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今季も無冠か。65億円でエジル獲得もアーセナルが弱点だらけな理由

text by 山中忍 photo by Kazhito Yamada / Kaz Photography

駒不足のセンターFW

 そして、最大の不安要素は得点源不足だ。7月にフリーで獲得したヤヤ・ソノゴは、将来性を買った20歳。1トップは、昨季に続いてオリビエ・ジルーが頼りだ。そのジルーを信頼し切れなかったからこそ、ベンゲルは、新CF獲得を今夏の「最優先課題」に挙げたはずではなかったか。

 移籍2年目のフランス代表FWは、リーグ戦3試合3得点と開幕から好調だが、1年目に顕著だった決定力の低さが、プレミアへの慣れと、好スタートによる自信回復で、どこまで改善されるかは疑問だ。

 攻めて勝つ集団が、母国リーグ1での21得点が自己最高のストライカーに依存する状況は心許ない。ゴンサロ・イグアインとの契約に踏み切れず、ルイス・スアレス獲得は売り手へのアプローチを誤り、デンバ・バのレンタル費用に躊躇した代償は大きい。

 ベンゲルは、新トップ下としてエジルを手に入れたことにより、サンティ・カソルラとトマス・ロシツキーをアウトサイドに回せることから、いざとなれば、セオ・ウォルコットや、年内には戦線復帰が見込まれるルーカス・ポドルスキのストライカー起用を考えているのかもしれない。前線中央でのプレーは、両名の希望でもある。

ベントナー起用という悪夢

 だが、指揮官自身もCF事情を危惧している事実は、ニクラス・ベントナーの売却中止が物語る。デンマーク代表FWは、「世界屈指のストライカー」を自認したことがあるように、自信は十分でもゴール前での決定力が足らず、2年前から戦力外。

 今夏は、プレミアに昇格したクリスタルパレスへの売却が決まりかけていたが、アーセナルが新FW獲得を断念した市場最終日に、ベントナーが「新天地に移れなくて非常に残念」とのコメントを出す結末となった。

 ファンにすれば、皮肉を込めて「世界最高のFW」と呼ぶベントナーに頼る事態となれば、悪夢のようなものだろう。だが、その悪夢はジルーの怪我1つで訪れかねない。しかも、彼らに「新たなベントナー」と陰口を叩かれていたのは、他ならぬ昨季のジルーだ。

 たしかに、北ロンドンは土壇場の大物到来に沸いた。しかし、仮にエジル獲得が早期に実現していたとしたら、アーセナルは、今夏も地元サポーターが補強不足を嘆く中で、市場閉幕を迎えていたように思えてならない。

【了】

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