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セリエA 5年前

インテル、復権への道はまたも切り拓かれず。エースの問題に揺れ、不安定な1年を過ごす【18/19シーズン総括(14)】

2018/19シーズンは、これまでスペインが握っていた欧州の覇権がイングランドへ移る結果で幕を閉じた。タイトル獲得や昨季からの巻き返しなど様々な思惑を抱えていた各クラブだが、その戦いぶりはどのようなものだったのだろうか。今回はインテルを振り返る。(文:小澤祐作)

シリーズ:18/19シーズン総括 text by 小澤祐作 photo by Getty Images

序盤は上々の出来。しかし…

インテル
2018/19シーズンのセリエAを4位で終え、来季のCL出場権を獲得したインテル【写真:Getty Images】

 ルチアーノ・スパレッティ体制2年目を迎えたインテルは、2018/19シーズン開幕前の移籍市場で選手を大量に補強。ラジャ・ナインゴラン、マッテオ・ポリターノ、ステファン・デ・フライなどセリエAでのプレー経験豊富な選手をクラブに加えることに成功し、実に7年ぶりとなるチャンピオンズリーグ(CL)とリーグ戦の両方で戦える陣容を揃えた。

 しかし、セリエAではスタートダッシュに失敗。開幕節のサッスオーロ戦を0-1で落とすと、続く第2節のトリノ戦でもドロー。第3節のボローニャ戦には勝利したが、翌4節のパルマ戦を0-1で終えるなど4試合でわずか1勝、順位も17位と苦しいシーズンの幕開けとなった。

 それでも、第5節のサンプドリア戦以降は安定感ある戦いを見せたインテル。新戦力も徐々にフィットし始め、攻守ともにバランスの取れたサッカーを展開し、第11節のジェノア戦まで7連勝を達成している。順位も2位まで回復させるなど、ようやくスパレッティ監督の目指す形が表れ始めた。

 久しぶりの出場となったCLではバルセロナ、トッテナム、PSVとの「死のグループ」を3試合で2勝1敗とするなど、決勝トーナメント進出に向けまずまずの滑り出しを見せた。第4節ではグループリーグ最大の難敵であったバルセロナとの試合を1-1で乗り切るなど、ベスト16入りはほぼ確実なものと見られていた。

 だが、好調な状態もそう長くは続かない。とくに11月から12月にかけてのリーグ戦ではアタランタに1-4で敗れ、ローマ、ユベントス相手にも勝ち切れないなど上位陣とのゲームでことごとく苦戦。さらには第17節で当時最下位に沈んでいたキエーボと1-1で引き分けるなど、チームは明らかに調子を落とす。2018年内のリーグ戦はなんとか3位で乗り切ったが、CLではベスト16入りが濃厚だった状況から一転、残り2試合で勝ち星を挙げられずに、後のファイナリストとなるトッテナムに逆転で決勝トーナメント進出を決められた。

 インテルは年明け以降も調子が上がり切らず、1月はリーグ戦全3試合で未勝利。その後も不安定な戦いぶりは続き、最終節手前で4位に転落している。最後はエンポリに勝利し、なんとか来季のCL出場権を確保したが、夏の積極補強、シーズン序盤の勢いを考えてもこの結果は残念なものとなった。復権への道は、またも切り拓かれなかったのである。

指揮官が目指す戦い方はできたが…

 今季のインテルは主に4-2-3-1のフォーメーションを採用してきた。攻撃時はボール支配率を高め、ゴール前に人数を集めたところで一気に崩しにかかる。中盤底にはマティアス・ベシーノやマルセロ・ブロゾビッチらボールを持てる選手を置き、主にそこから攻撃を展開。サイドからのシンプルなクロスがお決まりだった昨季と比べると、攻めのバリエーションは増えた印象も強かった。セリエAでの平均支配率は56.9%を記録し、ナポリを上回ってトップに立っている。平均パス成功率も86.3%とリーグ2位の成績を収めた。

