
アメリカ合衆国代表フォラリン・バログンとイングランド代表ジャレル・クアンサー【写真:Getty Images】
FIFAワールドカップ2026(北中米W杯)で、国際サッカー連盟(FIFA)の懲戒判断に疑問が向けられている。
バログンとクアンサーの判定差

国際サッカー連盟(FIFA)【写真:Getty Images】
アメリカ代表FWフォラリン・バログンは7月1日に行われたラウンド32のボスニア・ヘルツェゴビナ代表戦で退場となった。ボスニア・ヘルツェゴビナ代表DFタリク・ムハレモビッチの足首付近に足裏が入った場面は、著しく不正なプレーと判定され、レッドカードが提示された。イングランド代表DFジャレル・クアンサーも、7月5日に行われたメキシコ代表とのラウンド16で一発退場となった。こちらも著しく不正なプレーと判定されている。
それにもかかわらず、なぜ出場停止の試合数が違い、バログンだけ執行を猶予されて翌戦に出場できたのか。FIFAの説明と懲戒手続きには、3つの疑問が残る。
一つ目の疑問は、なぜ両者は同じ退場なのに、科された出場停止の試合数が違うのかという点だ。
FIFA懲戒規程では、著しく不正なプレーに対して「最低2試合」の出場停止を定めている。クアンサーに科されたのは2試合だった。一方、FIFAがバログンについて公表したのは1試合の出場停止である。この判定差を、現状、FIFAは説明していない。
国際通信社『ロイター』の取材に対し、元FIFA国際審判員のヨナス・エリクソン氏は、両者の反則が強度と攻撃性の面で「おおむね同等」だったとの見解を示し、「バログンが1試合停止なら、クアンサーも同じであるべきだった」と指摘している。
二つ目の疑問は、なぜバログンが1試合の出場停止を実際には消化せず、ベルギー代表戦に出場できたのかという点だ。
FIFA懲戒委員会委員長名義の公式声明では、「FIFA懲戒規程第27条に従い、FIFA懲戒委員会は、自動的な出場停止処分の執行を1年間停止することを決定した」と説明されている。この決定には幾つかの疑問点がある。
前提知識として、この第27条は、処分を取り消すのではなく、条件付きで処分の執行を猶予する仕組みである。FIFAは「主審がフィールド上で下した退場判定を覆したのではない」と説明し、1試合の出場停止自体は維持した。
では、なぜバログンに第27条を使ったのか。FIFAは「当該事案を取り巻く全ての具体的事情と、入手可能な証拠を考慮した」と説明している。しかし、どのような事情や証拠を重視したのかまでは公表していない。
FIFAは、懲戒規程や北中米W杯大会規則には、第27条の使用を禁じる規定はないとの見解も示している。ただし、『ロイター』は「FIFAは、なぜバログンに第27条を適用することが適切だと判断したのか、公には説明していない」と報じている。
上訴できないのに、なぜ事実上見直されたのか

ドナルド・トランプ大統領とジャンニ・インファンティーノ会長【写真:Getty Images】
そして三つ目の疑問だ。そもそもFIFA懲戒規程は、2試合以内の出場停止について上訴できないと定めている。イングランドサッカー協会の広報担当者も『ロイター』に対し、クアンサーの2試合出場停止には上訴できなかったと述べている。それにもかかわらず、英紙『ガーディアン』によると、7月1日にトランプ大統領はバログンの出場停止を見直すようFIFAに働きかけ、3回にわたって電話したという。
そして、FIFAは7月2日にバログンに対する懲戒手続きを開始し、7月5日に1試合停止と、その執行猶予を同時に決定した。英放送局『ITV』は、この措置について、上訴ではなく、FIFAが自ら科した処分の執行を停止したものだと解説している。
しかし、形式上は上訴ではないとしても、トランプ大統領による働きかけの後、通常は上訴できない出場停止について、バログンが次戦に出場可能となったという事実は変わらない。
FIFAは、トランプ大統領とジャンニ・インファンティーノ会長の会話は判断に影響していないと主張。トランプ大統領も、見直しを求めただけで、結論を指示したわけではないと説明している。
募るFIFAへの不信感

アメリカ合衆国代表フォラリン・バログン【写真:Getty Images】
その後、7月12日付の英紙『タイムズ』が新たな事実を報じた。同紙によると、18人で構成されるFIFA懲戒委員会のうち、バログンの1試合停止を1年間執行猶予とする判断を下したのは、委員長のモハマド・アル・カマリ氏ただ1人だった。他の17人には意見を求めなかったという。
FIFA懲戒規程は、委員長が単独で判断することを認めている。したがって、単独判断自体が規程違反というわけではない。しかし、W杯における自動出場停止を執行猶予とする異例の案件を、なぜアル・カマリ氏が単独で判断したのかは説明されていない。自動出場停止を執行猶予とする異例の案件を、なぜアル・カマリ氏が単独で判断したのかは説明されていない。
『ロイター』は、クアンサーについても第27条が検討されるのかFIFAに複数回問い合わせたが、回答はなかったと伝えている。バログンには認められた事実上の再検討の機会が、クアンサーにもあったのか。それを公開情報から確認することはできない。
このようにFIFAは、規則上は問題がないとの立場を示す一方、判断の根拠や手続きの詳細については十分に説明していない。
(文:内藤秀明)
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