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マンU、ポグバの移籍はどうぞご自由に。再建の指針は「慌てず騒がず力を蓄えよ」【粕谷秀樹のプレミア一刀両断】

昨季のプレミアリーグでは6位に終わり、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権を逃したマンチェスター・ユナイテッド。ジョゼ・モウリーニョに代わって昨季途中に監督に就任したオレ・グンナー・スールシャール監督の下、残された移籍期間の中で、ユナイテッドはどのような強化策をとるべきだろうか。(文:粕谷秀樹)

シリーズ:粕谷秀樹のプレミア一刀両断 text by 粕谷秀樹 photo by Getty Images

デ・ヘアがいてくれれば最後尾は安心だ

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残留の可能性が高いとみられるダビド・デ・ヘア【写真:Getty Images】

 本稿執筆時点で、ダビド・デ・ヘアは契約を更新する確率が極めて高くなっている。週給は1.5倍増の35万ポンド(約4900万円)。エド・ウッドワードCEOさま、たいへんよくできました。褒めてつかわす。

 そしてデ・ヘア、ありがとう。いやぁ、よくぞ残ってくれた。チャンピオンズリーグの出場権は失ったため、一流どころには敬遠される。デ・ヘアを引き留めておくだけの材料を、ユナイテッドは持っていなかった。退団は避けられないなと、覚悟はできていた。いや、むしろ移籍を後押しするような感覚すらあった。これ以上、デ・ヘアに迷惑はかけられない。もう、十分に助けてもらった。あとは気が済むようにしてくれ、と……。

 しかし急転直下、残留の確率は99%超だという。新キャプテンの最有力候補ともいわれている。デ・ヘアがいてくれるのなら、最後尾は安心だ。昨シーズンの終盤はイージーミスも目立ったけれど、ユナイテッドとの関係を維持するか壊すかで心が揺れていたに違いない。メンタルが安定すれば、昨シーズン22節のトッテナム戦で見せたようなスーパーセーブ7回だって期待できる。この夏、デ・ヘアの残留は最高の補強といって差し支えない。

 GKは心配する必要がないのだから、控えにもセルヒオ・ロメロという頼りになる男がいるのだから、フィールドプレーヤーは大胆な人選を進めるべきだ。最終ラインは右にクリスタルパレスからやって来たアーロン・ワン=ビサカ、左は心身ともに成長著しく、副キャプテンに指名したいルーク・ショーを推す。

「マンチェスター・シティはリーグ優勝し、FAカップも制した。リバプールとトッテナムがチャンピオンズリーグ、チェルシーとアーセナルはヨーロッパリーグのテッペンで闘った。オレたちはなにもない。すべてのコンペティションで情けない結果に終わった。こんな屈辱、二度と味わってたまるか!」

 この意気込みこそが副キャプテンに推す最大の理由だ。若手のリーダーとしても飛躍してほしい。そして両サイドバックをこなせるマッテオ・ダルミアンは、本人がイタリア復帰を望んでいたとしても全力で慰留する。このタイプは滅多にいない。

売れるうちに売るべき選手たち

 センターバックはハリー・マグワイア(レスター)ではなく、ヴィクトル・リンデロフとエリック・バイリーに託した方がいいと信じて疑わなかった。

 なぜマグワイアは要らないのかって? レスターが設定した移籍金は8500万ポンド(約119億円)。高ぇよ。リバプールがフィルジル・ファン・ダイクの獲得を7億円近く上まわるなんて、冗談でしょ。体重100kgも重すぎる。ヨーロッパリーグとの中1~中3日の過密スケジュールで腰、膝が悲鳴を上げ、長期欠場を招きかねない体型だ。マグワイアに無駄金を使うよりも、アクセル・トゥアンゼベやティモシー・フォス=メンサーといった若手にチャンスを与えた方が、長い目で見ても正解だ。

 ただ、インターナショナル・チャンピオンズカップのトッテナム戦でバイリーが負傷。長期の戦線離脱を余儀なくされそうだ。急がなくちゃ。それでもマグワイアではなく、バルセロナのサミュエル・ウンティティ、ウェストハムのイサ・ディオップなど、機動力のあるタイプが望ましい。

