掲げられた。
ノルウェーは金メダル18個を含む、計41個のメダルを獲得したのだ。その中心となったのが、ノルディックスキー界の“キング”、ヨハンネス・ヘスフロト・クレボである。
なぜノルウェーはスポーツで成功を収めるようになってきたのか
今大会ではスキーアスロン、スプリント・クラシカル、10キロ・フリー、30キロリレー、団体スプリント・フリー、50キロ・クラシカルと、全6種目を制覇。通算の金メダル数を11に伸ばした。
勾配のある坂道を平地のように駆け上がる姿は、まさに圧巻であった。ノルウェーが輩出した“怪物”は、ハーランドだけではないのだ。
冬季五輪におけるノルウェーのメダル総数は447(うち金メダル166)。2位のアメリカ(363、金メダル126)を大きく突き放し、堂々の首位に君臨している。
1年のうち5か月は雪がある冬季だけでなく、夏季においても素晴らしいアスリートを輩出している。
中距離選手、ヤコブ・インゲブリクトセンは、2020年東京オリンピック1500mと2024年パリ・オリンピック5000mで金メダルを獲得し、2000mと3000mの現世界記録保持者である。
では、なぜ、小国であるノルウェーが、これほどのスーパーアスリートを生み出せるのか。
転機は二つあった。一つは1987年。「スポーツにおける子どもの権利憲章」が制定されたことである。
ノルウェーでは、とにもかくにもスポーツは「楽しむこと」が重要であるとされている。
「性別、民族的出身、信仰、どのような性に魅力を感じるか、身体的発達、子どもおよびその親の障害の有無に関係なく」、誰もがスポーツをする権利を持つと文書によって明記されている。
実際、ノルウェーでは13歳までは成績や結果に関係するいかなるランキングや順位表の公表も禁止されている。
もう一つは、1989年の「オリンピアトッペン」の設立である。
ノルウェーから学ぶべきことも少なくない
首都オスロ近郊、ノルウェー体育大学に隣接するこの施設は、高性能トレーニングセンター、研究主導の組織、教育アカデミー、そして各競技連盟を結びつける戦略的ハブの役割を担っている。
日本のナショナルトレーニングセンターのような機能を持つだけでなく、各競技を支援し、コーチの育成にも力を注ぐなど、ノルウェー・スポーツを統括する中枢機関となっている。
1952年のオスロ大会に次ぐ、2度目のノルウェー開催となった1994年のリレハンメル冬季五輪以降、同国のメダル獲得数は飛躍的に増加している。
イタリアも、ノルウェーや日本のようなナショナルトレセンを備えており、アスリートを強化する施設は整っている。
五輪に限って言えば、夏季五輪は東京とパリで、2大会連続で自国の過去最多メダル数40を獲得。また地元開催となった冬季五輪では、北京での前回大会の17を大きく上回り、こちらも過去最多の30ものメダルを獲得しているのだ。
サッカーでも、フィレンツェ郊外のコヴェルチャーノにトレーニングセンターを持つ。少なくとも、“トレーニング”をするという環境に限っては、イタリアがそれほど他国に劣っているわけではない。
サッカー以外では、イタリアは近年、陸上、水泳、バレーボール、テニス、フェンシングなどといった競技で素晴らしい成績を残している。
サッカーが結果を出せないのは、やはり、指導方法に大きな問題があると言わざるを得ない。イタリアでは、幼い頃から戦術を指導者から押し付けられ、ときに、小学生以下でも、戦術が重視される。
『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト』のファビオ・リーカリ記者はこう訴える。
「選手たちは戦術や状況を暗記させられ、自由を奪われる。その結果、プレーは遅くなる。本来は自由を与え、無意識や本能を呼び起こすべきだ。それこそが創造性へと導かれる」
イタリアサッカー界の重鎮、ファビオ・カペッロも嘆く。
「技術を教える前に戦術を教えている。12歳になると、イタリアの子どもたちはすでに戦術をやっている。なぜ今、戦術なのか。まずはサッカーのABCを知るべきだ」
幼少期、あるいは10代前半の子どもたちにとって、スポーツにおいて「楽しむこと」がいかに重要であるか。イタリアが、近年サッカー界で躍進を遂げているノルウェーから学ぶべきことは少なくないだろう。
(文:佐藤徳和)
【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru
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