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マンチェスター・ユナイテッドはトップ10で満足せよ。性急な若返りに低レベルの中盤争いに疑問【粕谷秀樹のプレミアリーグ補強診断(2)】

2019/20シーズンは、夏の移籍市場が終了した。この夏も各チームで様々な移籍があったが、それぞれ主要クラブの動きはどうだったのだろうか。今回はプレミアリーグでおなじみの粕谷秀樹氏がマンチェスター・ユナイテッドの補強を読み解く。(文:粕谷秀樹)

シリーズ:粕谷秀樹のプレミアリーグ補強診断 text by 粕谷秀樹 photo by Getty Images

ルカク&サンチェス放出でなぜ…

マンチェスター・ユナイテッド
ワン=ビサカ、マグワイア、D・ジェームズの獲得には成功したが…【写真:Getty Images】

【補強診断】不安。要再検査
【疑問点】性急な若返り
【キープレーヤー】ポグバ
【ノルマ】トップ10

 (1)ダビド・デ・ヘアの契約延長、(2)スピード豊かな右サイドバック、(3)超一線級のセンターバック、(4)中盤センターのテコ入れ、(5)本格派のウイング、(6)20ゴール前後が期待できるアタッカー。

 マンチェスター・ユナイテッドは、6つものテーマを抱えて移籍市場の開幕を迎えた。

 サインには至っていないものの、デ・ヘアとの契約更新は確実だ。クリスタル・パレスからやって来たアーロン・ワン=ビサカは右サイドバックの不安を一掃した。ハリー・マグワイアという有能なセンターをレスターから獲得し、ダニエル・ジェームズ(スウォンジーから移籍)はウイングの定位置をつかみそうな勢いだ。6テーマのうち4つをクリアできたのだから、及第点をつけたくもなる。

 しかし、アタッカーは獲れなかった。なぜマリオ・マンジュキッチ(ユベントス)を、フェルナンド・ジョレンテ(ナポリ)を取り逃がしたのだろうか。ロメル・ルカクとアレクシス・サンチェスが退団(ともにインテル・ミラノへ移籍)することは、だれの目にも明らかだった。

 ルカクの心はユナイテッドになく、サンチェスも環境を変えたがっていた。両選手が去ると、前線の層は薄くなる。アントニー・マルシャル、マーカス・ラッシュフォード、18歳のメイソン・グリーンウッド、スウォンジーからやって来たばかりのジェームズ。マルシャルは3節のクリスタル・パレス戦で大腿部を負傷した。

 この事態は想定内である。希薄な前線にひとりでも負傷者が出ると、にっちもさっちもいかなくなる。ユベントスで出場機会が激減する公算大のマンジュキッチや、7月1日から8月29日まで無所属だったジョレンテなどを手中に収め、人員を確保しなくてはならなかった。しかもルカクとサンチェスを手放したのだから、前線に関してはマイナスだ。

違いを創り出せるのはポグバだけだが…

ポール・ポグバ
ポール・ポグバ【写真:Getty Images】

 中盤のテコ入れも叶わなかった。オーレ・グンナー・スールシャール監督はスコット・マクトミネイに期待しているが、攻守ともにインパクトが薄い。とくに攻撃面は近距離のパスさえ満足につなげず、1-2で敗れた3節のクリスタルパレス戦でも、本拠オールド・トラッフォードの不評を買った。

 そして、ポール・ポグバである──。

 昨シーズン終了後、レアル・マドリーやユベントスへの移籍を示唆し、エージェントのミーノ・ライオラも、「上層部はポールの気持ちを理解している」と語っていたが、この夏、ユナイテッドが中盤センターを積極的に獲りにいった形跡はない。マドリーとユベントスが9000万ポンド(約117億円)ともされるポグバの移籍金を用意できず、残留という予想外の結果を招いただけだ。

 それにしてもスールシャール監督は、ポグバに全幅の信頼をまだ寄せるのだろうか。現有勢力のなかでは飛びぬけた創造力を有しているが、典型的な気分屋だ。不調を長く引きずる。

 開幕のチェルシー戦でさすがのパフォーマンスを見せた後、続くウォルヴァーハンプトン戦でPKを失敗した。3節のクリスタル・パレス戦でも続くサウサンプトン戦でも、自陣で力なくボールロスト。それでもポグバに託さなくてはなにもできない。違いを創りだせるのは、唯一この男だけだ。

 結局、今シーズンも代わり映えしない。ポグバと同等、もしくは彼のセンスに呼応できる者がいない。マティッチ、フレッジ、アンドレアス・ペレイラ、マクトミネイが横一列で低レベルの定位置争いを繰り返す。テコ入れすべき中盤センターは、手付かずに終わった。

 せめてポグバが、ファン・マタのメッセージを真摯に受け止め、心変わりしてくれないものだろうか。その優しさで若手にも慕われている人格者は、語りかけるようにSNSで発信した

「ユナイテッドに留まる意義は十分にある。優勝を争えるポジションに必ず戻れると、僕は信じているよ。このクラブを偉大にした選手たちも、強いメンタリティで闘っていたと思う。僕もそうありたい。ユナイテッドは特別なクラブなんだ」

段階を踏まずして成功は困難

 8月30日、クリス・スモーリングが1シーズンのローンでローマに新天地を求めた。プレシーンマッチでエリック・バイリーが膝に全治5か月の重傷を負ったにもかかわらず、センターバックの序列はマグワイア、ヴィクトル・リンデロフ、アクセル・ツアンゼベに次ぐ四番手。元イングランド代表で、ゲームキャプテンも務めた男のプライドはいたく傷つけられた。

 また、両サイドバックをこなせるマッテオ・ダルミアンをパルマに手放した、アシュリー・ヤングも左右のサイドバックの控えに格下げとなり、ネマニャ・マティッチとマタも定位置は約束されていない。

 ベテランから若手へ──。スールシャールが新旧交代を図っていることは、人選をみても明らかだ。ただし、少し急ぎすぎてはいないだろうか。

 昨シーズンまでのシティはヴァンサン・コンパニがロッカールームをまとめ、ピッチ上ではダビド・シルバ、セルヒオ・アグエロ、フェルナンジーニョといったベテランがにらみを利かせていた。リヴァプールでは34歳のジェームズ・ミルナーが誰よりも汗をかいている。

 チームの軸を英国系の若手、中堅に切り替えるスールシャール監督のプランは全面的に支持するが、何事も段階を踏む必要がある。ましてリーダーになるべき年齢に差し掛かったポグバ、ジェシー・リンガードが精神的にまだガキで、プライベートでも世間のヒンシュクを買うケースも少なくないのだから、どこかでベテランの力を借りなくてはならない。

 フランク・ランパード新監督のもと、積極的に若手を登用するチェルシーも、セサル・アスピリクエタ、エンゴロ・カンテ、ウィリアンなど、要所を締めるのは勝利の味を知る歴戦の勇士たちだ。マティッチも現状を鋭く指摘している。

「ポテンシャルは申し分ない。プレミアリーグでもトップクラスだ。だが、経験があまりにも足らなすぎる」

 かつて、ユナイテッドに籍を置いたズラタン・イブラヒモビッチも、「俺はLAギャラクシーの選手だが、必要とされるなら戻るぜ」と、古巣の窮状を喘いでいた。

 マティッチやイブラヒモヴィッチの言葉を借りるまでもなく、経験不足の現チームがトップ4に舞い戻る確率は低い。ゲームプランの練度ではウォルヴァーハンプトン、レスターを下まわっている。ヨーロッパリーグ出場権確保も難しい。トップ10で満足すべきか。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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