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世界的サッカー「戦術論者」を育んだ英国文化。気鋭のジャーナリスト、知られざるルーツ

text by 編集部 photo by Getty Images

「3-5-2vs4-4-2」が契機に。大学時代の実体験

-戦術的な視点が、おぼろげながらも育まれていったと。

「それとやっぱり決定的に大きかったのは、大学時代の経験だと思う。

 僕はオックスフォード大学時代、カレッジのフットボールチームに所属していたんだ。1軍では10試合ぐらい、2軍や3軍では50試合ぐらい出場したけど、僕たちのチームは様々なチームの中で唯一、3バックを使っていてね。当時――1990年代の中頃は、イングランドでも3バックが既に注目されていたから、その流行に乗ったんだ」

――君のポジションは?

「右のウイングバック」

――ずいぶんとまあ、大変なポジションを引き受けたもんだね(笑)。

「大学時代にはクロスカントリーの大会にも出場したし、ホッケーもやっていたりしたから体力だけはあったんだ。テクニックはなくとも、タッチライン沿いを上下に走り続けることならできるだろうってことで、右のウイングバックをやることになったんだよ。

 そしたら何が起きたと思う? 大学生のアマチュア、しかも選手の力はそんなに変わらないはずなのに、3-5-2でプレーしている僕たちのチームは、4-4-2を敷いている相手に必ず勝ったんだ。

 理由は簡単さ。3人のセンターバックは、2人のフォワードとマッチアップするから、ディフェンスラインでは一人分、数的な優位に立てる。相手のセントラルミッドフィルダーが2枚なのに対して、こっちは3枚いるから中盤も支配できる。

 もちろん僕たちのようなウイングバックは、相手のフルバック(サイドバック)を前に上げさせるなと命令されたし、フルバックとサイドハーフを一人で相手にすることにもなる。でも実際にはウイングバック1枚で、相手のサイドの選手二枚をカバーすることができた」

――戦術論的に言えば、ウイングバックが押し込まれて5バックにならずに、3バックの状態を維持できた。

「そう。だから僕のチームは勝ち続けた。あれは最高の気分だったし、そこから戦術分析に興味を持ち始めたんだよ」

――君の場合は、自分の実体験が戦術分析のモチベーションになったと。

「その通り。さっきも言ったように、子供の頃から漠然と戦術に興味はあったけど、ここまで深く関わるようになったのは、やっぱり大学時代の経験が大きいと思うんだ」

(取材・文:田邊雅之)

【了】

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[目次]
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Episode.2 60年ぶりに戻ってきた3バック
Episode.3 アンチカウンター理論としてのゲーゲンプレス
Episode.4 ゼロトップはどこへ消えたのか
Episode.5 ベンゲルと4-2-3-1の行方

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