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監督退任続いてエバートンを襲った大激震。クラブのブランド価値を維持することの難しさ

text by 永田到

ファンが大事にしていたクラブのモットー

 今回のブランド刷新プロジェクトはしかし、サポーター不在で推し進めていたわけではなかった。エバートンは、2012年8月のプロジェクト初期段階から、シーズンチケットホルダーやサポーターズクラブの代表メンバーと議論を重ねてきた。

 シーズンチケットホルダー代表としてこのプロジェクトに関わってきたトニー・ボット氏は、公式サイトで次のように述べている。

「サポーターが親近感を感じるまでに少し時間はかかるだろう。しかしこれ(新エンブレム)はエバートンそのものを表している」―PR用コメントとはいえ、クラブとの議論の深さに高いレベルで満足しているがゆえの発言とみていいはずだ。

 このプロジェクトには、サポーター代表が少なくとも5名が関わってきた。さらに、ネット販売大手のキットバック社やオフィシャルサプライヤーとなるナイキからの意見も取り入れられている。エバートンの独断ではなく、サポーターをはじめとするステークホルダーを巻き込んだ形でプロジェクトは進められてきたのだ。

 エバートンはまた、「Nil Satis Nisi Optimum」というモットーを軽んじていたわけでもなかった。公式サイトでは、このモットーについて何度も言及されている。

「クラブのハートの中心にいつでも残り続ける」「クラブの全ての活動の中心に存在し続ける」「クラブとサポーターを動かす精神として残り続ける」…違う表現で繰り返し触れられていることから、クラブがこのモットーを確かなアイデンティティーとして位置付けていることは確実に見て取れる。
 
 しかし、シンプルなデザインを求めていたというエバートンにとって、クラブ名称以外のフレーズをエンブレムに盛り込むことは、デザイン上困難であったことは想像に難くない。

 こうしたプロジェクトの過程は、新エンブレム発表の前段階で、数回に渡って公式サイトで情報公開されてきた。大幅なデザイン変更のインパクトを考慮して、エバートンがサポーターからの理解を得るための努力を果たしてきたことは充分にうかがえる。

 では、今回の騒動はどうして巻き起こってしまったのか。

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