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【佐山一郎×後藤勝 “サッカー狂”特別対談】フットボール・ライティングの地平線 第2回「原稿を方程式に流し込むような機械的な作業をしている記者」

老舗サッカー誌が1つ、2つと姿を変え、サッカーメディアのありようも大きく様変わりしつつある。移ろいゆく時代の中で、この国のフットボール・ライティングはどこに向かうのだろうか? 「サッカー本大賞」の選考委員長でもある作家・佐山一郎氏とライター・後藤勝氏の対談を3回にわたってお送りする。

text by 後藤勝 photo by editorial staff

【第1回】

サッカーで第一級のものが書ければ…

佐山 『グランタ』という部数3万部ぐらいの文芸誌がイギリスにあります。一時期ライターのキャリアパスとして、まずそこでサッカーの記事を書いてデビューして、最後はニューヨークに行って成功するのが“上がり”、という傾向があったみたいなんです。だからというわけじゃないけど、サッカーで第一級のものを書ければ、その人はなんでも書けるんじゃないかなという予感はしてます。

 アフリカ系トリニダード人の思想家C・L・Rジェームズが記者時代に書いたクリケットについての本『Beyond a Boundary(国境線を越えて)』(日本版未刊行)がスポーツにおける最高の書物といわれるのと一緒です。カメラマンなら、まずファッションが撮れないとだめだとアラーキー(荒木経惟)から聞いたことがあるけど、同じことがライターにもいえるんじゃないかな。

 少なくとも、そういう成功譚を夢見たりするスタートラインのところまでは来ているんじゃないかと思います。やっとのことでオフサイドやワールドカップの説明をしなくてもよい時代になったわけだから(笑)。ただ新聞社の運動部にどっぷり浸かって原稿を方程式に流し込むような機械的な作業をしている記者がそうなれるかはわかりませんが。

後藤 サッカー専業のライターではない自分がサッカーに接近した過去を振り返ると、それこそ佐山さんが去ったあとの『スタジオ・ボイス』でインタヴューを書かせていただいても2000字くらい。しかし『サッカー批評』(現『フットボール批評』)であれば、いわゆる長文ではないにしろ1万字の原稿も書くことが出来て、いま佐山さんがおっしゃったような訓練になった気がします。

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