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コラム 9時間前

なぜ今「デカくて蹴れるGK」が必要? プレミアの戦術変化が鈴木彩艶に追い風となる理由【コラム】

鈴木彩艶
鈴木彩艶【写真:Getty Images】



 日本代表GK鈴木彩艶が、パルマからアストン・ヴィラへ完全移籍した。近年のプレミアリーグでは、プレッシングの高度化によってGKからのロングボールが再び有効な攻撃手段になる一方、セットプレーの重要性が増したことで大型GKも改めて注目されている。鈴木が持つ特徴は、そんな現在のプレミアで起きている二つの変化と重なる。(文:金山悠吾)


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プレッシングの高度化でロングボールが再び重要に

ジョーダン・ピックフォード
ジョーダン・ピックフォード【写真:Getty Images】


 ここ10年ほどのプレミアでは、GKを含めて自陣から細かくつなぐスタイルが広がり、相手からプレッシャーを受けても正確にボールを扱えることは、トップレベルのGKに欠かせない能力になった。

 一方で、そのビルドアップを止めるプレッシングも進化している。

 相手GKまで高い位置からプレッシャーをかけ、ショートパスの逃げ道を消していく。プレッシングがより組織化されたことで、自陣ゴール前から細かくつなぎ続けるリスクも大きくなっている。

 そこで再び重要になっているのがロングボールだ。

 相手が前線から人数をかければ、その背後にはスペースが生まれる。そこへGKから一気にボールを届けることができれば、数本のショートパスでプレスを外さなくても、一度のキックで相手のプレッシングを越えられる。こうしたロングボールの価値が、リーグ全体で改めて高まっている。

 実際、データにも変化が表れている。

 プレミアリーグ公式によると、GKのパスに占めるロングパスの割合は、2021/22シーズンの55.4%から徐々に低下し、2024/25シーズンには45%前後まで落ち込んでいた。

 ところが、2025/26シーズン序盤には51.9%まで上昇。長く続いてきたショートパス化の流れが反転し始めた。

 ゴールキックでも同じ傾向が見られる。相手陣内まで届くゴールキックの割合は2016/17シーズン以降、2024/25シーズンまで毎年低下していたが、2025/26シーズンには大きく上昇。シーズン中盤の時点で48.8%に達した。

 プレミアリーグ公式は、この変化の背景として各クラブのプレッシング能力の向上を挙げている。後ろからつなぐサッカーがなくなったのではなく、それを封じる守備が発達したからこそ、正確なロングボールがもう一度有効な選択肢になっている。

セットプレーの得点増加で、大型GKも再評価

アーセナル
アーセナル【写真:Getty Images】


 GKに求められる変化は、ボールを持ったときだけではない。

 近年のプレミアリーグでは、セットプレーが試合の行方を左右する場面が増えている。

 その象徴とも言えるのが、2025/26シーズンのプレミアリーグを制したアーセナルだ。CKからリーグ新記録となる19得点を挙げるなど、セットプレーを大きな武器として優勝を果たした。

 クリスタル・パレスのオリヴァー・グラスナー監督も、アーセナルのCKについて「6人ほどが6ヤードボックス(ゴールエリア)に走り込んでくる」と語っていたように、GKの周囲に人数を集め、その動きを制限しながらゴール前に混乱を作り出すこと自体が、一つの攻撃手段になっている。

 こうした形が広がれば、GKにはこれまで以上にゴール前を支配する力が求められる。

 相手選手との接触がある中でもボールに届く高さやリーチ、密集をかき分けてクロスに出ていけるフィジカル。足元の技術が重視される現代でも、大型GKならではの強みは再び大きな意味を持ち始めている。

 実際に数字を見ても、セットプレーの存在感は増している。

 データ分析サイト『Opta Analyst』によると、2025/26シーズンのプレミアリーグでは、210試合を消化した時点でPKを除くセットプレーから166得点が生まれ、全587得点の28.3%を占めていた。2024/25シーズンの20.6%から大きく上昇している。

 中でも目立つのがロングスローだ。相手ペナルティーエリア内へ20m以上投げ込まれたスローインは、2024/25シーズンの1試合平均1.52本から、翌シーズンには3.97本まで増加した。

 英紙『タイムズ』も今年1月、こうした変化を背景に大型GKの価値が再び高まっていると分析している。

 ゴールエリア内に選手を密集させるセットプレーが増えたことで、GKがクロスを処理する難易度は上昇。ジャンルイジ・ドンナルンマのように、サイズとフィジカルを備えたGKの重要性が高まっているという。

鈴木彩艶が備える二つの武器

鈴木彩艶
鈴木彩艶【写真:Getty Images】


 プレッシングを受けたときには、その先へ正確にボールを届けるキック。セットプレーへの対応では、サイズと空中戦の強さ。

 現在のプレミアで重要性が高まっている二つの要素を考えると、アストン・ヴィラが獲得した日本代表GK鈴木彩艶の特徴は興味深い。

 約190cmのサイズを持つ鈴木は、身体能力を生かしたシュートストップだけでなく、クロスへの対応も強みとしてきた。一方、ボールを持てば後方からのビルドアップに参加するだけでなく、長いキックから一気に攻撃を前進させることもできる。

 その特徴は、セリエAで残した数字にも表れている。

 アストン・ヴィラへの移籍が決まった際、英紙『ガーディアン』は鈴木の2025/26シーズンのパフォーマンスを詳しく紹介している。

 同紙によると、鈴木はセリエAで成功したロングパスの数がGKの中でリーグ2位だった。さらに、ハイクレーム(クロスなどの高いボールをキャッチ、またはパンチングするプレー)の数でも2位。

 現在のプレミアで重要性が高まっている二つの能力で、イタリアでも上位の数字を残していたことになる。

 もちろん、セリエAとプレミアリーグでは環境が異なる。『ガーディアン』も、イングランドではゴールエリア内がより混雑しやすく、そこでの対応が鈴木にとって一つの課題になる可能性を指摘している。

 それでも、プレッシングの高度化によってGKからのロングボールが再び重要になり、セットプレーの隆盛によって大型GKの価値も改めて注目されている現在、その両方を武器とする鈴木にとっては興味深い環境と言えるだろう。

 GKに足元の技術が求められなくなったわけではない。むしろ、短くつなぐことができるのは前提になり、その先に何を加えられるかが問われている。

 相手のプレスを越える長いボールを蹴ることができ、空中戦に対応できるサイズもある。プレミアリーグで起きている戦術の変化は、鈴木彩艶が持つ特徴をこれまで以上に生かすものになるかもしれない。

(文・金山悠吾)

【著者プロフィール:金山悠吾】
2001年生まれ、神奈川県出身。2026年よりフットボールチャンネル編集部に所属。3歳のころにYS横浜のサッカースクールでサッカーを始めるも、幼少期から「やるより見る派」。2006 FIFAワールドカップの録画を何度も繰り返し見て育つ。2010/11シーズンをきっかけにバルセロナに魂を奪われ、以来、ラ・リーガを中心に海外サッカーを追いかけ続けている。愛読書はサイモン・クーパーの『サッカーの敵』。フットボールの尽きない魅力に惹かれながら、日々勉強中。

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