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ビラノバ・バルサの未来【欧州サッカー批評 6】

『ぺップとともに“ドリームチームⅡ”を築いた名参謀の知性に迫る』
ぺップ・グアルディオラの下で進化し続けたバルサ。そのアシスタントマネージャーを務めたティト・ビラノバが今季から後任を務める。ぺップの名参謀として手腕を発揮してきた彼の知性とはどのようなものなのか。はたしてバルセロナを導けるのか。関係者の証言をもとに考察していく。(翻訳:小澤一郎)

text by photo by Kazuhito Yamada

進化を続けるFCバルセロナ【写真:山田一仁】

バルセロナ史上最高の指揮官からチームを引き継ぐ、ティト・ビラノバ

 ペップ・グアルディオラが去った今季、彼が作り上げたチャンピオン・チームがティト・ビラノバの下でどのように変化し、レアル・マドリーからの奪還を狙う新シーズンにどのようなパフォーマンスを見せるかに大きな期待が寄せられている。ペップ体制では4シーズン、20大会のうち14個ものタイトルを獲得。「ドリームチームⅡ」と呼ばれる伝説的なチームを率いたペップは、紛れもなくバルセロナ史上最高の指揮官となったわけだが、それ故に誰が代役を務めたとしても非常に難しいミッションとなる。

 グアルディオラの後任としてバルセロナの新監督に就任したティト・ビラノバ。グアルディオラの下でセカンドコーチを務めた彼は、1968年9月生まれの43歳。すでに42歳の誕生日を迎えたグアルディオラよりも2歳年上だ。カタルーニャ州バイカイラ出身のティトは、ユース時代にバルセロナの下部組織に入団し、1998-99シーズンからバルセロナBでプレー。しかし、トップチームに昇格するまでには至らず、2シーズン後には当時2部のフィゲラスに移籍。1992-93シーズンには当時1部のセルタへ移籍し、念願の1部デビューを果たすものの、選手としては1部でのプレーがやっとのレベルで、スペイン代表歴もない。

ティトはダイレクトでゴールに直結するサッカーを志向する

 多くの人間がティト・バルサの変化が何であるかに注目している。しかし、明らかなのはペップのサッカー、戦術の継続路線としての人選がティトであったことであり、ペップ時代のトレーニングや戦術にティトが深く関わっていたことから、戦術的に大きな変更がないのは間違いないだろう。違いがあるとすれば、パスのアングル(角度)だと私は考える。ティトはペップよりもダイレクトでゴールに直結するサッカーを志向するので、鋭角なパスが多くなると見ている。

 バルセロナは後方から組み立てていくサッカーを基本としており、決して運任せに、もしくは当てずっぽうにボールを蹴っているわけではない。ディフェンスにおける意味のないクリアボールは「ない」というよりも「禁止」されている。しかし、ティトの下ではより早く、鋭角なビルドアップが求められることになるだろう。今季加入したジョルディ・アルバやGKを含めてバルセロナのディフェンス陣は非常に優れたテクニックを持っているため、彼の要求に応じることは可能だろう。

 一方で「攻め急ぎ」によるミスやボール支配率の低下を防ぐ目的で、よりワイドな攻撃が求められることになりそうだ。ペップ時代には前線のエクトレーモ(ウイング)が1人となり、右はアウベスにエクストレーモ役を担わせる戦術だったが、おそらくティトはバルサ本来のドス・エクストレーモ(2ウイング)システムを復活させてくる。原稿執筆時点ではまだEURO出場の代表組が合流していないのだが、プレシーズン最初の親善試合では、アフェライ、アレクシス、デウロフェウらが頻繁にポジションチェンジを繰り返し、流動性を持たせながらもワイドなポジショニングでサッカーに幅を作り出していた。

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