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コラム 23時間前

「アスレティック・ビルバオ」は間違い? 街とラ・リーガクラブの歴史が作る名称の裏側とは。人々に愛される呼称の理由【コラム】

シリーズ:コラム text by 佐藤彰太 photo by Getty Images,Edotor
アトレティック・クルブ

ラ・リーガに所属するアトレティック・クルブ【写真:Getty Images】



 呼び名ひとつで、クラブの見え方は大きく変わる。日常的に使われる名称や愛称の裏側には、土地の歴史や文化が色濃く刻まれている。何気なく耳にしている言葉も、そのクラブを形作る重要な要素の一つだ。ラ・リーガをより深く楽しむために、呼び名に宿る背景へと目を向ける。(文:佐藤彰太)[1/2ページ]
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一般的な呼称と現地のリアル

アトレティック・クルブの本拠地、サン・マメス

アトレティック・クルブの本拠地、サン・マメス【写真:編集部】

 1929年のラ・リーガ創設以来、バルセロナやレアル・マドリードと並び、一度も2部降格を経験していないクラブが、バスク州ビルバオに存在する。

 それが「アスレティック・ビルバオ」だ。日本では一般的な呼称として広く親しまれているが、現地でこの名前を口にすると、首を傾げられてしまうかもしれない。

 なぜなら、「アスレティック・ビルバオ」というクラブは正式には存在しないからだ。

 では、なぜこの呼び名が広まったのか。明確な起源は定かではないが、他クラブとの混同を避けるための呼称として広まった可能性が高い。



「兄弟クラブ」であるアトレティコ・マドリードのように、類似した名称を持つクラブは欧州に数多く存在する。

 そうした中で、その名称だけではどのクラブを指すのか分かりにくく、地名を添えて区別する必要が生まれた。

 結果として、海外メディアを中心にそうした呼び方が広まり、「アスレティック・ビルバオ」という呼称が定着していったのではないだろうか。

名前が示すアイデンティティ

アトレティック・クルブのトレーニング施設、レサマ

アトレティック・クルブのトレーニング施設、レサマ【写真:編集部】

 では、どのように呼べば正しく伝わるのか。

「アトレティック・クルブ」

 これが、このクラブの正式名称である。近年では、コアなラ・リーガファンの間でこの呼び方が徐々に浸透しつつある。

 しかし、一般的な知名度という点では、依然として「アスレティック・ビルバオ」に及ばないのが現状だ。

 それでも、クラブが大切にしている呼称は明確である。サン・マメスの赤一色のスタンド、そしてレサマのトレーニング施設。そこに刻まれているのは、いずれも「ATHLETIC CLUB」の文字だ。


 その表記の一つひとつが、このクラブの揺るぎないアイデンティティを物語っているのだ。

 ビルバオを本拠地とするクラブであることは間違いない。だが、その本質は一都市の枠には収まらない。

 “アトレティック・クルブ”は、バスクという地域そのものを背負う存在であり、単なる「ビルバオのクラブ」と言い切るにはあまりにも特異な歴史と文化を持っている。

 アトレティック・クルブとバスク地方の密接な関係を紐解いたところで、次に少し視点を変えて各クラブが持つ愛称に目を向けてみたい。

ラ・リーガに根付く愛称の文化

ラス・パルマス 宮代大聖

宮代大聖が所属するUDラス・パルマス【写真:Getty Images】

 プレミアリーグでは、アーセナルは“ガナーズ”(砲手の意)、ニューカッスル・ユナイテッドは“マグパイズ”(カササギの意)と呼ばれるなど、各クラブの愛称が広く浸透している。

 こうした文化はラ・リーガにも根付いており、各クラブにはそれぞれ由来を持つ愛称が存在する。

 バルセロナに拠点を置き、かつて中村俊輔が在籍したことでも知られるRCDエスパニョール。彼らの愛称は、スペイン語でインコを意味する「ペリコ」だ。

 では、なぜ「ペリコ」と呼ばれるようになったのか。

 その由来は、かつてホームスタジアムとして使用していたエスタディ・デ・サリアの前にあった公園に、多くのインコが生息していたことにある。この光景がサポーターの間で定着し、やがてクラブの愛称として親しまれるようになった。

 このように、ラ・リーガでは地域の自然や街の風景に由来する愛称が多く存在する。



 その例が、カナリア諸島に本拠地を置くUDラス・パルマスだ。今冬にヴィッセル神戸から期限付き移籍し、現在好調を維持する宮代大聖が所属する同クラブは、「ピオピオ(Pío Pío)」という愛称で知られている。

 この「ピオピオ」とは、スペイン語においてカナリア(小鳥)のさえずりを表す擬音語であり、クラブのルーツと深く結びついた呼称だ。

 実際にクラブのマスコットもカナリアをモチーフとしており、その鳴き声はチームの象徴として広く認識されている。

 さらに、この愛称が定着した背景として語られるのが、ひとりのサポーターの存在である。

 CDテネリフェ(現:スペイン3部)とのダービーの最中、フェルナンド・“エル・バンデラ”が、相手の応援に対抗するように「ピオピオ」と叫び続けた。このユニークな声援が次第にスタンド全体へと広がり、やがてクラブを象徴するチャントとして定着していったとされている。

 つまり「ピオピオ」は、単なる鳥の鳴き声に由来するニックネームではない。地域の象徴であるカナリアと、スタンドの文化の中から生まれたサポーターの声が重なり合って成立した呼称なのである。

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