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セリエA 5年前

ミランはあの屈辱的な敗戦からどう変わったのか。ブレシア戦で見えた、収穫と課題とは

セリエA第2節、ミラン対ブレシアが現地時間8月31日に行われた。第1節のウディネーゼ戦を落としたミランはこの日、システムを4-3-1-2から4-3-2-1へと変更して試合に挑み、1-0で勝利している。早くもマルコ・ジャンパオロ監督は変化を加えてきた格好となったが、そこに見られた収穫と課題とは。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

昇格組になんとか競り勝つ

ミラン
ミランはセリエA第2節でブレシアと対戦。チャルハノールのゴールを守り切り、1-0で勝利している【写真:Getty Images】

「負けることはわかっていた」「イタリアサッカーの恥だ!」。この辛辣なコメントは、現地時間8月25日に行われたセリエA第1節、ウディネーゼ対ミランの試合後に、後者の公式ツイッターに寄せられたものだ。ユベントスやナポリ、アタランタらがきっちりとスタートダッシュに成功した中、ミランはダチア・アレーナで0-1と敗戦。その怒りと情けなさを訴えるサポーターが、SNS上で自らの思いをぶつけたのである。

 だが、その怒りが生まれるのも当然だ。ミランはウディネーゼとの一戦で枠内シュート0本という屈辱的な内容に終わっている。もちろん得点の匂いはまったく感じられず、ウディネーゼの方が遥かに良いサッカーを展開していた。むしろ勝ち点1で終わることができれば御の字。ミランはそのような試合を演じてしまったのである。

「今日の試合から多くのポジティブな面を見出すのは難しい」。ウディネーゼ戦後の会見でミランを率いるマルコ・ジャンパオロ監督はこのように話していたという。「ポジティブな面を見出すのは難しい」。この言葉通り、その日のミランに芽生えたものは不安だけであった。

 そんな屈辱的な敗戦から約1週間後の8月31日。ミランはホーム開幕戦でブレシアと対戦している。相手は昇格組とはいえ、第1節でカリアリをアウェイで下しているなど、決して力がないチームではない。むしろ、その勢いのままに大物食いも十分感じさせるクラブだ。ミランにとっては、もちろん油断があってはならなかった。

 だが、大歓声に包まれたサン・シーロに試合開始のホイッスルが鳴り響くと、まずテンション高く入ったのはミランだった。そしてその勢いを切らさぬまま、12分にMFハカン・チャルハノールが頭でゴールネットを揺らし、ホームチームが先制。立ち上がりはほぼ完璧ともいえるものだった。

 その後はやや試合のペースが落ち、両者ともにそれほど良い形を見せられず。後半は少しずつブレシアが前に出るようになったが、それでもやはりゴールは生まれない。結果、試合は1-0のまま終了。ミランは連敗を避け、今季初白星を手に入れた。ホームでしっかりと勝ち点3を奪取し、一安心といったところだろうか。

前節からの改善は?

 さて、この試合でミランはさっそく“いつもと”違う形を見せてきた。ブレシア戦ではジャンパオロ監督の代名詞であり、プレシーズンマッチから採用してきた4-3-1-2のシステムを封印。新たに4-3-2-1を導入したのである。

 ジャンパオロ監督就任後、徹底して4-3-1-2の強化を進めていたミランだが、ここには明確な問題点があった。トップ下の人選だ。これまではFWスソが同ポジションを務めたが、彼は本来サイドアタッカーの選手であり、決してプレーメイカー的な存在とは言えない。そのため、背番号8にボールが収まっても同選手の持ち味がまったく発揮されず、攻撃がそこで停滞することも多かった。トップ下があまり機能しないため、このシステム自体もあまり効果的とは言えなかったのである。

 そこを危惧したジャンパオロ監督はブレシア戦でスソをシャドーに置いた。だが、試合の中でのポジションは4-3-3の右ウィングのような形となっており、スペイン人FWは攻撃時、ほぼ同サイドに張っていた。

 しかし、やはりその方がスソの持ち味は発揮される。相手陣内深い位置まで押し込んでCBとGKの間に鋭いクロスを送るシーンがブレシア戦でもいくつか見られ、そこから決定機も生まれている。先制点の場面も右サイドを突破したスソのクロスが起点となっており、そのあたりの効果は明らかだった。

 そしてスソはサイドでボールを持てる。そこで空いた中央のスペースをMFフランク・ケシエが徹底的に使う。ブレシア戦ではこの形がよりスムーズにできていたようにも思う。事実、ブレシア戦ではスソとケシエだけで合わせて7本もの決定的なパスを送り込んでいるのだ。スペイン人FWをサイドで起用することで、攻撃が活性化するのは明らかだった。

 また、FWアンドレ・シウバとMFサム・カスティジェホがポジションを変えながら動き続けていた点もスムーズな攻撃の要因となっただろう。ウディネーゼ戦では2トップの動きがあまりにも単調となっていたが、この日は左サイドと中央で頻繁にポジション交代が行われており、ブレシア守備陣は捕まえるのに苦労していたように見えた。最後の突破力は物足りなかったが、ウディネーゼ戦より攻撃の形が見えたことはこの日の収穫と言えるだろう。まだ満足できるレベルでないのは確かだが…。

今後、ミランはどうしていくべきか

マルコ・ジャンパオロ
今後、マルコ・ジャンパオロ監督はどうチームを組み立てていくか。手腕が試される【写真:Getty Images】

 だが、この形は昨季のジェンナーロ・ガットゥーゾ監督の下でも見せていたのが事実。これがまったく新しいものであれば面白かったかもしれないが、この攻撃は右サイドのスソが封じられるとすぐに停滞してしまうのがマイナスポイントだ。今後に対戦するチームもそこを十分に理解しているはずで、やはりこれからは違った何かを見せる必要があるだろう。

 4-3-3のシステムを採用する場合は、やはり左サイドにも突破力のある選手を置く必要がある。現在はカスティジェホやFWファビオ・ボリーニらが同ポジションの候補だが、彼らではやはり物足りなさが残る。だからこそ、ミランはブラジル代表FWのエベルトン獲得に最大限の力を注ぐべきだ。ただ、コパ・アメリカ2019(南米選手権)得点王をチームに加えるのは当然ながら容易ではないだろう。だとすれば左サイドには新加入のFWラファエル・レオンなどを抜擢してもいいかもしれない。

 また、ジャンパオロ監督が4-3-1-2のシステムを再び採用する場合、スソのトップ下起用は回避すべきである。スペイン人FWを置くならば2トップの一角がベストと言えるのではないか。トップ下にはキープ力もあり、アイドルは元ブラジル代表MFのカカであるというMFルーカス・パケタやチャルハノール、状態が万全であればMFジャコモ・ボナヴェントゥーラなどを起用すると面白いかもしれない。彼らはボールをキープし、パスを散らす能力が決して低くないため、同ポジションでも難なくプレーできるはずだ。

 新監督を迎えてのシーズンは、どんなクラブにとっても難しいことは確か。しかし、ミランの場合は開幕から2試合にして早くもスタイルの変化が生じていることから、まだ初期の準備段階から抜け出せていないことは明らかだ。目標であるチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得に向け、いち早くチームの最適解を見出すことが重要となるだろう。ジャンパオロ監督の手腕が試される。

(文:小澤祐作)

【了】

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