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世界的サッカー「戦術論者」を育んだ英国文化。気鋭のジャーナリスト、知られざるルーツ

イギリス出身の戦術研究第一人者であるジョナサン・ウィルソン氏と、田邊雅之氏の共著『戦術の教科書』(カンゼン)が出版された。ジョナサン・ウィルソン氏は、いかにして戦術論者となっていったのか。共著として執筆に携わった田邊雅之氏が、かつてウィルソン氏に行ったインタビューの中から、そのルーツを語った部分を紹介する。(取材・文:田邊雅之)

text by 編集部 photo by Getty Images

売れに売れた『サッカー戦術の歴史』。エキサイティングだった製作期間

英国出身のジャーナリスト、ジョナサン・ウィルソン氏
英国出身のジャーナリスト、ジョナサン・ウィルソン氏【写真:Getty Images】

――以前君は、フットボールは戦術がすべてじゃない。試合の結果は様々な要素によって決まるし、戦術的な観点ばかりでゲームを捉えると、むしろ本質が見えなくなるとも言った。

 でもジョナサン・ウィルソンと言えば、やはり戦術分析の第一人者としてのイメージが強い。「インバーティング・ザ・ピラミッド(邦題:サッカー戦術の歴史 2-3-5から4-6-0へ)は世界各国で売れに売れたし、ウィリアムズ・ヒルが主催しているブックコンテストのショートリスト(最終選考作品)にも残っている。今、改めてあの本を振り返った印象は? 君にとって、どんな作品になったんだろう?

「締め切りまでの3、4ヶ月前は、僕の人生の中で一番エキサイティングな時期だったよ。傲慢な言い方はしたくないけど、納得ができる作品に仕上がることはわかっていたからね」

――当時のことに関して、一番覚えているのは?

「毎朝、5時半や6時頃に起きる生活を続けていてね。目が覚めるたびに、むかむかして吐き気がしたのを覚えている。

 とは言っても、もちろん体調が悪かったじゃない。『自分は今、本当に書きたかった本を書いている』という実感があったし、神経が高ぶって興奮し過ぎている状態が続いていたんだ。あの頃は、毎朝、トイレに駆け込んで吐いたりしていた。最後はまるで妊婦さんのような具合だったよ」

――アドレナリンが大量に分泌されていたんだね。

「そう。こんな風に言うと、ずいぶんひどい状態だったように聞こえるだろうけど、全然悪い現象じゃなかった。

 本を書くにしても何をするにしても、僕はあんなに興奮したことはなかった。自分の情熱のすべてを注ぎ込んでいたし、寝ても覚めても、ひたすら本のことだけを考えていたんだ。

 そういう意味では、売れるかどうかなんて気にもならなかった。いや、もちろん売れればいいなとは思っていたよ。だけど何よりも大切なのは、自分が本当に書きたかった本を書くことだったから」

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