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中島翔哉、ポルトで生き残る道は? 監督激怒が招いた不要な論争、未来のため真に必要なもの

ポルトに所属する日本代表MF中島翔哉が、セルジオ・コンセイソン監督から激怒された問題は大きな話題となっている。多くの視線が注がれる場所で叱責された原因は何だったのだろうか。そして真の問題点はどこにあるのだろうか。この一件から、中島がポルトでの競争を勝ち抜くために、今取り組むべきことも見えてきた。(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

中島に監督激怒。一体なぜ?

中島翔哉
ポルトに所属する日本代表MF中島翔哉【写真:Getty Images】

「みんなすごくいい人たちが多いので、プレーしている時はやりやすくやらせてもらっていますし、すごく楽しく、どんどん成長できるんじゃないかと思っています」

 今月初旬、日本代表活動のため帰国した際に中島翔哉はポルトでの日々をこのように語った。今夏に鳴り物入りで加入しながら、なかなかまとまった出場機会を確保できていない中でも充実の日々を過ごせているのだろうと我々は想像していた。

 しかし、カタールワールドカップのアジア2次予選でミャンマー代表から鮮烈なゴールを奪い、ポルトガルに戻って、彼は厳しい現実を突きつけられた。15日に行われたポルトガル1部リーグ第5節のポルティモネンセ戦に途中出場するも、2つの失点に関与してしまう。

 そして試合後には、多くの人の視線が注がれたピッチの上でポルトのセルジオ・コンセイソン監督から厳しく叱責を受けたのである。この一件はポルトガル国内でも大きな話題となり、新聞の一面を飾るなど波紋が広がっている。

 ポルトガル紙『レコード』は「容認できないコミットメントの欠如」があり「中島がまだ理想的なチームへの適応から程遠いことを証明した」と厳しく指摘し、また別の新聞では「守備への切り替えとプレッシャーに関する困難がある」と具体的に課題とされる部分にも言及されていた。

 結局のところ、コンセイソン監督は「我々の間での会話だ」と中島とのやりとりの内容を語ろうとせず、本人も口を開いていないため真相はわからない。だが、何らかの問題があり、それが指揮官の逆鱗に触れてあのような公衆の面前での叱責につながったのは間違いない。

 では、中島の何が悪かったのか。

 そもそもポルティモネンセ戦での彼のパフォーマンスは、ポルトに加入してから最悪と言っていいものだった。リーグ戦では今季2度目の途中出場で、プレー時間も前回のヴィトーリア・セトゥーバル戦の26分とほぼ変わらない27分が与えられた。

 だが、プレーに関与したアクションの回数はセトゥーバル戦が「29」だったのに対し、ポルティモネンセ戦はわずか「9」にとどまった。最も得意とする左サイドで起用されながら、攻撃ではほとんどいい形でボールを触ることができず、守備時には失点につながる局面に絡んだ。

中島は守備意識に欠ける選手なのか

 とはいえ多くの指摘されるような「守備意識の欠如」が問題の根底にあるとは思えない。中島は決して守備への意識に欠ける選手ではないし、実際にポルティモネンセ戦でもボールを奪うためのアクションは見せていた。

 例えば投入直後の73分、ポルティモネンセが左サイドから右サイドへボールを動かすと、中島はしっかりと対面する安西幸輝に寄せていくアクションを見せ、さらにボールと人の動きに合わせて2度、3度と自らの対応を修正している。ポルティモネンセ戦では中盤で不用意なボールロストも散見されたが、立ち上がって猛ダッシュで奪い返しにいくようなプレーもあった。

 過去の取材対応で守備に対する意識について言及したこともあった。ポルティモネンセからカタールのアル・ドゥハイルへ移籍した後のことである。

「(守備に関しては)アル・ドゥハイルで監督にすごい言われるので(笑)、あんまり言ったら怒られるかもしれないですけど、それがすごく成長に繋がってますし、自分もいつもよりというか、これまでの代表よりボールを奪えていたと思う。そういうのを求めてカタールに行ったというのもあるので。もっと取れるチャンスもあったと思いますし、そこから攻撃できるチャンスもあると思うので、成長もできていると思いますけど、もっとやりたいというのはあります」

