フットボールチャンネル

なぜイングランド代表は逆転負けを喫したのか。トゥヘル采配が招いた誤算【北中米W杯分析コラム】

シリーズ:分析コラム text by 安洋一郎 フリーライター photo by Getty Images
イングランド代表

【写真:Getty Images】



 FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)準決勝、イングランド代表vsアルゼンチン代表が現地時間16日に行われ、2-1でアルゼンチン代表が勝利を収めた。しかし、84分までリードしていたのはイングランドだった。なぜ、トーマス・トゥヘル監督のチームは、試合終盤に2点を決められて逆転負けを喫したのだろうか。(文:安洋一郎)[2/2ページ]

勝敗を分けた72分の交代策

リオネル・メッシ
リオネル・メッシとマッチアップしたイングランド代表【写真:Getty Images】


 イングランド代表からすると、5バックでリードを守り切ろうという采配そのものは選択肢にあって良いだろう。

 しかし、試合終盤に強いアルゼンチン戦に限ると、その采配を決断したのがあまりに早すぎたと言えるかもしれない。

 アルゼンチンが64分にアンカーのレアンドロ・パレデスをベンチに下げて、左WGのニコ・ゴンザレスを投入してから、左右に揺さぶりをかけながらイングランドのゴールに迫る展開を増やしていた。

 この状況を受けて、トゥヘル監督は後半のハイドレーションブレイク明けに左WGアンソニー・ゴードンに代えて、CBエズリ・コンサを投入。コンサを右CBとして起用し、ハリー・ケインとジュード・ベリンガムを前に残す[5-3-2]でブロックを組んだ。

 しかし、これは守備を安定させるどころか、逆効果となる采配だったと言わざるを得ない。

 5バックにしたことで最終ラインの人数こそ増やしたが、中盤を3枚としたことで、アルゼンチンの左右の揺さぶりに対してスライドが追いつかないという状況が生まれた。

 75分にアルゼンチン代表MFロドリゴ・デ・ポールが左IHのデクラン・ライスの脇のスペースからフリーでボックス内にクロスを送ると、MFアレクシス・マクアリステルが頭で合わせたシュートが左ポストに直撃した。

 そのおよそ40秒後にも同じような形から枠内シュートを浴びており、クロスの出し手にプレッシャーが掛からないことを逆手に猛攻を仕掛けられた。

最後までアルゼンチンの勢いを止められず


同点ゴールを決めたエンソ・フェルナンデス【写真:Getty Images】


 選手交代で[5-3-2]にしたことからよりアルゼンチンに押し込まれたイングランドは、82分のバーンとニコ・オライリーの投入でシステムを[5-4-1]に修正する。よりクロスの出し手へのプレッシャーを強める形へ切り替えた。

 しかし、アルゼンチンの勢いを押し返すことができなかった。

 もう一つの明確な敗因が、ブロックの外側でボールを受けるようになったメッシを全く止めることができなかったこと。今大会で得点ランキング1位を走る背番号10は、特に試合の最終盤に年下のイングランドの選手たちを圧巻の技術で翻弄し続けた。

 84分にショートコーナーからリオネル・メッシに3枚が引きつけられたところを、フリーのMFエンソ・フェルナンデスにパスを出されてミドルシュートを叩き込まれて同点に。

 同点に追いつかれるとスタジアム全体がアルゼンチンムードに包まれ、90+1分にメッシの縦突破からのクロスをボックス内でラウタロ・マルティネスに合わせられて逆転を許した。

 この試合にイングランドの勝機がなかったわけではない。ただ、前掛かりとなったアルゼンチン相手にラッシュフォードら攻撃的な選手を投入して2点目を取りに行くのではなく、72分から5バックにして1点を守り切ろうという采配を決断したことで、その可能性は大きく低下した。

 結果的に1966年大会以来のW杯優勝の可能性は途絶えたが、代表チームでは初の国際大会の指揮となったトゥヘル監督にとっても大きな経験となったはずだ。

 トゥヘル政権は、契約が残る2年後のユーロ(欧州選手権)まで続く見通しだ。

 今回の敗戦で露呈した「試合を締めくくる戦い方」の引き出しを増やすことができれば、自ずとタイトル獲得に近づくだろう。一方、高所や猛暑といった過酷な環境の中でベスト4まで勝ち進んだこと自体は、十分評価されるべき成果だった。

 あと一歩届かなかった今大会の経験を、真の強さへと昇華できるか。トゥヘル率いるイングランド代表の真価が問われるのは、ここからだ。

(文:安洋一郎)

【著者プロフィール:安洋一郎】
1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。現在は『フットボールチャンネル』をはじめ複数のwebメディアや欧州名鑑などに寄稿。12歳からアストン・ヴィラを応援し、プレミアリーグを中心に海外サッカー全般を追っている。Xアカウント:@yoichiro_yasu

【関連記事】
【決勝トーナメント表】FIFAワールドカップ2026 組み合わせ一覧
あまりに酷すぎる…。北中米W杯、最悪のチーム5選
【全試合日程・放送予定の一覧】FIFAワールドカップ2026

『フットボールチャンネル』でサッカー最新情報を見よう!
いち早くチェックしたい方は下記リンクから↓↓


【了】

1 2

KANZENからのお知らせ

scroll top