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サー・アレックス・ファーガソンの実像と虚像【欧州サッカー批評 6】

text by オリバー・ホルト photo by Kazuhito Yamada

ベンゲルとの舌戦とBBC取材拒否から見るメディア嫌いの真実

 メディア嫌いで知られるファーギーは、そのメディアを巧みに利用する事にも長けている。大一番などの前には、メディアを使った心理戦を繰り広げ、自らのチームに優位な状況を作り上げる。この策に何度も落とされてきたのがアーセナルのベンゲル監督だろう。

 05年1月の直接対決が最もヒートアップした瞬間だった。ファーギーは「ベンゲルはピッチと控室を結ぶトンネルでうちの選手を批判し、イカサマ呼ばわりしていた。私は彼にマナーを守るよう言い、立ち去るよう伝えた。彼は手を挙げながら私に近づき、『なんなんだ』と言ってきた。ベンゲルは自分の行いを謝罪するような人間ではない」と吐き捨てた。一方のベンゲルも、「彼はコントロール不能だ。現実的感覚を失っているし、自分から喧嘩を吹っ掛けているのにもかかわらず、相手に謝らせようとする。いくらなんでもひどすぎる。私が理解できないのは彼が好き勝手なことをやって、周りがそれに従うことだ」と、切り返した。ちなみに同シーズンにアーセナルはFA杯決勝でマンUを攻略し、リーグでも3位に甘んじたマンUを上回る2位で終えた。

 しかし、最近2人の仲はかつてないほど良好となっており、お互いが不振に陥り、解任説が囁かれるような時にはメディアを通して敬意の念を表するなどの関係を築いている。一部メディアによると、この背景として、マンUが05年から7年間無冠のアーセナルを宿敵扱いしなったことが最大の理由と見られている。

 一方で、ファーギーは自分を悪く言うメディアを容赦しない。04年に英BBC放送が『父と子』と題したドキュメンタリー番組で、当時代理人を務めていた息子ジェイソンが父の名声を利用してビジネスをしていると報じると、これに激怒したファーギーは「BBCは息子に関するばかげた作り話を報じ、息子の名誉を深く傷つけた」と、その後7年もの間、BBC幹部との面会で謝罪を得るまで、試合後の会見を含むBBCのインタビューを拒否し続けた。このほかにも、執念深く復讐心の強いファーギーは、過去に自分自身に関する気に食わない記事を書いた記者には、会見場への立ち入りを禁止させ、2年前にはプレストンで指揮を執っていた息子ダレンが解任されると、すぐさま期限付きで移籍させていたマンUの若手3選手を連れ戻した。

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