
アストン・ヴィラのウナイ・エメリ監督【写真:Getty Images】
主力6人の退団もあり、開幕から公式戦6試合でわずか1勝と苦しんだアストン・ヴィラ。しかし、その後の6試合では5勝1分と巻き返し、攻守両面で改善を見せている。復調を支えたのは、長年にわたって欧州の舞台で実績を積み重ねてきたウナイ・エメリだ。新戦力の適応を促すマネジメントと、プレミアリーグの戦術的なトレンドを踏まえた攻撃のアップデート。その両面から、チーム再建の要因を探る。(文:安洋一郎)[1/2ページ]
名将に共通する「シーズンを通じてチームを成熟させる力」

ウナイ・エメリ監督とペップ・グアルディオラ監督【写真:Getty Images】
記者から順位について問われても、「第34節になったら話そう。今は第18節だ。次は第19節だ」(2025年12月)、「第35節あたりで、その時点で我々がどの位置にいるかによって、そのときに話せるかもしれない。今は各大会で戦うことに集中したい」(2026年1月)といった趣旨の発言をしている。
シーズン終盤まで順位について語ることを避け、目の前の試合と各大会での戦いに集中する。その姿勢は、シーズン全体を見据えながら、チームの完成度を段階的に高めていく考え方とも重なる。
もちろん、順位について慎重な姿勢を示すこと自体が、チームの成熟を保証するわけではない。重要なのは、選手の適応状況や対戦相手の特徴に応じて戦い方を修正し、長いシーズンを通じて競争力を高めていくことだ。
この考え方は、マンチェスター・シティで数々のタイトルを獲得してきたジョゼップ・グアルディオラにも通じるものがあるだろう。シーズン序盤にさまざまな戦術的オプションを試し、チームの形を模索しながら、後半戦に向けて完成度を高めていく。
グアルディオラもエメリも、一般的には「戦術家」として知られる指揮官だ。しかし、彼らの強みは試合単位の戦術にとどまらない。
シーズン全体を見据え、チームを段階的に成熟させていく。こうしたシーズンの中で成熟していく姿勢は、多くのタイトルを獲得した両者に共通する強みと言えるだろう。
では、今季のアストン・ヴィラにおいて、エメリは何を変えたことでチームの成長を促したのだろうか。
主力の大量流出と新戦力の適応不足

昨季のEL優勝の主力たちが退団【写真:Getty Images】
今季序盤の低迷には、冒頭で触れた主力の大量流出に加え、新戦力の合流時期も大きく影響していた。
長年にわたってチームを支えてきた主力を放出した一方、新戦力の獲得は移籍市場の終盤に集中した。最終的に11人を新戦力として加えたものの、そのうちプレシーズンに参加できた選手はわずか3人だった。
早い段階で加入した選手の一人、アレハンドロ・ガルナチョは、アジアツアーで負った脳震盪の影響でコンディションを上げられず、若手CBのモドゥ・ケバ・シセも開幕戦を前に負傷離脱した。
新戦力の中で唯一、開幕に向けてコンディションを整えられていたMFジョアン・ゴメスも、開幕戦で退場。つまり、昨季までのスカッドから主力が抜けた状態で、開幕から数試合を戦わなければならなかったのだ。
他の新戦力も、実戦経験を積めないまま公式戦での適応を求められた。エメリ監督は、プレミアリーグ第5節トッテナム・ホットスパー戦を前にした記者会見で、開幕から9月の代表ウィークまでの約1カ月を「プレシーズン」と総括している。
これが開幕直後に結果を残せなかった要因の一つだ。しかし、新戦力の適応が進むと、チームは一気に結果を出し始め、徐々に本来の狙いを表現できるようになった。
象徴的だったのが、スイス代表MFヨハン・マンザンビが初先発を飾ったトッテナム戦(〇3-2)だ。
この試合あたりからアストン・ヴィラは、今夏の編成から意識が強かった「相手の背後」と「オフザボールで相手を動かしてスペースを作る」という、チームとしての狙いが見え始めている。
プレミアリーグのトレンドを踏まえた「新たな狙い」

アストン・ヴィラGK鈴木彩艶【写真:Getty Images】
この狙いこそ、プレミアリーグをはじめとする世界のフットボールのトレンドであるマンツーマンディフェンスに対する、エメリが導き出した一つの解答だ。
昨季までは2列目にスピードのある選手が少なかったが、今冬に加入したアリソン、今夏に獲得したイブラヒム・エンバイェやアレハンドロ・ガルナチョなど、ワイドでプレーできるウインガータイプの選手を多く補強した。
さらに、精度の高いキックを持つGK鈴木彩艶を獲得し、彼のディストリビューションを起点とした攻撃も展開している。
前線でパスを受けるマンザンビやFWニコラス・ジャクソンは、相手のSBが前に出た背後やアンカー脇のスペース、守備ラインが間延びした際のライン間など、相手に生じた隙を見つけてポジションを取ることで、攻撃の起点となっている。
こうした狙いは、エメリによる徹底した相手分析を通じて、試合前のミーティングで選手たちに共有される。共通認識を持った選手たちが連動してポジションを取れることも、チームの強みとなっている。
プレミアリーグで勝利したスパーズ戦とニューカッスル戦では、試合の中で鈴木からの配球スタイルを大きく変更した。
特にスパーズとの試合では、前半に徹底して左SBの裏を狙っていたところから、後半は右CBヤン・ポール・ファン・ヘッケのジャクソンに対する1対1の弱さを見越して、相手の右サイドの背後へ長いボールを供給している。
これによって質的に優位に立てるポイントを明確にし、攻撃の起点となるポイントを作り出してからチャンスにつなげた。
主力の大量流出によって出遅れたアストン・ヴィラは、新戦力の適応を促しながら、プレミアリーグの戦術的なトレンドにも対応することで復調を遂げた。
そこには、目先の結果にとらわれず、チームの完成度を段階的に高めていくエメリの手腕が表れている。
戦術家としての柔軟性と、長いシーズンを見据えたマネジメント。その両面を備えていることこそ、エメリが幾度もチームを立て直してきた理由なのかもしれない。
(文:安洋一郎)
【著者プロフィール:安洋一郎】
1998年生まれ、東京都出身。高校2年生の頃から『MILKサッカーアカデミー』の佐藤祐一が運営する『株式会社Lifepicture』で、サッカーのデータ分析や記事制作に従事。大学卒業と同時に独立してフリーランスのライターとして活動する。現在は『フットボールチャンネル』をはじめ複数のwebメディアや欧州名鑑などに寄稿。12歳からアストン・ヴィラを応援し、プレミアリーグを中心に海外サッカー全般を追っている。Xアカウント:@yoichiro_yasu
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