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代表 11年前

落日の母国【欧州サッカー批評 6】

text by 田邊雅之 photo by Kazuhito Yamada

指導者が育たない理由とは

 バルサやインテルをイングランド人監督が率いていたような時代は遠い過去。ブリテン島では、イングランドよりもスコットランドなどのほうがはるかに優秀な監督を輩出していると言われてきたが、この傾向は近年、ますます強まってきた。

 では、なぜイングランドに監督がいないのか? 答えは簡単。FAがトレセンを廃止した結果、「選手を育てる指導者」だけでなく、「指導者を育てる指導者」も不足するようになったからである。

 2年前に『ガーディアン』が報じたところによれば、イングランド人でUEFAのB級とA級、そしてプロライセンスを取得した人間はわずかに2769名。同じ資格の保有者は、イタリアで2万9420名、ドイツでは3万4970人にものぼる。これでは指導者の育成など図られるべくもない。

 さらに問題を深刻なものにしているのは、やはりプレミアの成功だ。雑誌『When Saturday Comes』の編集長、アンディ・ライオンは語っている。

「たしかにどのクラブ関係者も、イングランド人の若手監督にポストを与え、経験を積ませてやらなければならないと口を揃える。でも結局は総論賛成各論反対で、なかなか実現しない。いざ自分のクラブの問題になると、やはり名前と顔が売れていて、結果を出してくれそうな監督を選んでしまうんだ。そうしておけば、万が一結果が出なかったときにも、ファンやクラブ内の対抗勢力に言い訳が立つという事情もあるからね」

ようやく新設されたトレセン。立ちはだかる最大の壁とは

 プレミアの発展がもたらした弊害はあまりに大きい。

 だが、FAもついに重い腰を上げた。ニューカッスル郊外に、選手と指導者の育成を目的としたトレセンを設置することを決めたのである。「セント・ジョージズ・パーク」と命名された施設は、この8月にオープンの予定。さすがFAの肝入りで作られただけあり、12面のピッチと室内練習場などを備えた本格的な施設だ。ちなみに育成の責任者には、先に触れたサウスゲイトなどが名を連ねている。

 しかし指導者であろうと選手であろうとの別を問わず、育成の成果が出始めるまでにはどんなに早くとも3年、普通に考えて5年程度はかかるだろう。それまでの間、イングランド代表には青息吐息でもチームを回していくことが求められる。また、そもそもどのような指針に基づいて指導をしていくのかという大問題が残っていることは言うまでもない。

 とはいえ新たなトレセンに立ちはだかる最大の壁は、とどのつまりプレミアになるのではないかという気もする。

 チェルシーやマンチェスター・シティをはじめとして、現在、プレミアの各クラブは続々とアカデミー組織の拡充に乗り出している。これは「ホーム・グロウン・ルール」や「フィナンシャル・フェア・プレー」の導入に対応したものだ。

 むろん、母国選手の育成に本腰を入れること自体に異論はない。むしろ遅きに過ぎた感さえある。

 しかし2000年以降のドイツのように、国を挙げての強化・育成を成功させるためには、サッカー協会側とクラブ側が歩調をあわせていくことが必要不可欠になる。 その意味でイングランドサッカーの将来を握るのは、これからピッチ外で本格的に始まるであろう新たな戦い、FAとクラブ側のパワーゲームの結果次第だとも言えるのではないだろうか。

初出:欧州サッカー批評6

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