「W杯のキーマンは誰か?」と問われた日本代表の選手たちは、例外なく同じ答えを返したという。サッカー日本代表 映画『ONE CREATURE』は、FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)に出場するチームの舞台裏を追ったドキュメンタリー作品だ。膨大な記録映像から見えてきたのは、戦術や個の能力だけでは説明できないチームの変化だった。なぜ選手たちは同じ答えにたどり着いたのか。映像に映し出された森保ジャパンの現在地について、岸 枢宇己監督と矢花宏太プロデューサーに聞いた。(取材・文:高橋大地)[2/2ページ]
森保一監督がコミュニケーション面で意識していること
――映画でも描かれていましたが、鎌田大地選手がキャプテンマークを巻いたシーンも印象的でした。これまでのイメージとは少し違うようにも感じましたが、チームに変化はあったのでしょうか。
岸:鎌田選手がキャプテンになったことで何かが変わったというよりは、「遠藤選手以外もキャプテンになれる」というメッセージだったと思います。
誰だってキャプテンになり得る。常に自分もチームリーダーなんだという意識を持ちなさい、と。
実際に南野拓実選手もやりましたし、堂安選手も久保建英選手もやりました。映画ではたまたま鎌田選手を取り上げましたが、あれは鎌田選手自身の変化を描くためです。
キャプテン指名そのものは、チーム全員へのメッセージだったと思います。
――キャプテンという役職自体を利用して(森保監督が)チームマネジメントをしているような感覚ですね。
岸:「自分ごととしてチームを考えなさい」ということなんだと思います。
矢花:森保監督は選手に話しかけるタイミングもものすごく考えているんです。
食事中に話せばいいじゃないかと思うんですが、あえて食事が終わって選手が部屋へ戻ったあと、一番話が入るタイミングを選ぶ。しかも選手から来るのを待つのではなく、自分から行く。
そうすると言葉が刺さるんだそうです。そこまで考えていると聞くと、本当にすごいなと思いますね。
――映画を通して、堂安選手の言葉には、“夢”というより、“世界で勝つための現実”を見据えている印象がありました。制作側の堂安選手に対する印象は変わりましたか?
岸:変わりましたね。本人も言っていましたけど、子どもの頃は『キャプテン翼』の大空翼みたいな10番に憧れていた。
でも現代サッカーでは、「今のサッカーで“何でもできる10番”なんて世界に5人くらいしかいない」と言うんです。リオネル・メッシ選手(アルゼンチン)など、本当に特別な選手だけ。日本人はまだその中には入っていない。
だからこそ、世界で勝つためには何が必要なのか。自分には何が足りないのかを日々考えている。そういう環境にいるから、ああいう現実的な考え方になっているんだろうなと思いました。
また、森保監督も、「実は、律はすごくリアリストなんだ」と言っていました。でも、そうじゃなかったらあれだけ守備を頑張れないですよ。(笑)
本人も「守備、楽しいです」と言っていましたし、でないと現代のWBは務まりませんよね。
――映画の中で特に印象に残ったのが、上田綺世選手の言葉でした。「(代表では)これまでやってきたことを削りながら代表でプレーしている」という趣旨の話がありました。映画全体としても、「個をどう束ねるか」ではなく、「個をどう発揮するか」を描いているように感じましたが、制作側から見て、日本代表における個と組織の関係はどう映りましたか。
岸:まさに森保監督が何度も言っていることなんです。「個を発揮してこその集団である」と。
集団のために個があるのではなく、まず個が輝きなさいと。その言葉をミーティングでも何度も繰り返していました。
だから選手たちはみんな悩んでいるんだと思います。自分を生かしながら人を生かす。
人を生かすためだけに自分がいるわけじゃない。上田選手の悩みはまさにそこなんじゃないでしょうか。
「俺は人を生かすためだけにプレーしているわけじゃないぞ」という。
矢花:上田選手のああいう言葉を聞いたことがないと、日本サッカー協会の方々も驚いていました。(上田選手が)悩みながらも成長している姿が見えて、とても魅力的でしたね。
「そのときに『ああ、このチームは本当に面白いな』と思いました」
――映画の中で本大会のキーマンについて聞くパートがありましたね。誰が主役か、みたいなことをあえて聞いていたのも意外でした。あの質問に対する答えは、予想と違いましたか。
矢花:自分は予想とは全然違う答えでした。誰に一番最初に聞いたんでしたっけ?
岸:最初に聞いた鎌田選手が、「全員です」って答えたんですよ。鎌田選手が全員って言うの?と思いました。そしたら次の選手も全員。また次も全員。この調子だとみんな全員って言うなと思ったんです。
――それだけチームの中で共通認識ができていたということなんでしょうね。
矢花:「全員って答えない人いるんですか?」って聞いた選手もいましたよね?
