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【佐山一郎×後藤勝 “サッカー狂”特別対談】フットボール・ライティングの地平線 第2回「原稿を方程式に流し込むような機械的な作業をしている記者」

text by 後藤勝 photo by editorial staff

「書かなくていいんだったら書かない」

【佐山一郎×後藤勝 “サッカー狂”特別対談】フットボール・ライティングの地平線 第2回「原稿を方程式に流し込むような機械的な作業をしている記者」
サヤマ・ペーパーバックスの第一弾『闘技場の人』POD版

佐山 いや、やらざるをえない境遇なんですよね。きょうもここに来る前、『GQ』の編集長をやっている鈴木(正文)さんが渋谷まで送ってくれると言うから、二馬力のシトロエン(2CV)の中でちょうどその話になった。

「鈴木さん、ずっと働きたい?」と訊いたら「いや、しょうがないよ、働かなくていいんなら働かないよ!」といわれた(笑)。僕も「僕もですよ。書かなくていいんだったら書かない」って。むしろ書き手をとりまく状況がひどいのはありがたいぐらいで、老けこむ暇がないですね。

後藤 働かなくて済む環境じゃないほうが、刺激があると。

佐山 飢えてしまうのは困るけど、ほどほどの貧乏ぐらいがいいんでしょうね。パリ画壇で半世紀以上活躍されている赤木曠児郎(あかぎ・こうじろう)さんという画家と知り合いなんだけど、ご夫婦揃って80歳代には見えないくらいお若い。

 その方も「生活の不安があったからこそ、ここまで病気しないで来れたんだ」とおっしゃってた。原稿の締め切り続きによる気の張りも大事だよね。そういう意味からも、いつまでもやめない年間シュート1~2本状態のカズに対して最近とても同情的なんです(笑)。

※『サヤマ・ペーパーバックス』http://tougijo.tumblr.com/
作家・書評家の佐山一郎氏が監修する選書シリーズ。今回デジタルリマスター完全版として復刊した初期の代表作『闘技場の人』は、「闘いの現場」にフォーカスをあてたスポーツ・ノンフィクション集です。1992年発売の本書に全篇にわたって補筆・解説文の追加などを行った。今後は既刊書のデジタルリマスター版の刊行を中心に月1冊のペースで刊行していき、新しい書き手の発掘・発表やトークイベントとの連携など、新たな試みを推し進めていく。

【第3回に続く】

サッカー本大賞
「高品質なサッカー書籍こそが、日本のサッカー文化を豊かにする」というスローガンのもと創設された。2015年2月11日(水)には「サッカー本大賞2015」の大賞受賞作が発表される。昨年発表された「サッカー本大賞2014」は大賞を『ボールピープル』(文藝春秋)近藤篤 著、翻訳サッカー本大賞を『理想のために戦うイングランド、現実のために戦うイタリア、そしてイタリア人と共に戦う日本人』(学研教育出版)ジャンルカ・ヴィアリ、ガブリエル・マルコッティ著/田邊雅之 監修が受賞。

<プロフィール>

佐山一郎
1953年3月7日生まれ。東京都目黒区出身。作家、編集者。成蹊大学文学部卒業後、オリコンのチャートエディターを経て流行通信に入社。1980年代前半よりアンディ・ウォーホルズ『Interview』の提携誌だった月刊『Studio Voice』編集長のかたわら、ノンフィクション短編、ラジオ、テレビ出演、新聞、雑誌における新刊評、コラムなどの執筆活動を始める。1984年からフリー。サッカーを中心とするスポーツライターでもある。哲学者森有正(1911‐1976)、ファッションプロデューサー石津謙介(1911‐2005)の長年にわたる研究者。主著書に半自叙伝『雑誌的人間』(リトルモア)、『デザインと人』(マーブルトロン)、批評的啓発書『ブレない「私」のつくり方』(山城パブリッシング)、長編バイオグラフィー『VANから遠く離れて 評伝石津謙介』(岩波書店)、本邦初のオール・サッカー本書評集『夢想するサッカー狂の書斎‐ぼくの採点表から‐』(カンゼン)など。共著に『「花子とアン」のふるさとから‐夫婦で歩く馬込文士村ガイド‐』(インプレスR&D)など。サッカー本大賞選考委員長。

後藤勝
サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「トーキョーワッショイ!プレミアム」(http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン)がある。

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