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中島翔哉は監督から大目玉、安西幸輝は「天才」の大喝采。ポルトガルで分かれた2人の明暗

ポルトガル1部リーグの第5節が現地15日に行われ、ポルティモネンセとポルトが対戦した。両チームにはそれぞれ日本人選手が所属している。試合にはポルティモネンセの安西幸輝とポルトの中島翔哉が出場したが、2人の迎えた結末は対照的だった。(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

text by 舩木渉 photo by Getty Images, Wataru Funaki

流れを変えた安西のスーパーゴール

中島翔哉 安西幸輝
ポルトの中島翔哉(左)とポルティモネンセの安西幸輝(右)がピッチ上でマッチアップ【写真:Getty Images, 舩木渉】

 日本人2人の運命は、最後の最後でひっくり返ってしまった。

 現地15日に行われたポルトガル1部の第5節、ポルティモネンセ対ポルトは2-3で後者の劇的な勝利に終わった。前半までポルティモネンセをシュート0本に抑え込み、2点のリードを得ていたポルトはアウェイで勝ち星を拾う形になった。

 前半は完全にポルトのペースだった。ポルティモネンセは攻撃の形を全く作らせてもらえず、攻撃を跳ね返すには大きく蹴り出すしかないほどに圧倒された。そして25分にはハンドで得たPKをDFアレックス・テレスが決め、前半終了間際に見事な崩しからゼ・ルイスが2点目を奪う。まさに理想的な展開だった。

 ポルティモネンセの右サイドバックとして先発出場した安西幸輝も「前半は本当に相手のクオリティが高くて、チーム全体的にボールを蹴りすぎていて、あまりうまくボールがつながらなくて、(自分も)ボールを受けられなかった」と、攻守において持ち味を出し切れなかった前半を悔やんだ。

 ところが後半、55分あたりから潮目が変わり始める。安西は「後半相手が少し間延びしてきた」と読んでいた。ポルティモネンセがボールを持てる時間が増え、サイドバックの攻撃参加も増える。

 早めの交代によって投入された選手たちもいいリズムを作り出し、テンポの良い崩しからゴール前まで進出できるようになっていった。こうして徐々に何かが変わり始めているところで、72分に中島がポルトの1枚目の交代カードで投入される。

 すると試合は動いた。74分に途中出場のデネルが反撃の狼煙となるゴールを奪い、直後の77分には安西の見事な突破からの左足ミドルシュートがゴールネットに突き刺さった。決めた本人が「あの瞬間だけなんかすごく空いて、本当に上手くボールを運べて、シュートはもうすごい良かったですね」と語った通り、それまで曖昧なプレーをほとんど見せなかったポルトの守備網に、一瞬だけぽっかりとドリブルで侵入してシュートを決めるまでのコースが空いたのである。

 これで完全に流れはポルティモネンセに傾いた。ラジオ実況は『なんてゴールだ!』と安西の強烈な一発にこれでもかと叫び声をあげ、テレビ中継の実況も『テンサイ!』と日本語で吠える。スタジアムの空気を一変させるだけのクオリティとインパクトが、安西のシュートにはあった。

監督激怒。中島に詰め寄り…

 残り10分あまり。アディショナルタイムに入っても、ポルトの選手たちのプレーから焦りが消えない。もうワンプレー、あのコーナーキックさえ耐えていれば、国内屈指の強豪から勝ち点1をもぎ取ることができた。しかも日本人DFの活躍もあって……。

 だからこそ「もったいなかったですね、最後が…本当に」という安西の言葉は、重く響いた。VARによるレビューを挟んでポルトのDFアレックス・テレスにレッドカードが提示されるなど一悶着あったあとの、おそらく時間的にはラストプレー。

 98分、ヘスス・コロナの蹴った左コーナーキックに、攻め上がっていたセンターバックのイバン・マルカノが頭で合わせた。ポルトに土壇場でまさかの勝ち越しゴールが生まれ、7割ほどがポルトファンで埋め尽くされたスタジアムが割れんばかりの歓声に包まれた。

 試合を再開した瞬間、タイムアップの笛が鳴った。安西はしばらく座り込んだまま動けなかった。2-2のまま終わってポルティモネンセが3連勝中の強豪ポルトから勝ち点1をもぎ取ったとなれば、同点ゴールを決めた24歳の日本代表DFはヒーローになっていたはずだった。

