
アトレティコ・マドリードのアントワーヌ・グリーズマン【写真:Getty Images】
アトレティコ・マドリードは、コパ・デル・レイ準決勝でバルセロナを2戦合計4-3で下し、13シーズンぶりの決勝進出を果たした。かつて“裏切り者”のレッテルを貼られたアントワーヌ・グリーズマンは、再び赤白のシャツをまとい、タイトル獲得のチャンスを手にしている。アメリカ移籍の噂もささやかれる中、彼は愛するクラブでどんな結末を描くのだろうか。(文:佐藤彰太)[1/2ページ]
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安堵の表情を浮かべたアントワーヌ・グリーズマン
カンプ・ノウでバルセロナを下して歓喜するアトレティコ・マドリードの選手たち【写真:Getty Images】
タイムアップの笛が鳴った瞬間、カンプ・ノウのピッチに歓喜の輪が広がった。
ひたすら押し込まれる展開が続く中、アトレティコ・マドリードは1点のリードを死守。13シーズンぶりとなるコパ・デル・レイのファイナルへ駒を進めた。
両チームの選手が試合終了と同時にピッチへ倒れ込む死闘の直後、アトレティコ在籍10シーズン目のアントワーヌ・グリーズマンは、スタンド上段に詰め込まれるように隔離されたコルチョネロス(アトレティコサポーターの愛称)と喜びを分かち合う。
その表情には、どこか安堵の色もにじんでいるように見えた。
というのも、グリーズマンにはメジャーリーグサッカー(MLS)に所属するオーランド・シティからオファーが届いていると報じられているからだ。
MLSの移籍マーケットは3月26日まで開いており、状況次第では今冬に退団する可能性も取り沙汰されていた。
しかしこの日、かつて在籍した古巣を相手に披露した老練なプレーは、まさにグリーズマンの真骨頂そのもの。
「グリーズマンとともにタイトルを獲得して有終の美を飾りたい」
多くのコルチョネロスがそう願ったことだろう。
英雄から一転、“裏切り者”へ…。
エスタディオ・メトロポリターノの正面に埋め込まれているアントワーヌ・グリーズマンのプレート【写真:編集部】
もっとも、このフランス人アタッカーが数年前まで、ホームのエスタディオ・メトロポリターノでブーイングの対象となっていた事実を忘れてはならない。
2019年夏、グリーズマンは宿敵バルセロナへの移籍を決断。この際、不正な事前交渉が行われていたことが明らかになると、クラブのアイドル的存在だったエースの人気は一気に地に落ちた。
グリーズマンのSNSのコメント欄には、スペインで侮辱を意味するネズミの絵文字が並び、強烈な反感が向けられた。
また、メトロポリターノの正面には、かつてクラブに在籍したレジェンドたちの功績を讃えるプレートが設置されており、その一角にはグリーズマンの名を刻んだプレートも並んでいた。
しかし、この“裏切り”移籍によって、彼のプレートは瞬く間にゴミを置かれるなどして汚されてしまった。
アトレティコで築き上げてきた栄光と信頼は、その瞬間、一気に崩れ去ったのである。
ある意味、それほどまでに愛されていたという証でもあるが、移籍後初めてバルサの選手としてメトロポリターノのピッチに立ったグリーズマンには、攻撃的なチャントが浴びせられるなど、コルチョネロスの憎悪は膨らむ一方だった。
だが、こうした反発を覚悟の上で踏み出したバルサでの挑戦は、わずか2年で終わりを迎えることになる。
アトレティコへの帰還。自ら示した存在価値
バルセロナではフィットしきれなかったアントワーヌ・グリーズマン【写真:Getty Images】
リオネル・メッシ主体のチームにおいて完全にフィットしきれず、財政難を抱えていたバルサが、高額なサラリーを受け取る同選手の放出を望んだのだ。
結局、バルサに2シーズン在籍して獲得したタイトルは20/21シーズンのコパ・デル・レイのみ。1億2000万ユーロ(約170億円)の移籍金で実現したビッグディールは、失敗の烙印を押されることとなってしまった。
失意のどん底に落ちたグリーズマンは、2021年8月31日、移籍市場最終日に2年間のローン移籍という形でアトレティコへの電撃復帰を決断。復帰初年度は公式戦36試合に出場して8ゴール7アシストを記録し、コンディションが万全ではない中でも、チームに一定の貢献を見せた。
しかし、ホームのメトロポリターノでは毎試合のように“裏切り者”へのブーイングが鳴り響き、決して歓迎ムードとは言えない状況が続いた。
また、契約には「出場可能な試合の50%以上で45分以上プレーした場合、4000万ユーロでの買い取り義務が発生」という条項が含まれており、アトレティコは費用対効果を考慮して、復帰2シーズン目の序盤には60分以降の限定的な起用を続けていた。
この起用法に対しバルサは法的措置も検討したものの、結局値下げに応じ、シーズン途中の10月に2000万ユーロ(約28億円)の移籍金で完全移籍が成立した。
ようやく晴れてアトレティコの正式な一員となったグリーズマンは、そのシーズンに公式戦48試合で16ゴール19アシストを記録し、自身の価値を証明。さらに献身的なハードワークでクラブへの忠誠心を示し、次第にコルチョネロスの心を動かした。