 アル・ドゥハイル時代に師事したのはポルトガル人のルイ・ファリア監督だった。かつてジョゼ・モウリーニョの副官も務めた人物で、欧州式の戦術の中でアタッカーにも守備面での貢献やチームプレーを求めるタイプの指揮官だった。

 ほとんど守備を免除されていたポルティモネンセ時代から、カタールで守備に関する指導を受けて、ポルトにやってきた。それでも厳しい現実を突きつけられる。問題となったポルティモネンセ戦を終えての各メディアでの採点は軒並みチーム内最低で、アルガルベ地方の日刊紙に至ってはほとんどの選手に「7」や「6」を与えながら、かつての地元の英雄である中島に対して「1」をつけた。

失点は中島だけのせいではない

中島翔哉
コンセイソン監督が中島翔哉を厳しく叱責した場面はポルトガルメディアでも大きく報じられた【写真:編集部】

 寸評で言及されるのも、やはり守備面。特にポルティモネンセの2点目の場面で、安西がすぐ近くで突破を仕掛けているのに全く寄せていかず、ゆっくり走っていたことに対しての指摘が目立った。ポルティモネンセの1点目の場面で、後ろとの連動が不十分なまま不用意にフリーのGKへプレッシャーをかけて、空けてしまった本来の持ち場を使ってボールを運ばれたことに対する言及もあった。

 だが、これらの指摘はあまりに一面的というか、局所的な目線でしかないのではないかとも感じる。例えば2失点目の場面では中央からのカバーを怠ったセントラルMFのダニーロ・ペレイラの責任も追及されるべきだし、1点目は最終ラインが押し上げるタイミングで右サイドバックのヘスス・コロナが約1m遅れていて、オフサイドを取り損ねていたのも見逃してはいけない。チームの組織としての課題から目を逸らし、個人のいくつかのプレーを殊更に取り上げて「守備に難あり」と評価を下すのは早計すぎる。

 確かに中島がコンセイソン監督に怒られるだけのことをしたのかもしれない。確かにポルティモネンセ戦でのパフォーマンスの質は全体的に低かったが、怒りを買った理由とは何だろうか。

 失点につながりそうな場面でゆっくり走っていたからか、ポジショニングが悪かったのか、ボールロストが多かったのか。あるいは一度呼び止めたのに中島がそれを理解できず通り過ぎようとして、無視されたと感じたか。

 いずれにせよ、今の中島に必要なのは「時間」と「コミュニケーション」だと感じている。常に結果を求められるビッグクラブにおいて、そんな悠長なことは言っていられないのかもしれないが、彼自身の持つクオリティを最大限に引き出すには辛抱強くやれることから取り組んでいくしかない。

今の中島に必要なものは…

 もちろんクラブや監督からの期待は大きい。ポルティモネンセ戦でも、2-0とリードしながらポルトの選手たちの動きは60分前後から重くなり、徐々に全体が間延びしてきていた。それによってロングボールや空中戦の競り合いの後のこぼれ球を拾えなくなり、流れが悪くなってきていたのが中島が投入された時間帯だった。

 結果的には彼が出場してから2失点を喫して試合を難しくしてしまったのかもしれないが、本来求められていたのは運動量が落ち始めていた前線の活性化と、勝利を決定づける3点目につながるプレーだったはず。1つ目の交代枠を使って、チキーニョ・ソアレスやファビオ・シルバよりも長いプレー時間を与えられたのだから、監督やクラブからの期待は少なからず残されている。

 忘れてはいけないのはコンセイソン監督がとりわけ守備面で厳しく規律を要求するタイプの指導者であることだ。基本的に大柄でフィジカル能力に長け、献身的に走れる選手を好む指揮官で、戦術も比較的シンプルに構成されている。まずは守備で組織を乱さず動けなければ、出場機会は限定的になっていく。過去にもテクニシャンタイプでコンセイソン監督の戦術になじめず、チームを去った者は多くいた。

