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連載コラム 11年前

清武、乾、宇佐美は香川を超えられるか?(後編)【フットボールサミット第9回】

text by 清水英斗 photo by ryota harada

乾には今後、味方を活かしていくプレーが求められる

 また、ドリブル以外の面を見ると、フランクフルトでの乾は攻撃だけでなく守備面の貢献度も高い。相手チームの攻撃フェーズには、必ず味方ボランチ周辺の中央のスペースを埋めるためにプレスバック。そこから自分が担当する左サイドにボールが運ばれたら、斜め前へ出てアプローチ。この行ったり来たりの地味なポジショニング修正を、乾はきちんと繰り返しており、フランクフルトのフェー監督からの評価を高める要因にもなっている。さらに第5節終了時点で乾はブンデスリーガの全プレーヤー中、首位タイとなる20本以上のシュートを記録。この数字は、乾のゴールへの意識の高さを示しており、決してドリブルだけの選手ではない。

 ただし、活躍して存在が目立ってくると、当然、乾に対する警戒も厳しくなってくる。事実、6節のフライブルク戦では相手サイドバックからマンマークの守備を受けて苦戦し、試合後には「もう少し、中に入れば良かったですけど。なかなかそういうプレーも出来ず、ボールもいまいち回らなかった。こうなったときにチームとしてどうするのか、これから大事になってくると思う」と述べた。

 今後は味方に活かしてもらうだけでなく、乾自身が味方を活かしていくプレーがより求められるはず。例えば乾がおとりになって中央に入り、マンマークの相手DFを引きつけつつ味方サイドバックのオーバーラップを活かすなど、“ボールをどのように引き出すのか?”という点において駆け引きのパターンを増やさなければならない。それは日本代表で香川と長友がうまく実践している形であり、そのようなボールの引き出し方は香川の得意なプレーでもある。

 乾の新たな成長点は、そこにあるのではないかと考えている。

スケールが大きい宇佐美のスラローム

 宇佐美も乾と同じドリブラータイプと言えるが、そのドリブルの特徴は大きく異なる。360度対応できるゼロ・ポジションの体勢を保つ乾タイプに対し、宇佐美の場合は逆に、意図的に自分の体勢を倒しながらスキーのスラロームのようなイメージで突破していく。言い換えれば、乾やメッシは相手ディフェンスの寄せに対する“最適なリアクション”で突破するイメージだが、宇佐美の場合は相手のディフェンスがどうしても対応できないコースの変化、緩急の変化を付けてボールを運びながら、主体的な“アクション”で突破していくイメージだ。

 ブンデスリーガ第5節シュツットガルト戦で見せた前半5分のスーパーゴールは、宇佐美の質がよく表れたシーンだった。人間のスピードは、立った状態から体勢を進みたい方向へ倒すことで、推進力を生む。乾の場合はその細かい動きのたびに、すぐにゼロ・ポジションに戻しているが、宇佐美の場合は左へ倒した状態から右へ、あるいは右へ倒した状態から左へなど、スキーのスラロームのようなイメージで滑らかなドリブルを行う。

 普通、宇佐美ほどのコースの変化を付けていれば、大抵の選手はバランスを崩して出足が遅れてしまうのだが、宇佐美にはそういうことがない。さらにこのとき、スラロームで体勢を倒すときにスピードの緩急を付けているので、相手ディフェンスはそれについて行けず、突破を許してしまう。ボールを持ちながら鬼ごっこをして振り切っている感じだ。表現すると簡単だが、このようなスラロームをボールと共に行えるのは並大抵の技術ではない。

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