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ブラジル時代のカズを追って ~サッカー王国での7年半を知る人々の回想録~(中編)

text by 沢田啓明 photo by Hiroaki Sawada

カズはキンゼ・デ・ジャウーの英雄になった

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80年代にカズがキンゼ・デ・ジャウーに所属した際に会長だったパウミーロ氏【写真:沢田啓明】

 1988年初め、カズはキンゼ・デ・ジャウーのパウミーロ会長からオファーを受けた。21歳になる少し前だった。マツバラとCRBで試合に出続けたことで、カズは自信を深めていた。

 キンゼ・デ・ジャウーが所属するサンパウロ州リーグは、国内の州リーグの中で最もレベルが高い。対戦相手には、ブラジル屈指の強豪がいる。リーグ戦序盤から、カズはレギュラーとして常時出場した。得意のドリブルで左サイドを切り開いて好クロスを上げ、チームの快進撃に貢献していた。足りないのは自分の得点だけ。しかし、ついにその日がやってきた。

 1988年3月19日。ホームにサンパウロ州最大の人気クラブであるコリンチャンスを迎えての試合だった。左ウイングとして先発出場したカズがマッチアップしたのは、その2年前の1986年ワールドカップで2試合に先発出場したブラジル代表右サイドバックのエジソン。

 当時の国内トップクラスのサイドバックで、選手としての格はカズよりもはるかに上だった。しかし、カズは臆することなくエジソンにドリブルを仕掛け、キリキリ舞いさせる。尻餅までつかせた。地元観衆は、大喜び。総立ちになってカズの名前を連呼した。

 前半42分、右ウイングのパウリーニョがサイドを突破し、ライナー性のクロスを入れる。コリンチャンスの守備陣は、長身CFニウソンをマークしていて、左からゴール前に飛び込んできたカズはノーマーク。カズがジャンプして頭で合わせると、大柄なGKロナウドの横を鋭く抜いた。試合後、カズは「やっと点が取れた。夢を見ているみたい。少し涙が出そうになった」と話している。

 カズのプロ入り初ゴールで先制したキンゼ・デ・ジャウーは、後半にもカズのアシストなどで2点を追加。コリンチャンスの反撃を終盤の2点に抑え、3対2で勝った。

「キンゼ・デ・ジャウーがコリンチャンスを倒したのは、実に32年ぶり。ジャウーの町は大騒ぎになり、その日からカズは町の英雄になった」(パウミーロ会長=当時)

【後編に続く】

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