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中村俊輔は銀と桂馬を足したような選手!? サッカーと将棋の意外な共通点

text by いしかわ ごう photo by Go Ishikawa

波戸康広、敗れる!

 メインイベントとして行われたのが、波戸康広アンバサダーと広瀬章人七段による公開対局だ。畳を敷いた自作の特別対局室に正座し、盤を挟んで両者が向かい合っている姿には、通りがかったサポーターも興味津々。あっという間に人だかりができ始めていた。

 波戸アンバサダーと対局を行う広瀬七段は、若手ながら王位のタイトル獲得経験もあるという有望棋士だ。早稲田大学時代にはサッカーサークル(と将棋部)に所属していたサッカー好きである。

 主に振り飛車穴熊という戦法を得意としているが、この「穴熊」という囲いは王様を隅においてまわりを金や銀でガチガチに固める守り方であり、将棋の囲いでは最強の堅守のひとつとされている。かつてイタリア代表が伝統としていた「カテナチオ」のような堅いディフェンスをイメージしてもらえるといいかもしれない。

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対局する広瀬七段と波戸アンバサダー【写真:いしかわごう】

 手合いは広瀬七段の二枚落ち。これは広瀬七段にはハンデとして、最初から飛車と角の大駒を抜いて戦うというもの。サッカーファンにわかりやすく説明すると、プロ側が最初から9人の“数的不利“でサッカーの試合を行うようなものだと思ってもらえればいいだろう(よくサッカーの試合でも大黒柱を欠いた1.5軍のようなメンバーで試合をする際、「飛車角落ち」などと表現することがあるが、それはこの将棋用語から来ている)。

 さらに広瀬七段は目をタオルマフラーで覆う目隠し将棋で臨んでいる。これは将棋盤と駒を見ずに、暗算で将棋をするようなもの。将棋上級者であればできると言われている技術だが、広瀬七段はなんと数人を相手に同時に指すこともできるそうである。

 対局では波戸アンバサダーが、自身の得意戦法である四間飛車を採用。飛車と角を抜いた二枚落ちで戦う広瀬七段は、金と銀を連動させながら駒組みを進め、少しずつ前に出ていく形で応戦。大盤解説をつとめた野月七段が「これは、金が前に出てドリブルをしようとしていますね」などとサッカーファンに向けた解説を盛り込み、ギャラリーの関心をよせていた。

 序盤戦こそ睨み合いが続いたが、駒がぶつかり始めると、数的不利である広瀬が局地での密集戦で持ち込んでいき、波戸がやや劣勢の状況に。指し手の難しい局面では「考えろー!康広?!」と自ら叫んで場を盛り上げ、自分を鼓舞するかのように強引な攻め合いに出たが、残念ながら攻撃が続かず広瀬七段に攻めを受け切られてしまう。

 最後は3八金打によって波戸が「参りました」と投了。「攻めが強引すぎたかな」と反省の弁を述べていた。目隠しをしている状態で勝った広瀬は、対局後に両者の持ち駒も正確に言い当てるなどして、その記憶力にはギャラリーからも感嘆の声と拍手がわき起こっていた。

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