
手前左から、マンチェスター・シティ、オーナーのシェイク・マンスール、カルドゥーン・アル・ムバラク会長、フェラン・ソリアーノCEO【写真:Getty Images】
プレミアリーグの独立委員会は、マンチェスター・シティに重大な財務規則違反があったと認定した。だが、そもそもなぜオーナーによる資金投入は制限されるようになったのか。ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)はなぜ生まれ、サッカー界の競争環境をどう変えてきたのか。プレミアリーグを中心にその歩みをたどりながら、「公平な競争」とは何かを考える。(文・金山悠吾)[1/2ページ]
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マンC違反認定、その先にある疑問

マンチェスター・シティの財務規則違反問題を報じる英紙。2018年に始まった調査を経て、2026年9月に重大な違反が認定された【写真:Getty Images】
プレミアリーグの独立委員会は、マンチェスター・シティに重大な財務規則違反があったと認定した。だが、そもそもなぜオーナーの資金投入は制限されるようになったのか。ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)が生まれた背景と、それが欧州サッカーにもたらした変化から、「公平な競争」とは何かを考える。
9月29日、サッカーファンに大きな衝撃を与える判断が下された。
プレミアリーグは、独立委員会がマンチェスター・シティに対し、2009/10〜2017/18シーズンにおける重大な財務規則違反を認定したと発表した。
独立委員会によると、シティが複数の商業パートナーとの契約などを通じ、クラブの収入を実態以上に大きく見せ、一部の支出を適切に計上していなかったという。
スポンサー企業が支払っているように見えた金額の一部について、実際にはオーナーであるアブダビ・ユナイテッド・グループ(ADUG)が負担する「偽装された資金提供スキーム」があったと判断した。
正確に計上されていれば、プレミアリーグとUEFA双方の支出制限を大幅に超えていたとされる。さらに、調査への協力義務違反など、多数の違反も認定された。
シティは10月1日、独立委員会の判断を不服として正式に控訴した。クラブ側は「法、原則、事実に重大な誤りがある」として無実を主張しており、一連の手続きはまだ終わっていない。今後は独立した控訴委員会による審理が行われる。
もちろん、ルールの是非と、そのルールを守ったかどうかは別の話だ。
ただ、マンチェスター・シティの行為そのものとは切り離して、そもそもの問題に立ち返ってみたい。
なぜ、オーナーは自らが所有するクラブに、自分の資金を自由に投入することができないのか。
その背景には、現在の欧州サッカーの形を大きく変えた「ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)」という考え方がある。
FFPが生まれた背景

2003年のロマン・アブラモビッチによる買収から約2年で、50年ぶりのリーグ優勝を果たしたチェルシー【写真:Getty Images】
2000年代初頭、欧州サッカーでは選手の移籍金や給与が膨らみ、クラブ同士の競争はそのまま支出競争へとつながっていた。
そこに大きな変化をもたらしたのが、ロマン・アブラモビッチによる2003年のチェルシー買収だった。
豊富なオーナー資金を背景に大型補強を進めたチェルシーは、買収から2年後に50年ぶりのリーグ優勝を達成。プレミアリーグの勢力図を一気に塗り替えた。
ただ、巨額の資金が選手市場に入れば、その影響は一つのクラブだけにとどまらない。移籍金や給与の相場が上がり、ライバルも選手を獲得し、主力を引き留めるために、より多くの金を必要とする。
今回の問題の渦中にあるマンチェスター・シティのフェラン・ソリアーノCEOでさえ、自身の著書で、アブラモビッチの登場が市場に「巨大な破壊的変化」をもたらし、「狂ったようなインフレ」がサッカー界全体に広がったと、当時を振り返っている。
その「狂ったようなインフレ」の波に、耐えられなかったクラブもいた。
象徴的だったのがポーツマスだ。2008年にFAカップを制した一方、翌年には選手への給与支払いが遅れ、移籍金の未払いを理由に新規選手の登録を禁止される事態に陥った。
当時の欧州では、クラブ収入が増える一方、それを上回る勢いで給与や移籍関連の支出が膨らんでいた。勝つために金を使い、追いつくためにさらに金を使う。その競争にUEFAは歯止めが必要だと考えた。
2009年9月、UEFA執行委員会はFFPの構想を承認。翌2010年5月には正式な規則として採択され、段階的な導入が始まった。これに続く形で、2013年にはプレミアリーグも独自の財務規則を強化した。
FFPの基本的な考え方はシンプルだ。
クラブが選手獲得や給与などに使う金を、自ら生み出した収入に見合う範囲に抑える。一定の赤字や資本投入を認めながらも、オーナーが損失を際限なく補填し、その資金をもとに支出を拡大し続けることに歯止めをかける。
クラブ自身が継続的に生み出す収入を基準に支出を管理し、未払いや経営破綻のリスクを抑える。それがFFPの基本的な考え方だった。
「稼いだ分だけ使える」は本当にフェア?

当時のUEFA会長ミシェル・プラティニは、FFPについて「クラブを罰するのではなく、守るため」の制度だと説明した【写真:Getty Images】
「稼いだ金を基準に、使える金を決める」
一見すれば、これほど公平な仕組みはないようにも思える。
しかし、全てのクラブが同じ場所からスタートしているわけではない。
長年タイトルを獲得してきたクラブには巨大なファンベースがある。世界中でユニフォームが売れ、スポンサーがつき、試合のチケット販売や欧州大会への出場からさらに収入を得る。
そこへ新しく追いつこうとするクラブが、手元にある収入だけで差を縮めるのは簡単ではない。
この問題は、FFP導入当初から指摘されていた。
2011年、英紙『ガーディアン』のデイビッド・コン記者は、オーナーによる資金投入が制限されれば、すでに大きな収入を持つクラブが「より必然的に勝者になっていく」可能性があると指摘していた。
後年の研究でも、同様の副作用を示す結果が出ている。2007/08〜2019/20シーズンの欧州サッカーを分析した2023年の研究では、FFPがクラブの収益性を改善する一方、競争バランスをトップクラブ側へ傾けたという因果効果が示された。
もっとも、この研究だけをもって「FFPが古豪を守る制度だ」と結論づけることはできない。FFPが競争バランスに与えた影響については、現在も研究によって見解が分かれており、格差を拡大したと学術的に確定しているわけではない。