岸:三笘選手ですね。三笘選手も全員と答えたんですけど、「これ、みんなに聞いてるんですか?」って聞かれて。「はい」と答えたら、「全員って言わなかった人います?」って。
「いないですね」と答えたら、「いるとしたら律は言うんじゃないですか?」って言われたんですよ。そのときはまだ堂安選手の取材前だったので、「ああ、確かに言いそうだな」と思ったんです。
でも実際に堂安選手に聞いたら、やっぱり「全員です」だった。そのときに、「ああ、このチームは本当に一つなんだな」と思いましたね。
現代サッカーを支えているのはコンディション
――全員といえば、映画ではスタッフにもフォーカスしていたシーンが印象的でした。なかでも、名だたるレジェンドコーチ陣を差し置いて松本良一フィジカルコーチにフォーカスしていたのも印象的でした。松本コーチにフォーカスした理由は何かあったのでしょうか?
岸:事前にいろいろなコーチの方々に、撮影なしでお話を聞かせていただいたんです。
その中で松本コーチのお話を聞いて、やっぱり現代サッカーはとにかく走るスポーツなんだなと改めて感じました。
しかも今は移動も多い。特にヨーロッパでプレーしている選手たちは時差もありますし、本当にコンディション管理が大事なんだな、と。
戦術を支えているのは、コンディションですよね。
『ONE CREATURE』というタイトルにもつながるんですけど、今の日本代表って、11人が絶え間なく動き続けているから成立しているんです。サボっている選手が一人もいない。
それって、選手全員のコンディションが良い状態じゃないと成立しないと思うんです。
だから、この“ワンクリーチャー”を支えている大事な要素のひとつが、一人ひとりの状態の良さなんです。
その状態の良さをコントロールしているのは誰なんだろうと考えたときに、松本コーチの話を聞いてみたいと思いました。
矢花:2025年の5月に、森保監督やチームスタッフの皆さんに、「こういう映画を作りたいので協力してください」というプレゼンをしたんです。
その後、5月末から6月初旬くらいに岸さんたちが松本さんへ取材したんですが、その時点で、「松本さんはキーマンだ」という話になっていたんですよね。
それが結果的に、この映画の物語のコアというか、骨格になった感じはあります。今振り返ってもそう思います。
――改めて現代サッカー、特に代表チームにおいて、フィジカルコーチって本当に重要なんだなと再確認しました。映画の中でも、森保監督がオンライン会議のときに「まっちゃん、今そっち何時?」「いいよ、休んで」と松本コーチを気遣う場面がありましたよね。
岸:松本コーチのコンディションが悪くなったら困りますからね。まずは松本コーチが元気じゃないと。(笑)
――最後に、この映画を通して描かれていた「ONE CREATURE」というタイトルについて伺いたいです。ひとつの生き物として日本代表を捉えるというのが、この作品の大きなテーマだと思います。
つまり『ONE CREATURE』とは、「ひとつになること」だけではなく、「状況に応じて姿を変えながら生き続ける組織」という意味合いでもあるのでしょうか。
そして今後のワールドカップに向けて、この日本代表がさらに進化していくための鍵はどこにあると見ていますか。
岸:単純な連係や連動という部分は、これまでの大会でもある程度できていたと思うんです。
ただ、この3〜4年で進化した部分があるとすれば、遠藤キャプテンも言っていたように、「状況や相手に合わせて変化できること」なんだと思います。
連係や連動ができるだけではなくて、状況に応じて姿を変えられること。それが森保監督が続投したことで可能になった、今の日本代表の強みなんじゃないかと。
例えば、引いて守る相手に対しても、これまでと同じやり方ではなく、姿、形を変えながら攻略していく。そういう変化ができるかどうか。そこは僕自身すごく楽しみにしていますし、ぜひそうなってほしいと思っています。
4年前とは、また違う姿が見られたらうれしいですね。
矢花:僕は、選手にとっても、見ている側にも「記憶に残る大会」になったらいいなと思うんです。
もちろん結果が最高ならそれが一番ですけど、結果以上に、「森保監督が良かったな」とか「遠藤選手が頑張ったな」と、この映画を通して、そういう断片が少しでも伝わったらうれしいですね。
――もしかすると、1戦1戦まったく違う日本代表の姿が観れるかもしれないですね。本日はお忙しいところありがとうございました!
【著者プロフィール:高橋大地(たかはし・だいち)】
1988年7月生まれ、東京都出身。株式会社カンゼンWEB局編集局長。WEBサイトおよび書籍の編集者として活動し、『ジュニアサッカーを応援しよう!WEB』編集長、『競馬チャンネル』初代編集長、『ベースボールチャンネル』編集長などを歴任。サッカーをはじめとするスポーツ分野を中心に、編集・取材・執筆を行う。週末は少年サッカーの現場でボランティアコーチとして活動。育成年代のスポーツ環境づくりや地域スポーツの普及・発信にも取り組んでいる
【作品概要】
タイトル:SAMURAI BLUE Project for FIFA World Cup 2026™『ONE CREATURE』無数の個性、ひとつの生きもの。
公開日:6月5日(金)全国公開
配給:東映
【サッカー日本代表 映画『ONE CREATURE』オリジナルタオルプレゼントキャンペーン実施中】
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例:堂安律選手、長谷部誠コーチ、全員 etc…
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