 一方、中島はチームが劇的な勝利を収めた中で、ほとんど見せ場らしい見せ場を作ることができなかった。72分の投入後は不用意なポジショニングと判断ミスからボールを奪われてカウンターを食らう場面が散見され、いい形でボールが入ってくる回数も少ない。守備時には攻め残るため、左サイドが押し込まれる一因ともなった。

 だが、勝った。ゴールの瞬間にスタンドから乱入者が現れるほど狂喜乱舞した劇的な勝利の瞬間、低調ぶりはいくらか忘れられるかもしれないと期待した。取りこぼしかけた勝利を手にし、チームが歓喜に酔いしれていたすぐ横で、中島はセルジオ・コンセイソン監督から大目玉を食らっていた。

 何を伝えられていたのかはわからない。それでも間近で見ていた安西が「やばかったですね。めっちゃ怖かったです」と証言するほどの剣幕で、指揮官は中島に詰め寄った。次第に周りに選手が集まり、オターヴィオが間に入ってコンセイソン監督をなだめるほどの激怒だった。

 これほどまでに怒りをぶつけられた理由はいくつか推測できる。安西が「あの監督の戦術って、すごく守備をしっかりやらなきゃダメなタイプだと思う」と述べた通り、中島に関して言えば守備における貢献度の低さは明らかで、失点場面にも少し絡んでいる。

2人の迎えた結末は…

 ポルティモネンセの2点目が決まる直前、安西が胸で味方GKからのロングボールをコントロールした瞬間に、中島は前線からゆっくりとした走りで近くまで戻ってきていた。しかし、そこでスピードを上げず。2人はすれ違うような形になり、一気に崩されてしまった。

 コンセイソン監督からすれば、あの場面でスプリントをかけてカバーに入っていれば状況は違ったと考えてもおかしくない。それ以外の場面でもボールを持ちすぎて相手に狙われたり、無謀とも言える飛び出しで相手にプレッシャーをかけたり、中島にはチーム全体からはやや逸脱した動きが目立った。

 あの激怒ぶりを見ると、もしかしたら取り返しのつかない過ちを犯してしまったのかもしれないとさえ感じる。

 ポルトにおけるポジション争いはシンプルになった。右サイドは現在負傷中のロマーリオ・バローとポルティモネンセ戦で獅子奮迅の活躍を披露したオターヴィオが競い合う。当初右サイドの一番手と見られたヘスス・コロナは、ウィルソン・マナファやレンゾ・サラビアが信頼を掴み切れていない右サイドバックに収まりそうだ。

 そうなると中島は、22歳のコロンビア代表FWルイス・ディアスと左サイドの定位置を巡って争うことになる。他のポジションの状況を考えれば一騎打ちと言って差し支えない。ただ、ディアスが攻守に安定してハイパフォーマンスを維持しており、背番号10の日本人アタッカーとしては難しい状況と言える。そして、その傾向は今回の監督からの大激怒により加速するかもしれない。

 安西と中島の明暗は、試合終盤から試合後にかけて大きく動いた。価値あるドロー目前まで迫りながら勝ち点を落としてしまった安西と、チームの力で劇的な勝利をもぎ取りながら歓喜の輪に加われなかった中島。2人の運命はこれからどう動いていくだろうか。

 強豪を相手に「ゴール」という明確な結果を残した安西に対する周囲の信頼は確実に高まっている。「結果を出すことによって周りの選手が認めてくれて、ボールが出てくると思う」と手応えはあった。

「自分の価値をどんどん高めていくことによって、周りの人から認められるし、リーグで一番のサイドバックになりたい。そのためには1試合1試合、階段をどんどん踏んで、やっぱり代表のサイドバックのスタメンを絶対に獲りたいので、そこまで気合いを入れてやりたいと思っています」

 そう語る安西の決意のこもった表情は実に頼もしい。一方、中島は自身が置かれた状況を楽観視してはいられない。このままでは途中出場がメインの脇役のまま終わってしまう。課題は明らかなだけに、コンセイソン監督を唸らせるような今後の挽回に期待したい。

(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

【了】

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