 もし彼らとの交渉が不調に終わった場合は、ロメル・ルカクを利用できないだろうか。インテルとの交渉は、いずれまとまる。しかし金銭云々ではなく、条件としてミラン・シュクリニアルとの交換を持ち掛ける。ヨーロッパ屈指のCBであり、24歳とまだ若い。このスロバキア代表が獲得できるのなら、ウンティンティやディオップとの交渉は流しても構わない。新CBの一番手はシュクリニアルが望ましい。

 また、今後の成長が望めないクリス・スモーリング、フィル・ジョーンズ、マルコス・ロホは換金対象だ。リスキーなファウルも目立つため、今シーズンから導入されるVARで容疑者となる危険度が高すぎる。リーダー格でありながら、人望のないアシュリー・ヤングも同様だ。彼らのキャリアはすでに終盤を迎えている。あらゆるオファーを受け付け、売れるうちにさばいた方がいい。

ポグバは「どうぞご自由に」

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ポール・ポグバを売却したお金で補強をしたほうがいい【写真:Getty Images】

 さて、ポール・ポグバである。レアル・マドリーに行きたいのなら、ユベントスに戻りたいのなら、どうぞご自由に――。ユナイテッドに興味がないのは明白で、「新しいチャンレンジのときがやって来た」とあちらこちらで退団を示唆している。市場価値は1億5000万ユーロ(約180億円)だという。

 この金額で生きのいいCB(前述)と中盤を一枚ずつ獲得したいところだ。中盤は相思相愛とされるブルーノ・フェルナンデス(スポルティング)か、あるいは2年前から追いつづけているセルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチ(ラツィオ)か。

 ネマニャ・マティッチの衰えをカバーする意味で、サウサンプトンのマリオ・レミナをリストアップしたといわれているが、守備的MFはスコット・マクトミネイで十分だ。下部組織出身の選手がひとり居るだけで、サポーターのモチベーションは俄然刺激される。外国人助っ人は最小限に抑え、フェルナンデス(ミリンコヴィッチ=サヴィッチ)、マクトミネイ、マティッチにファン・マタ、アンドレアス・ペレイラ、フレッジを加える。質量とも申し分ない布陣だ。

 さて、オレ・グンナー・スールシャール監督は、マーカス・ラシュフォードを新エースに指名した。センターフォワードとして起用される公算が非常に大きい。スウォンジーからやって来たダニエル・ジェームズもボスのお気に入りだ。左右どちらかのウイングに収まるに違いない。

 アントニー・マルシャルは球離れが悪く、好調時が長く続かない悪癖もあるが、基本的に二桁ゴールは期待できるために確保。下部組織出身のメイソン・グリーンウッドは、あしたのユナイテッドを支える逸材だ。今シーズンはトップチームに帯同し、英才教育を施す。ここにサイドバックよりもウイングとして適性があるディオゴ・ダロトを含まれば、前線はそれなりにはやり繰りできるだろう。

さよならリンガード

 ふたりほど余った。もはやアレクシス・サンチェスの心はここににない。35万ポンド(約4900万円)もの週給が移籍交渉を妨げているが、ユナイテッドが年俸の半分を肩代わりするような条件を付けてでも放出すべきだ。ジェシー・リンガードは夏休みの悪事でヒンシュクを買った。卑猥な言動をSNSに投稿し、マリオ・バロテッリと同類であることが明らかになった。プライベートが緩んでいるタイプは、若手に悪影響を及ぼす。ことし27歳と売りごろでもある。ポグバとも親しいだけに、残しておくと不満分子になりかねない。さよならジェシー。

 噂されていたダイレクターは就任せず、強化は依然としてウッドワードが仕切っているため、あまり期待していない。ジェームズとワン=ビサカで打ち止めも覚悟している。ただ、スールシャール監督がクラブの機軸を英国系の若手に切り替えたため、本文中に触れたマクトミネイとグリーンウッドだけではなく、タヒス・チョンやジェームズ・ガーナーにもチャンスは少なからず与えられるはずだ。

 シティとリバプールは背中すら見えなくなってきた。しかし、彼らが千年王国を築けるはずもない。いずれ必ず落ちてくる。そのときに備え、いまユナイテッドは慌てず騒がず、力を蓄えるべきだ。急がば回れ。悠々としていようじゃないか。

 なお、本稿はユナイテッドの強化プランに従いつつも、筆者の偏見と独断を軸に構成した。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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