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イングランド代表がハーランドを封じることができた理由とは。ノルウェー代表戦の勝利を引き寄せたもの【北中米W杯分析コラム】

シリーズ:コラム text by 安洋一郎 フリーライター photo by Getty Images
イングランド代表対ノルウェー代表
イングランド代表対ノルウェー代表の模様【写真:Getty Images】



 FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)準々決勝、イングランド代表vsノルウェー代表が現地時間12日に行われ、2-1でイングランド代表が勝利を収めた。しかし、トーマス・トゥヘル監督は試合後、「パフォーマンスには満足していない」と厳しい評価を下している。イングランド代表は、なぜ苦しみながらも勝利を手にできたのか。その勝因を戦術面と選手層の両面から読み解く。(文:安洋一郎)[2/2ページ]

ハーランドを活かす選手の負傷も大きな痛手に

ユリアン・リエルソン
負傷したノルウェー代表DFユリアン・リエルソン【写真:Getty Images】


 ただ、それでも2本のシュートを打たれている。その流れを整理すると、いずれもノルウェーが流れを掴んでいた時間帯だった。

 1本目はノルウェーが前半のハイドレーション後に、それまで受けていたイングランドのプレスを外す形で、中盤のサンデル・ベルゲを最終ライン付近に下げることから生まれた。

 パトリック・ベルグやウーデゴールも流動的になることで相手のプレスを巧みに外し、その流れから右SBユリアン・リエルソンの大外のクロスをハーランドが頭で合わせている。

 2本目はセットプレー崩れが起点となり、再びリエルソンが右の大外から入れた長いクロスをクロスハーランドが頭で合わせた。

 しかし、ノルウェーにアクシデントが起こった。それが2本目のシュートシーンが生まれた数分後の60分にリエルソンが負傷交代してしまったことである。

 彼の代わりに投入されたアースゴールは、本職が中盤の選手であり、ブラジル戦では保持の質を高めるためのパスワークやキープ、ポジショニングでの貢献度をみせた選手だ。

 しかし、この試合でイングランドに対して有効だった大外からのクロスで質を出せる選手ではなく、リエルソンの負傷交代はハーランドへの最大の供給源が途絶えるに等しかった。

 ただ、上記の2つのシーンよりもハーランドにシュートを打たせなければいけない場面があった。

勝負の明暗を分けたシーン

イングランド代表DFジョン・ストーンズ
イングランド代表DFジョン・ストーンズ【写真:Getty Images】


 44分、ノルウェーが自陣でイングランドからボールを奪うと、ベルグとウーデゴールの連係で一気に前へ。ハイラインの背後を突く形で、右WGのセルロートに絶好のスルーパスが出た。

 この時点でノルウェーはセルロートとハーランドの2人だったのに対し、イングランドはCBのストーンズの1人のみ。明確に2-1という数的優位の展開だった。

 この場面でストーンズがベテランらしい完ぺきな対応をみせる。ハーランドへのパスコースを徹底して封じることで、攻撃のスピードと判断を一瞬遅らせた。

 その結果セルロートはパスを出すタイミングを失い、他のイングランドの選手も帰陣したことでプレーの選択肢が限定的に。最終的には自ら左足を強引に振り抜く形でチャンスを失った。

 試合後にセルロートはこのシーンを「一度ボールをトラップして顔を上げると、ストーンズがそのパスをブロックしているのが見えた。それからもう一度トラップしたけど、それがうまくいかなかった。僕が彼にクリアをさせるのではなく、彼が自らクリアをするのを待っていたんだ」とコメント。

 続けて「あの状況で僕がやりたいのは、アーリングにセンターパスを送ることだけだ。でも、そのパスが通らないと感じたら、シュートを打つことになる」と振り返った。

 仮にこの場面でハーランドにラストパスが通っていれば、試合はまったく違う展開になっていたかもしれない。しかし、結果はカウンターを完結できず、イングランドが勝利に終わっており、要所で個人の能力の差が出たと言える。

両軍の間にあった選手層の差

イングランド代表MFジュード・ベリンガムとモーガン・ロジャーズ
イングランド代表MFジュード・ベリンガムとモーガン・ロジャーズ【写真:Getty Images】


 もう1つイングランドに勝因があったとすれば選手層の厚さだ。

 この試合は先述した通り、過酷な環境下での試合となり、両チームともに余裕がなかった。延長戦の前半後に交代となったハーランドも痙攣を起こしており、各選手の疲弊は明らかだった。

 そうした消耗戦の中で勝敗を分けたのが計算できる選手の数の違いだろう。

 イングランドは体調不良明けのデクラン・ライスをハーフタイムで下げなければいけないアクシデントに見舞われ、右SBで先発出場していたエズリ・コンサもハムストリングの違和感を訴えてベンチに下がった。

 それでも交代策を有効活用しながら失いかけた流れを徐々に取り戻した。

 延長前半戦の決勝点は途中出場のモーガン・ロジャーズのミドルシュートのこぼれ球から生まれ、後半に一度はPKとジャッジされた場面も同じく途中出場のジェド・スペンスのドリブルが起点となった。

 負傷明けのリース・ジェームズも試合途中からボランチと右SBでチームのピンチを助け、まさに総力戦という戦い方で勝利に導いた。

 一方のノルウェーは疲弊しきったハーランドを延長前半まで変えることができず、途中出場のヌサやボブもイングランドのフレッシュなSB陣を相手に優位に立てなかった。

 トゥヘル監督は試合内容に不満を口にした。

 しかし、指揮官が理想とするパフォーマンスには届かなかったとしても、勝負どころで世界最高峰のストライカーを封じ、交代選手が違いを生み出して勝ち切った事実は揺るがない。

 悲願の優勝に向けては残り2勝。準決勝で対戦するアルゼンチン代表は、リオネル・メッシを頂点にドラマチックな試合で勝ってきた。

 過酷な環境の中で総力戦を勝ち抜いてきた両国が激突する準決勝。21年ぶりとなる因縁の「フォークランド・ダービー」は、今大会屈指の名勝負となる可能性を秘めている。

(文:安洋一郎)

【著者プロフィール:安洋一郎】
1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。現在は『フットボールチャンネル』をはじめ複数のwebメディアや欧州名鑑などに寄稿。12歳からアストン・ヴィラを応援し、プレミアリーグを中心に海外サッカー全般を追っている。Xアカウント:@yoichiro_yasu

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