5月22日、イングランド代表がFIFAワールドカップ(W杯)北中米大会のメンバーを発表した。その中に、フィル・フォーデン、コール・パーマー、ハリー・マグワイアの名前はなかった。なぜ、トーマス・トゥヘル監督は彼らをメンバーから外したのか。その理由を、指揮官の言葉から考察する。(文:安洋一郎)[2/2ページ]
パーマーとフォーデンが選外となった理由
W杯に向けて最も注目を集めていたのが、トップ下のポジション争いだった。
最終的に、その争いを制したのはMFジュード・ベリンガム、MFモーガン・ロジャーズ、FWエベレチ・エゼ。フォーデン、パーマー、MFモーガン・ギブス=ホワイトは選外となった。
予選で最も起用されたロジャーズは、中央でプレーしながらも推進力、走力、守備強度を兼ね備えており、トゥヘルが求める「フィジカルベースのトップ下」に最も近い存在だった。
ベリンガムも技巧派でありながら、球際の強さ、守備強度、トランジション能力の全てが高水準にある。
一方、フォーデンとパーマーがW杯行きを逃した理由は明確だ。
トゥヘルは、彼らを「中央で違いを作る選手」として位置付けていた。
両者とも負傷の影響で、クラブで本調子を取り戻せず、代表でも十分なパフォーマンスを示せなかった。フォーデンは予選4試合、パーマーは1試合のみの出場に終わり、指揮官を説得するには至らなかった。
もちろん、監督によっては彼らをワイドで起用する選択肢もある。実際、ガレス・サウスゲート体制では、左WGや右WGでプレーしていた。
ただ、トゥヘルは「本来のポジションとは異なる場所でプレーさせることにも反対」というスタンスを明確にしている。
彼らのように、スピードよりテクニックを武器とする選手を、純粋なワイドアタッカーとして使う考えはなかった。
トゥヘルがワイドに求める資質
実際、フォーデンは現体制初戦となったアルバニア戦で右WGに起用されている。
しかし試合後、トゥヘルの評価は厳しかった。
「ウインガーとして、もっとインパクトが欲しかった。もっとドリブルやボックスへのアグレッシブなランが必要だった」
さらに、「少しパスが多すぎた。ボールを運んで仕掛ける場面や、ゴールへ向かう積極性が不足していた」とも語っており、ワイドの選手に求める資質との差を指摘していた。
その後、トゥヘルはフォーデンやパーマーを中央以外で起用していない。
結果として右WGでは、ブカヨ・サカやノニ・マドゥエケのように、単騎でボックス内まで運べる推進力型のアタッカーが重用された。
左WGでも同様で、アンソニー・ゴードンとマーカス・ラッシュフォードというドリブラータイプが選出されている。
ワイドにスピードや馬力を求める考え方は、SBにも共通している。トゥヘルは、クラブで決して好調とは言えないDFジェド・スペンスについても、「スピードと1対1の守備」を高く評価していた。
予想外の復帰を果たした“3人目のストライカー”
ここまでの選考基準を振り返ると、トゥヘルは“W杯直前のスター選考”ではなく、「予選を戦ったチーム」をそのまま本大会へ持ち込む決断を下したと言える。
そんな中、サプライズ選出となったのがFWアイヴァン・トニーだった。
結果的に選ばれたストライカーは、主将のFWハリー・ケイン、12月以降のプレミアリーグで最多13ゴールを記録しているオリー・ワトキンス、そしてサウジアラビアで得点を量産するトニーの3人となった。
この3人はいずれもユーロ2024メンバーであり、それぞれ異なる特徴を持つ。
ケインは中盤に下がってゲームメイクにも関与する現代型CF。ワトキンスは裏抜けやオフザボールで周囲にスペースを生み出し、守備でも貢献できる。そしてトニーは、高さとシュート技術を武器にゴール前で価値を発揮する典型的なボックスストライカーだ。
役割が明確に分かれているからこそ、トゥヘルも状況に応じた使い分けを想定しているはずだ。
プレミアリーグ年間最優秀選手賞にノミネートされたギブス=ホワイトや、エヴァートンの年間最優秀選手に選ばれたMFジェームズ・ガーナーら、好調を維持していた選手たちの落選には驚きもあった。
ただ、トゥヘルのコンセプトや選考理由を整理すると、今回の人選には明確な一貫性がある。
この26名が発表された時点で、イングランド代表のポジション争いはほぼ終わったと言っていい。
競争が残るのは、トップ下のベリンガムとロジャーズ、そして左WGのゴードンとラッシュフォード程度で、本大会では、基本的にほぼ固定メンバーで大会を戦う可能性が高い。
ベンチから流れを変える選手、試合を締める選手、ピッチ内外でリーダーシップを発揮するベテラン。それぞれの役割が整理されており、非常にバランスの取れた構成になっている。
選手のネームバリューを優先した結果、組織として機能不全に陥った前体制から脱却するためのトゥヘル招聘だった。そう考えれば、今回のメンバー選考には大きな期待を抱かせるものがある。
外国人指揮官として招かれたトゥヘルは「足し算」ではなく「引き算」を選んだ。フォーデンを外し、パーマーを外し、マグワイアを外した。
才能が足りなかったわけではない。むしろ逆だ。彼らは、あまりにも有名で、あまりにも優秀だった。
その結果、イングランド代表は長年、「全員をどう共存させるか」という難題を抱え続けてきた。
トゥヘルが優先したのは、共存ではなく機能性だった。
「中央の選手は中央で使う」
「ウイングには推進力を求める」
「最終ラインには機動力を求める」
そこに例外はなかった。
確かに、オールスター感は薄い。個の才能を並べるのではなく、役割と強度で構築されたこのチームは、良くも悪くも“イングランド代表らしくない”。
だが、だからこそスリーライオンズは、1966年以来となる世界制覇に最も近づいているのかもしれない。
(文:安洋一郎)
【著者プロフィール:安洋一郎】
1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。現在は『フットボールチャンネル』をはじめ複数のwebメディアや欧州名鑑などに寄稿。12歳からアストン・ヴィラを応援し、プレミアリーグを中心に海外サッカー全般を追っている。Xアカウント:@yoichiro_yasu
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