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久保建英が残したアシストという財産。着実に上がる信頼度、一方で心配なのはマジョルカの出来

リーガ・エスパニョーラ第5節、ヘタフェ対マジョルカが22日に行われ、4-2でホームチームが勝利している。サルヴァ・セビージャ負傷の影響で19分にピッチに立った久保は、後半にブディミールの得点をアシスト。結果を残したことで、信頼の厚さはここから上がってくるはずだ。一方で、チーム全体の出来には不安が残る。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

チームは敗北。それでも久保は…

久保建英
ヘタフェ戦でアシストを記録したMF久保建英【写真:Getty Images】

 その瞬間が訪れたのは19分のことだった。22日に行われたリーガ・エスパニョーラ第5節、ヘタフェ戦。この試合でベンチスタートなっていたMF久保建英だが、MFサルヴァ・セビージャが負傷したことを受け、急きょピッチに立つことになったのである。

 背番号26が出場した時点でのスコアは0-1。MFイドリス・ババのオウンゴールで先制を許したマジョルカであったが、まだ追いつける可能性は十分あった。もちろんだが久保は、まず1点を奪おうとするチームの攻撃を加速させることが求められたのである。

 しかし、日本人MFは投入から間もなくはボールに触れることができなかった。ホセ・ボルダラス監督の下、ハードワークを徹底してくるヘタフェに対し、マジョルカはボールを前進させることができなかったのである。カウンターが開始しても相手の素早いプレスバックに対して焦りの色を見せ、ミスが連発。序盤から明らかにペースを握られていた。

 そして、チーム自体も苦戦を強いられたが、久保も右サイドで思うようなプレーができなかった。対峙したDFアラン・ニョムは身長188cm、体重78kgの体躯を誇る選手で、当然ながら久保にはフィジカル面で圧倒的な強さを見せる。背番号26が縦への突破を図ろうとしても、分厚い壁がことごとく立ちはだかった。また、もう一人厄介となったのがU-21スペイン代表MFのマルク・ククレジャ。この日、左サイドハーフに入っていた同選手は、もともとサイドバックが本職であるため、当然ながら高い守備意識を持っている。マジョルカ戦でも自陣に侵入されると猛烈なプレスバックで相手をロック。ニョム、ククレジャに挟まれた久保は、ボールをキープするのに精一杯であった。

 こうして攻守両面で後手を踏んだマジョルカは、33分にFWホルヘ・モリーナ、64分にニョムに得点を許し、3点のビハインドを背負う苦しい状況へ追い込まれた。

 それでもだ。久保は攻撃面で違いを生みだした。70分、右サイドでボールを受けた久保が左足で柔らかいクロスを送ると、これをFWアンテ・ブディミールが頭で合わせ、得点。背番号26は移籍後初となるアシストを記録したのである。

 さらに77分には、右サイドでスローインを受けたFWアレックス・アレグリアの突破を久保がオフ・ザ・ボールの動きでお膳立て。アレグリアが低いクロスを上げるとこれをペナルティエリアで合わせたのは再びブディミール。マジョルカはなんと1点差に追い上げたのである。

 しかし、最後はヘタフェの底力が発揮。ブディミールの得点から7分後、FWアンジェ・ロドリゲスに得点を許し、リードを広げられたのである。試合はこのまま2-4で終了。マジョルカはこれでリーグ戦4試合未勝利となった。

心配なのはマジョルカの出来

 前節のアスレティック・ビルバオ戦ではPK奪取、そして今節はアシスト。チームは不調となっているが、久保自身のパフォーマンスは着実に上がっているようにも思う。この試合ではマジョルカ移籍後最長となる71分間の出場も果たしたことで、より今後のスタメン起用という可能性も高くなったはずだ。

 しかし、心配なのはチームの出来である。リーグ戦4試合未勝利と結果が出ていないのももちろんだが、内容面でもポジティブな要素が見つからないのが厄介なところだ。

 この日も中盤の核であるセビージャを負傷で失ったことで、縦に鋭いパスを送れる選手が不在となる。そのため、中央ではベテラン選手の代わりにMFアレイクス・フェバスのプレーが重要となっていたが、彼はどうにも大事な場面でのミスが多い。これではチームの勢いが落ちるのは当たり前だ。

 また、久保がボールを保持した際のサポートの遅さも気になる点で、背番号26がドリブルで仕掛けるのか、パスを出すのかの判断を、味方がまだ読み取れていないことが多い。そのため久保は右サイドで孤立。いくら技術があるとはいえ、すべての局面を個人で打開するのは、どんなスーパースターでも難しい。だが、そうした状況がいまのマジョルカには起こっている。

 リーガデビュー戦となったバレンシア戦、翌アスレティック・ビルバオ戦よりはボールが回ってくる機会も増え、フリーキックも蹴らせてもらうようになった久保。チームを率いるビセンテ・モレノ監督は同選手を特別扱いする気はないとしているが、チームからの信頼というものは徐々に厚くなっていると言えるのではないか。ヘタフェ戦でのアシストは、そういったことを加速させる意味でも大きな財産となった。

 ただ、“ゴール”という大きな仕事にはまだ時間がかかるかもしれない。まだ味方との呼吸は十分とは言えず、味方も久保の考えを読み取れていないというのは上記の通りだ。個人としてのパフォーマンスを高めることはもちろん、チームとして今後どのようにそうした点を改善していくかは、久保が生きる上でも重要となってくるはずだ。

 よく、マジョルカは久保に合わないのでは? という声も聴くが、そんなものは結果論でしかない。どんな選手にも新天地での苦労というものはあるし、監督やスタイルと合わないことなどいくらでもある。だが、そうした苦境を跳ね返してこそのスターである。久保がその壁をぶち破る日を、いまは期待するしかない。

(文:小澤祐作)

【了】

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