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悲願の選手権初優勝。双子の涼と悠、前橋育英の中盤支えた田部井兄弟の絆

text by 藤江直人

リーダーとして目を光らせたサッカー以外の部分

山田耕介
前橋育英高校の山田耕介監督

「指導者仲間のみんなからは『日本で一番勝負弱い監督』と言われています」

 試合後の監督会見で、指揮官は自虐的な総括で会場の笑いを誘った。2014年度大会も延長戦の末に星稜に屈した。それまでにはベスト4で4度涙を飲んでいる。それでも、会見場へ足を運ぶ前に、ロッカールームで心を鬼にして厳しい言葉を発していた。悠が当時の記憶を蘇らせる。

「準優勝したけど、誇れるものではないと。この経験は一生後悔すると。ただ、この後悔を忘れずに努力していけば、絶対に財産になると」

 青森山田戦でプレーした7人の2年生が最上級生となり、悔しさを糧に歴史を変えろと声を荒げた。常日頃は厳しかった山田監督が心で泣いていると、田部井兄弟を含めた全員が感じていた。

 新チームの始動を迎え、涼がキャプテンに指名された。ダブルリーダー制をとる伝統から、MF塩澤隼人が部長を拝命した。2人はピッチのなかだけでなく、学校生活や寮生活から目を光らせた。

「細かいところですけど、サッカーに対する姿勢だけでなく、それ以外のところで勝敗が分かれると監督からもよく言われました。去年の悔しさを練習の段階からもち続けられたのが優勝できた理由の8割ならば、残りの2割は自分とシオ(塩澤)とで私生活の部分を締められたことだと思っています。

 たとえば授業中に居眠りしないとか。手を抜こうと思えば甘えられますけど、自分が先頭に立ってやらなきゃいけないと言い聞かせました。いま思えば厳しいことを言ってきましたけど、どんなにサッカーが強くても、そういうところから変えていかないとダメだと思ったので」

 たとえば昨夏のインターハイ得点王で、流通経済大学柏との決勝戦でも延長戦突入寸前に値千金の決勝ゴールをあげた2年生のFW榎本樹は、涼から何度もカミナリを落とされてきた。

「アイツ、試合中にユニフォームの上をパンツから出すんですよ。才能もあるし、背も高いし、テクニックもあるし、資質的には期待していたので、人一倍、厳しく言ってきました」

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