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アーセナル、お粗末なCBがブチ壊したリバプール戦。大胆な守備的采配は、将来に生きる授業に【粕谷秀樹のプレミア一刀両断】

プレミアリーグ第3節、リバプール対アーセナルが現地時間24日に行われ、3-1でリバプールが勝利した。この試合でアーセナルのウナイ・エメリ監督は守備的な布陣を採用したにもかかわらず3失点で完敗。チームが抱える問題点が浮き彫りとなった。(文:粕谷秀樹)

シリーズ:粕谷秀樹のプレミア一刀両断 text by 粕谷秀樹 photo by Getty Images

ゴール前にバスを並べたアーセナル

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リバプール戦で守備的な戦術を採用したウナイ・エメリ監督【写真:Getty Images】

 クラブには伝統、文化、イメージがある。アーセナルであれば、アーセン・ヴェンゲル監督が築いたアタッキング・フットボールだ。内外のメディアが「守備陣を補強すべきだ」と訴えても、ヴェンゲルは頑なに前線のタレントを獲得し、試合でも守り切ることをよしとしなかった。しかし、監督が代われば異なるゲームプランが用いられる。昨シーズンからアーセナルを率いているウナイ・エメリ監督が、ゴール前にバスを並べた。

 プレミアリーグ第3節、リバプールとのアウェーゲームに挑んだエメリ監督は、守りの基本プランとして4+4(4+3+1と表すべきかもしれない)を自陣深めに配置。リバプールが誇るFabulous3(ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネ、モハメド・サラー)に、裏だけは絶対に取らせたくない慎重策である。

 プランが的中した時間帯もあった。サイドバックが中央に絞り、空いたサイドは捨てる、もしくはMFがカバーする。アウェーで失点を重ねていたヴェンゲル体制下では、決して採用されなかったプランだ。意図的に自陣に撤退するなんて、一昨シーズンまでは絶対に見られなかった光景である。

 ただ、なぜダニ・セバージョスが先発だったのか。開幕節のニューカッスル戦、続くバーンリー戦でも証明したように、彼はポゼッションありきのタイプである。主導権を握れず、ボールに触れる機会も限られることが分かっていたのだから、耐性の高いルーカス・トレイラを起用すべきだった。この日、セバージョスはほとんど傍観者だった。

疑問を抱いた人選

 2トップも守備面ではほとんど貢献できなかった。ピエール・エメリク=オーバメヤン、ニコラ・ペペともにプレスバックするわけではなく、リバプールのビルドアップを牽制するわけでもない。守備のタスクが免除されていたとしても、相手ボールの際に傍観者が3人もいては、勝てといっても無理な相談である。

 ヴェンゲル前監督に見いだされ、アーセナルに黄金期を築いたティエリ・アンリやロベール・ピレスは、相手のカウンターを阻止するため、イエローカードにならない程度の狡猾なファウルを厭わなかった。エメリ監督は、なぜアレクサンドル・ラカゼットの先発起用をためらったのだろうか。彼は昨シーズンもプレスバックで中盤と最終ラインを助け、必要ならイエローカードも辞さないタイプでもある。

 カウンターをベースにするのなら、ラカゼットとトレイラは絶対に必要なピースだ。エメリ監督の人選は合点がいかない。両者のコンディションに一抹の不安があったとの説もあるが、それならば異なるプランで挑むべきだった。

指揮官も不満だったD・ルイスの軽すぎる対応

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PKを献上したダビド・ルイス【写真:Getty Images】

 3失点のすべてに、センターバックが絡んでいる事実も看過してはいけない。先制点のシーンで、トレント・アレクサンダー=アーノルドのCKは正確無比だったが、ソクラティス・パパスタソプーロスはあまりにも簡単に、ジョエル・マティプに競り負けている。その対応はお粗末といわざるをえない。しかし、ソクラティスなど足もとにも及ばない〈お粗末さん〉が、エメリ監督のプランをものの見事にブチ壊した。

 ダビド・ルイスである。モハメド・サラーのユニフォームをつかんでPKを献上する。左サイドでいい加減な対応をし、2季連続得点王にゴールを許す。集中しているときは世界でもトップランクだが、心にさざ波が生じると凡庸以下の選手に変身する。天使か悪魔か、光か闇か……。エメリ監督も「58分のPKが試合の分かれ目。2点差になってプラン続行は難しくなった」と、名前を出してはいないがD・ルイスの軽すぎる対応に不満も隠していない。ところが……。

「今シーズンからVARが採用されているし、ユニフォームを引っ張ったみたいだからPKは仕方がない。でも、力を入れて倒したわけじゃない。選手全員が大きめのユニフォームを着用すれば、もっとPKが増えるだろうね」

 当のD・ルイスは反省しているのか、いないのか。敗戦の根本といって差し支えない対応だったにもかかわらず、うすらでかい自尊心だけは健在だった。あまりにも苦しい言い訳だ。あのプレーはユニフォームの大小に関係なく、絶対にPKである。

「シティ、リバプールとの差は160km」

 続く4節はノースロンドン・ダービーだ。ハリー・ケインやソン・フンミンなどを擁するトッテナムの強力攻撃陣を相手に、エメリ監督がリバプール戦と同様のプランをホームゲームで採用しても不思議ではない。17節のマンチェスター・シティ戦も同様だ。ディフェンディング・チャンピオンと撃ち合ったら、ダメージ甚大のKO負けは必至だ。トッテナム戦とシティ戦で、リバプール戦後半のD・ルイスが現われると、大量失点も覚悟しなければならない。彼の代わりが務める選手もいない。

 とはいえ、アーセナルは夏の積極的な補強に伴い、最適解を探し始めたばかりだ。ラカゼット、オーバメヤン、ペペの同時起用は可能なのか。セバージョスのベストポジションはどこなのか。リバプール戦は奇策だったとしても、基本的配置は4-3-3か4-2-3-1か。試行錯誤を繰り返しながら、圧倒的な優勝候補2チームと渡り合えるだけの陣容を整えなければならない。その意味で、リバプール戦の敗北はかなり厳しいが、将来に生きる授業だった。

 OBのレイ・パーラーが「シティ、リバプールとの差は160km」と語ったように、一朝一夕で追いつくことは難しい。守備的すぎる戦術はアーセナルに似つかわしくないが、伝統や文化を否定するのがエメリ監督の勇気と捉えられないだろうか。判で押したようにメンバーを固定したヴェンゲル前監督と異なり、エメリは少なくとも対戦相手を分析したうえでラインアップを決めている。

 開幕2試合で攻撃センスは十分に感じられた。リバプール戦で見せたカウンターも迫力があった。あとはチームとしての守備戦術を素早く浸透させるかが、チャンピオンズリーグ出場権奪還の大きなカギだ。個人のケアレスミスをなくすことはもちろん、どこで、どのようにしてボールを奪うか、守備の基準点を明確にしなくてはならない。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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