 守備時はボールを奪われたらすぐにハイプレスを行う。トップ下にナインゴランを配置したのは2列目から鋭く圧力をかけようとした狙いがあったからであり、全体的なラインも高く保っていた。このハイプレスがハマった際のインテルの破壊力は凄まじく、7連勝を達成した時はまさにこの辺りの強さが際立っていた。同7試合で喫した失点数はわずかに「2」と、安定感は抜群。リーグ戦全38試合で許した得点もわずか33と、シーズン通して守備の強度は高かったと言えるだろう。

 インテルは、こうしたデータなどを見ても分かる通り、指揮官の求めるサッカーを体現することには成功していた。たとえば第28節のミラン戦、ハイプレスのスイッチを入れられるナインゴランが不在となった試合では、前線からの守備強度が落ちるといったこともあったが、全体的には悪くなかった。ではなぜ、リーグ戦では4位、CLではグループリーグで敗退してしまったのか。

 最大の問題となったのが「決定力不足」だろう。インテルは失点数こそ33でリーグ2位の成績を収めたが、得点数は57とこれはリーグ6位の成績。トップ4の中では最も低い数字となっている。

 インテルは今季、こうした課題を露呈し、勝ち点を取りこぼす試合が多かった。第17節のキエーボ戦では合計12本シュートを放ちながら1得点、第20節のサッスオーロ戦では同16本で無得点、第35節のウディネーゼ戦では21本放ちながら0点と、とくに格下相手にこうした弱点を見せてしまうことが多かった印象だ。

 インテルはセリエAにおける1試合の平均シュート数で16.7本を記録。これはリーグ全体3番目に多い数字なのだが、このデータを考えても38試合で56得点は明らかに少ない。エースのマウロ・イカルディがリーグ戦でわずか11得点に終わってしまったのも痛かった。

あのお騒がせ妻により異例の決断も

マウロ・イカルディ
エースのマウロ・イカルディ(右)と同選手の妻で代理人のワンダ・ナラ(左)【写真:Getty Images】

 さらにインテルにとって厄介となったのがイカルディの妻で代理人でもあるワンダ・ナラの存在だろうか。キャプテンとしてチームを牽引してきたアルゼンチン人FWだが、ワンダの「インテルはマウロをユベントスに売ろうとした」「インテルはマウロをもっと守るべき」といった挑発的な発言が引き金となったとされており、シーズン中には異例とも言える主将はく奪を言い渡されたのだ。新キャプテンにはGKサミール・ハンダノビッチが就任している。

 主将はく奪をクラブが発表したのは2月13日のこと。ちょうどインテルがリーグ3戦未勝利から脱却し、ここからという時期の大きな決断だった。このイカルディのキャプテンはく奪によってクラブが揺れたのは間違いなく、選手や監督、サポーターも大きく混乱したことだろう。インテルは主将はく奪発表後、またもリーグ戦で2戦未勝利に陥るなど再び勢いを失ったのである。

 キャプテンマークを失ったイカルディはその後、ヨーロッパリーグ(EL)・決勝トーナメント1回戦に向けた遠征メンバー入りを拒否するなど、クラブとの関係が悪化。ラウンド16、フランクフルト戦に向けた遠征メンバー入りも同様に拒んでいるのだ(インテルはそのままベスト16敗退)。

 リーグ戦では主将はく奪後、6試合ベンチ外が続いたイカルディ。4月にはクラブとの和解が報じられ、先発復帰を果たしたが、最終節までの9試合でわずか2得点に陥るなどエースとしての姿を失っていた。昨季のセリエA得点王がこのようなシーズンを送ってしまったのはクラブとして最大の誤算であったはず。ラウタロ・マルティネスの奮闘こそあったが、先にも述べた通り、全体的には得点力不足に陥ったインテル。やはり背番号9の存在がどれほど大きいかというのを実感させられた1年となった。

(文:小澤祐作)

【了】

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