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コラム 4時間前

日本代表は気をつけろ…。いま、オランダ代表FWがすごい。絶対に諦めない、謙虚な男を作り上げたもの【コラム】

ローマに所属するドニエル・マレン
ローマに所属するドニエル・マレン【写真:Getty Images】



 冬の加入からわずか5ヵ月で13ゴール。なぜオランダ代表FWドニエル・マレンはASローマを変える存在となれたのか。その裏には、壮絶な生い立ちと、ジャン・ピエロ・ガスペリーニの信頼があった。(文:佐藤徳和)

鈴木彩艶VSマレン。まるでW杯の前哨戦

 10日、パルマのスタディオ・エンニオ・タルディーニ。パルマ・カルチョ対ASローマの一戦は、2-2のまま後半アディショナルタイムに突入していた。

 主審ダニエーレ・キッフィは、オンフィールドレビュー(OFR)を確認した末、ASローマにPKを与える判定を下す。パウロ・ディバラからボールを受け取ったドニエル・マレンは、ペナルティスポットに静かにボールをセットした。

 その前に立ちはだかるのは鈴木彩艶。仁王立ちのまま小刻みにステップを踏み、シュートに備える。オランダ代表FWと日本代表守護神による一騎打ち。まるで、FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)・グループステージF初戦で激突する両国の“前哨戦”を思わせる場面だった。

 鈴木はシュートコースを読み切った。しかし、マレンが放った鋭く強烈な一撃は、伸ばした右手のわずか上を射抜き、ゴールネットへと突き刺さる。94分にデフィン・レンシュの得点で2-2の同点に追いついていたASローマが、110分を過ぎた土壇場で勝利をたぐり寄せた。



 マレンは試合後、『DAZN ITALIA』のインタビューに、このように語った。

「僕たちのシーズンにとって重要なゴールだった。PKのプレッシャーは感じていたが、この勝利が何より大事だ。(得点数は)信じられないような数字だ。チームメイトたちが、こうした結果に到達できるよう支えてくれている。とても嬉しく思うよ」

 仲間たちへの感謝の気持ちを忘れない、謙虚な姿勢が見て取れる。

 数字だけを見れば、マレンの完勝と言っていい。開始6分には、ペナルティエリアの外へ飛び出してきた鈴木を紙一重でかわし、そのまま無人のゴールへ流し込んだが、これはオフサイド判定。22分には、マティアス・スーレからのパスを巧みに収め、右足インサイドで叩き込んで先制点を奪った。

 そして前述のPKでもネットを揺らしている。

 イタリア紙『ラ・ガッゼッタ・デッロ・スポルト』の評価と寸評は、以下のとおりだった。

バロテッリを上回った新たな記録

マレン「7.5」
「前半の採点は『8』。後半は簡単なチャンスを2度外し『4.5』。だが、その後に決めたPKは、計り知れない価値があった」

 マレンは試合に勝利し、自らもゴールを決めた。しかし、鈴木も簡単には崩れず、2度の決定機を阻んだ。

 両者の決着は、6月14日に行われるW杯初戦へ持ち越されることとなった。

 マレンは、ASローマにとって救世主のような存在となった。

 パルマ・カルチョ戦の2ゴールにより、今季のセリエAでの通算得点を13とした。マリオ・バロテッリがミラン時代の2012/13シーズンにマークしていた12得点の記録を上回り、冬の移籍市場で加入した選手として最多得点記録を樹立することとなったのだ。



 そのマレンは1月16日、プレミアリーグのアストン・ヴィラから、買い取りオプションが付く有償レンタルの形でASローマにやってきた。

 この契約には条件が設けられており、ASローマが来季の欧州カップ戦出場権を獲得した場合、買い取り義務へと切り替わり、マレンは完全移籍でジャッロロッソの一員となる。

 イタリアの移籍情報サイト『tuttomercatoweb.com』によると、レンタル料は200万ユーロ(約3.7億円)。買い取りオプションは2500万ユーロ(約46.3億円)に設定されている。

 5ヵ月にも満たない期間に13ゴールを決めているのだから、もはや金額以上の価値を十分に示したと言えるだろう。

 1月19日に27歳を迎えたマレンは、スキンヘッドにヒゲをたくわえた風貌ながら、常に穏やかな表情を浮かべている。16試合に出場し、警告を受けたのは3月9日のジェノア戦の1度だけだ。

 それも、オーバーヘッドキックを試みた際、意図せずレオ・エスティゴーアの顔面を蹴ってしまったことによるイエローカードだ。相手選手とやり合うシーンも少なく、クリーンな印象が強く残る。ゴールを量産するだけではなく、前線からのハードワークも厭わない。

「前半戦にもマレンがいたら…」

 生まれはオランダ北西部のヴィーリンヘンで、育ちはその近郊の小さな農村、ブレーザントであった。

 幼少期、ドニエルは、厳しい家庭環境の中で育った。

 スリナムにルーツを持つ父が、幼い頃に他界したため、母はタクシー運転手をしながら生計を立てた。それゆえ、母方の祖父母の家に預けられることが多く、祖父母の愛情に包まれながら、サッカー選手となる夢を膨らませてきた。

 そして、“ドン(マレンの愛称)”が8歳の時、オランダの名門、アヤックスに引き抜かれてからは、週4回、トレーニンググラウンドまで母親が送り迎えをしていた。その距離、片道だけで約40キロ。そういった献身的な母親の姿を見てきただけに、ドニエルは諦めることを知らない。

 スピードがあることから、次第にティエリ・アンリとの比較がなされていた。そんな中、2015年には、アーセナルに移籍。その時にユース部門の指揮をしていたのが、アンリであった。



 アーセナルでは試合に出場する機会に恵まれなかったが、PSVで頭角を現す。20歳で迎えた19/20シーズンにエールディヴィジで21ゴール、翌シーズンも19ゴールをマークしている。

 そして、ボルシア・ドルトムントを経て、2024年1月にアストン・ヴィラに移籍。今季はプレミアリーグで4ゴールに留まっていたが、ジャン・ピエロ・ガスペリーニの指導のもと、覚醒した。

「前半戦にもマレンがいたら、もう少し勝ち点を稼げていただろう」とガスペリーニが語るほど、もはや絶対の信頼を得ている。

 マレンの加入がなかったら、ASローマは今、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)争いに加わっていたとは到底思えない。しかし、直近6試合を5勝1分けで乗り切り、低調なミランを猛追。ついに残り1節で、勝ち点70で並んだ。

 マレンのような決定力を備えた絶対的ストライカーの存在は、18/19シーズン以来となるUEFAチャンピオンズリーグ出場を目指すチームにとって、大きな武器となるはずだ。

 そして、日本代表と対戦するオランダ代表でも欠かせない選手となった。日本代表にとって脅威の存在となることは、もはや間違いないだろう。

(文:佐藤徳和)

【著者プロフィール:佐藤徳和】
1998年にローマでの語学留学中に、地元のアマチュアクラブ「ロムーレア」の練習に参加。帰国後、『ポケットプログレッシブ伊和・和伊辞典』(小学館)の制作に参加し、イタリア語学習書などの編集、校正、執筆に携わる。2007年から、フリーランスとして活動し、主にイタリア・サッカー記事のライティングに従事。2014年には、FC東京でイタリア人臨時GKコーチの通訳を務める。IL ROMANISTA、日本特派員。『使えるイタリア語単語3700』(ベレ出版)、『イタリア語基本の500単語』(語研)を共同執筆。日伊協会では、カルチョの記事を読む講座を開講中。X:@noricazuccuru

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