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サガン鳥栖・尹晶煥監督インタビュー ~根性という名の知性~

text by 荒木英喜 photo by Kenzaburo Matsuoka

監督としてチームを率いるため大切にしていること

――以前、影響を受けた監督として、ロシア人のヴァレリー・ニポムニシ監督の名前を挙げられましたが。

「彼は、私がプロになった富川SK(Kリーグ)の監督で、選手の人格を尊重しながら、選手の成長を待ってくれました。事細かく教えるのではなく、選手たちに考えさせて、できるようになるのを待つのです。それでもうまくいかないときは、選手と話し合い、再び待ってくれました。もう20年近く前のことですが、当時教えてもらったことは、今のサッカーとリンクするところが多いです。

 例えば、基本的なことですが、パスを出して動き、オフ・ザ・ボールの選手たちはそこに絡んでいくことを求められました。これはプロになったばかりの私にとって印象的なことでした。こうしたプレーを実際にできる選手は少なく、ウチの選手たちもまだ出来ていません。選手に意識がなければうまくいかないし、その意識を植え付けることが大事なのです。ヴァレリー監督はそうしたことに長けていたと思います。また、彼はいつももの静かで紳士的で、その点も尊敬できました」

 ヴァレリー監督は、当時プロ選手になったばかりの尹監督をレギュラーで起用し、パスを中心とした戦術を用いたという。プロ1年目での出会い。試合に起用されたことで、尹監督は多大な影響を受けた。尹監督が、練習から常にパスを出して動くことを選手に求めるのは、ヴァレリー監督の影響があるのだろう。

――監督としてチームを率いるために、大切にしていることは何ですか?

「選手と監督、スタッフと監督、選手同士などの信頼関係です。それがないと監督の考えていることを選手がピッチで表現できないと思います」

――2010年に松本育夫監督の下でヘッドコーチ就かれたときは、権威的な振る舞いだったと思います。でも、昨年は選手との会話が増えました。それは、選手との信頼関係を築くためだったのでしょうか?

「2010年は権威的だったというより、初めて接する選手も多く、彼らに主導権を握られるのを嫌ったのと、選手たちが私の指導にどれだけ付いてくるのかを、ある意味テストをしている感じでした。監督就任が決まってからは、私が選手たちをまとめることが大事だと思ったので、中心的な役割を担う選手を作り出す努力しました。何人かの選手に私の考えを伝え、『私をサポートしてくれるか? 私は監督として選手をサポートしていく』と言葉を掛けました。それと同時に、選手を理解するように努めました。私の求めるサッカーを表現するには、信頼関係やお互いの理解が大事だと考えたので」

 昨年J1昇格を決めたとき、選手たちは、「尹さんは変わった。選手の意見を尊重し、取り入れてくれるようになった」と口にした。前年、ヘッドコーチだった頃は、選手の意見に耳を貸すことは少なかったという。だが昨年は、選手と多く会話して、そこに信頼関係が生まれた。これでチームは一丸となり、J1昇格をつかみ取ったのだ

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