 中島もそうならないために、今は「時間」が必要だ。1200万ユーロ(約14億円)の移籍金でポルトに加入した新背番号10は、コパ・アメリカ明けでチームに遅れて合流しただけでなく、8月末には妻の出産に立ち会うため約1週間半にわたって離脱し、さらに日本代表活動のために1週間以上ポルトを離れていた。

 直近だけでも3週間近くチームとともに練習する時間を失っていたことになる。特に守備面では規律を守ってオートマティックに、半ば体が自然に反応するくらいの精度で献身的に走ることが求められるコンセイソン監督の戦術を体得するための「時間」が足りていない。

 ただでさえ守備面の負担が少なかったポルティモネンセやアル・ドゥハイルを経て加入した身で、ポルトに加入してからは戦術を体に染み込ませるための大きな助けとなる通訳がついていない。ポルトガル語を苦手としている中島にとって、そういった環境で新しい戦術を理解していくには人一倍「時間」がかかるに違いない。

 コンセイソン監督も「難しいのは、彼が日本語を話し、私がポルトガル語を話すということだ」と19日のヨーロッパリーグの初戦・ヤングボーイズ戦に向けた記者会見の中で認めた。それでも歩み寄る姿勢は見せている。

 18日の練習でも中島に声をかけて会話する姿が見られ、「我々はコミュニケーションを取ろうといているし、彼はすでにポルトガル語の授業を受けている。そして私の要求や伝えていること、1000%の献身というものを理解している」と指揮官は日本代表との関係性に問題がないことを強調していた。

 まだ完全に見放されたわけではない。「ポルトと契約を結んでいるだけでは十分ではないんだ。それを感じる必要がある」と相変わらずプロフェッショナルとして要求のハードルは高いが、しっかりとついていく姿勢を見せれば、その努力に応える気概も指揮官の胸の内にはあるように思う。

チャンスは必ずやってくる

セルジオ・コンセイソン
ポルトのセルジオ・コンセイソン監督【写真:Getty Images】

 コミュニケーションという意味で言えば、そもそもチームメイト、ファン、メディア、テレビカメラなど無数の視線が注がれる環境で感情を抑えきれず激怒したコンセイソン監督の行為は、とても褒められるものではない。選手は大勢の前で叱責されて自尊心や尊厳を傷つけられたと感じられるだろうし、その場で両者の関係がこじれて修復できないものになる可能性だって十分にある。

 ポルティモネンセ戦後の記者会見でも「監督がベンチから試合を動かし、時に複雑にしてしまうことがある。今日はまさにそうだった。私の過ちだった。フットボールを理解している選手だけが私の言うことを理解し、ピッチ上で表現できる」と語った。表面上は自らの責任を認めているが、どこか皮肉が混ざっている。監督とはまず選手を守るもので、特に大勢の前でチームを率いるトップが責任を他者になすりつけるような行動をすべきではない。

 ああやって厳しく叱責する姿を、5500人近い観客や運営スタッフ、メディアも含めたスタジアム内の全員が見逃しているなんてありえない。必ず誰かが見ているし、メディアを通してネガティブな方向に大きな話題になる。チームメイトたちは組織の内部や世間に対する監督という存在の影響力の大きさをよく理解しているからこそ、すぐ止めに入ったはずだ。

 中島が失いかけた信頼を取り戻すチャンスは幸いにも多くある。ポルトはこれから17日間で6試合という過密日程に突入するため、どうしても選手のやりくりが必要になってくる。ポルトはそれほど選手層が厚くないため、中島にもどこかで必ずチャンスが回ってくるだろう。

 その来るべき時に備え、中島には限られた時間の中でも積極的に周囲とコミュニケーションを図って、チーム戦術の理解に全力を注いでほしい。コンセイソン監督も戦力として期待するならば、見放さずに辛抱強くコミュニケーションを取って指導していくべきだ。

 日本代表のトップランナーとして輝く10番は、かつて「ボールを持っている時も持っていない時も、より上手くなればなるほど楽しいものになっていく」と語っていた。まさにその通り、怒られて萎れている姿ではなく、「サッカーを楽しむ」姿が見たい。

 ポルトの一員としてピッチを笑顔で駆け回れるようになれば、中島の突き進む先には無限の可能性が広がっているのだから。

(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

【了】

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