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代表 11年前

アンドレア・ピルロが語るEUROの激闘と涙の理由(後編)【欧州サッカー批評 6】

text by 宮崎隆司 photo by Kazuhito Yamada


見事なキャプテンシーを見せたブッフォン【写真:山田一仁】

代表の周囲にあった、信じ難いまでの混乱

──例の“賭博、八百長疑惑”というアレだね。

「いつものように曖昧で不可解な、裏の取れていない情報が無数に錯綜していたし、『なぜ今なのか?』と疑問しか抱けないようなタイミングで信じ難いことが、他ならぬ合宿地で繰り広げられていたのだからね。『身から出た錆だ』と多くのメディアが書いていたけど、報道が作り出す世論の中で平静を保つのは容易じゃなかったんだよ」

──「こんな理不尽な形で代表の名誉が傷つけられるのは我慢ならない」と、ある選手は漏らしていた。

「その通りだね。ジジ(・ブッフォン)の怒りを僕は理解できる。『大会に参加すべきではない』とまで言われ、『仮に出場するとしても早々に敗退すべきだ』という声があがる中で、懸命に走ってきた者たちへのリスペクトを欠いた言動に失望と底知れぬ怒りを覚えながら、僕らは、“期待”を裏切る形で決勝Tに進み、目標だった4強の座を射止めると、そこでも予想を覆してドイツを倒してみせた。その後の決勝は、さっき話した通り」

──ジャンルイジ・ブッフォン。この主将の存在がこれほど際立った大会はかつてなかったと言えるのでは?

「彼は本当に強く偉大な男だよ。あの難しい状況下で、でもジジは常にチームを鼓舞し、真のリーダーとしてまとめあげてみせた。彼がいなければ今回のイタリアが結束することはできなかったと思う。眼を閉じて国歌を歌う彼の姿に熱くなった人々は少なくなかったはず。彼は毎日こう言っていたんだよ。『国の誇りを守るのが俺たち代表の責務だ。絶対に敵を恐れるな、勇敢に戦い抜け』。だから、準決勝で、あれだけの好機を作りながら3点目を獲れなかったチームに対して、明らかに集中力の欠如だったからこそ、彼は怒りをぶちまけていたんだよ」

──主将にそう言われれば、さすがにあのふたりの“悪童”たちもマジメにやるより他なかったと?

「まぁそういうことだね(笑)。でもとにかく、アントニオ(・カッサーノ)は心臓の病を克服して臨んだ大会で、1試合毎に60分の制限があった中で、力の限りを尽くしてくれた。マリオも同じ。あいつはようやく『世界で5指に入るFW』であることを示してみせた。ホント、2年後が楽しみな選手だよ」

──その2年後、イタリアの中盤で指揮を執るのは?

「例えばマルコ(・べッラッティ=PSG)とか、ルーカ(・モッローネ=ユベントス)とか、たくさん巧くて活きのいい若手が出てきているからね。もちろん彼らの成長を願いながら、でも、そう簡単にポストを譲るわけにはいかないし、まだまだやれるはずだし、14年のブラジルでレジスタを務めるのは、アンドレア・ピルロになるだろうね。たぶん(笑)。その前に、まずは来季のスクデット連覇を狙いにいくし、ユベントスはCLに戻ってくる。戦いは終らないのさ。スペイン戦の屈辱を糧に、2年後のブラジルを目指してまた歩みを進めて行くよ。一歩一歩着実に。そして最後に、『俺たちは勇敢に戦い抜いた』と堂々と言えるためにね。もちろん、その過程で今以上の貢献をできるという自信が、この僕にはある」

【了】

初出:欧州サッカー批評6

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