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サー・アレックス・ファーガソンの奇妙な冒険〈番外編〉「彼はどこにでもいて、どこにでもいる」第四回

text by 東本貢司 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

アーノルド・パーマーを思い出したファーギー

 あの日、ラヴェンダーもモットラム・ホールにいた。ラウンドを終えクラブハウスのバーでビールをグラスを傾けながら、ヴィラ敗退の瞬間をTVで確かめていた。

 と、MCの「アレックス・ファーガソンは初のリーグ優勝を遂げたことをまだ知らないでしょう」の声に、そばにいたある男が「そりゃそうだろ、彼はここでゴルフをしてるんだから」。そこでラヴェンダーは尋ねた。「彼のラウンドスタートは何時だったか知ってるかね?」

 言葉をかけた瞬間、ファーガソンはからかわれているのではと疑ったという。だが納得してからは、我を忘れて叫ぶわ踊りまくるわの狂喜乱舞ではしゃぎまわって、ラウンドパートナーを苦笑させた。そのパートナーはほかならぬ彼の息子、マークだった。

 そしてファーガソンは17番のパッティングを放棄し、18番のフェアウェイに向かいながら、1962年の「ジ・オープン」でアーノルド・パーマーが優勝したことを思い出していたという。「なぜって、わたしも彼同様に生涯最高の勝利を手にしたんだから」

 一つ重要な事実を付け加えておこう。実はその一年前、ファーガソン率いるユナイテッドは栄冠を目前にしながら、エリック・カントナを擁するリーズ・ユナイテッドに悪夢の逆転優勝をさらわれていたのである。

 それも、その夏のユーロ1992を控えてリーグが突如試合日程を切り詰め、なんと6日間に4試合を消化しなくてはならなくなったせいで。ならば、一年後の彼の狂喜乱舞と、その後のリーグ機構に対する妥協を許さない態度もわかろうというものだ。

 彼は掛け値なしに反骨の指揮官だった。それが今日に至るまでの史上に類を見ない輝かしい成功をもたらしてきた原動力の一つだったのは間違いない。

【第五回に続く】

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