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ポグバの躍動にスーパーミドル…マンUに吹いた追い風。それでも勝てない甘さ、拭えない課題とは

プレミアリーグ第7節、マンチェスター・ユナイテッド対アーセナルが現地時間9月30日に行われ、1-1のドローに終わっている。不調続きとなっているユナイテッドはこの日、マクトミネイのミドルシュートにより先制に成功するものの、ミス絡みから失点を喫し再び勝ち点2ポイントを落とした。そこに見られた甘さと課題とは。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

攻撃の核を消すアーセナル。しかし…

マンチェスター・ユナイテッド
プレミアリーグ第7節でアーセナルと対戦したマンUは1-1で試合を終えている【写真:Getty Images】

 2019/20シーズンのプレミアリーグ開幕から6試合で2勝2分2敗。イングランドの名門としてこれまでに数々のタイトルを獲得してきたマンチェスター・ユナイテッドが、苦戦を強いられている。ここ最近ではオーレ・グンナー・スールシャール監督解任の噂もより飛び交うようになるなど、チームが置かれている現状は厳しい。

 前節のウェストハム戦ではFWアンドリー・ヤルモレンコ、DFアーロン・クレスウェルに点を許し0-2で完敗。内容はお世辞にも良かったとは言えず、負けるべくして負けた、そんな印象であった。ユナイテッド不調の原因となっているのは、やはり攻撃陣の不発。今季リーグ戦では開幕節のチェルシー戦以外の試合で複数得点を挙げることができていないなど、その辺りの脆さは明らかだ。

 迎えた現地時間9月30日、ユナイテッドはプレミアリーグ第7節でアーセナルと対戦している。舞台はオールド・トラフォード。アウェイチームは今季リーグ戦で黒星を喫したのが第3節のリバプール戦のみとなっているなど、粘り強さを持っている。ユナイテッドはそうした相手にホームで勝利し、不調からの脱却を果たしたかった。

 キックオフのホイッスルが鳴り響くと、立ち上がりからボールをキープしたのはユナイテッド。対するアーセナルは前線から猛烈なプレスを与え、相手のミスを誘発しようと試みた。

 ユナイテッドの攻撃における核はやはりMFポール・ポグバ。彼がボールキープ→組み立ての作業を行うことでチームの攻めはよりクオリティが増し、加速する。この日は中盤底2枚の一角に入ったフランス人MFは、味方のボールホルダーに対して素早くサポート。幅広いエリアに顔を出してボールを引き取るか、相手のマークを寄せ付けるかの役割を果たした。

 ただ、当然ながらアーセナルもポグバを警戒してくる。そこでマンマーク気味に対応したのはMFルーカス・トレイラであった。ポグバが下がってボールを引き取ろうとしたシーンでも、背番号11は同選手の背後に的確な距離感を保ってついていく。状況的にポグバに行けなくなった場合は、同選手へのパスコースを切る守備でうまく存在感を消そうとしていた。

 しかし、トレイラ個人の守備に問題があったとは思わないが、チーム全体としてのディフェンスには所々緩い部分があった。たとえば、ポグバがやや外に開いたとき、トレイラはそこへついていく。そうすると、3センターの一角が抜けるため、中央のMFグラニト・ジャカとMFマテオ・ゲンドゥージは瞬間的に2ボランチのような形になる。ただ、ここの2人の距離感が曖昧で、真ん中のスペースが大きく広がるシーンもいくつか見受けられた。そこに降りてくるのがMFジェシー・リンガード。アーセナルはそのエリアへ縦パスを入れられ、深い位置まで押し込まれる。

 リンガードにボールが収まった瞬間、中盤の選手がアタックに行くのか、はたまた2CBの一角が潰しに行くのかの判断も定まっておらず、アーセナルは立ち上がりに後手を踏んでいた。

躍動するポグバ

ポール・ポグバ
アーセナル戦で躍動したポール・ポグバ【写真:Getty Images】

 しかし、ユナイテッドにとってアーセナルのカウンターはやはり脅威だった。FW二コラ・ペペとFWピエール=エメリク・オーバメヤンは言わずと知れたスピードの持ち主であり、18歳の新鋭であるFWブカヨ・サカは若者らしい勢いを持って果敢に1対1を仕掛ける。わずか1本の縦パスでもゴール前まで持ち運べる力をこの3トップは持っており、ユナイテッドは攻めている時間帯でも油断があってはならなかった。

 ただ、アーセナルはゴール前までボールを運べるものの、フィニッシュに持っていくまでのアイデアはイマイチ足りていない。ペペは未だチームにフィットしきれている感じがせず、リール時代に見せていたドリブルの脅威といったものがあまり出せない。サカの仕掛けは効果的であったが、その後が続かない。サイドから攻めてもクロスなのか、それとも中央に人数を集めて崩し切るのか。ここの判断の遅さは目立った。結果的にアーセナルはクロスを上げる回数がユナイテッドを上回ったが、成功率は20%(20本中4本)と精度の低さが露呈。得点の匂いはあまり感じられなかった。

 そうすると流れはユナイテッドへと傾く。その勢いを加速させたのは、やはりポグバだった。

 ボールキープ力は相変わらず抜群で、その体躯には似合わない足下の柔らかさも持っている。簡単にボールを失わないので、時間を作ることができ相手のマークを引き付けることができる。いまに始まったことではないが、こうしたことを一人でやってしまうのがフランス人MFの恐ろしいところだ。

 前半の立ち上がりはパスミスが多かった印象だが後半に進むにつれ、状態も上がってきた。やはりとにかくよく周りを見ている。それが短い距離でも長い距離でもだ。味方の動きに合わせてパスを送り出すことができるし、味方を逆に動かすことも可能。この日、ポグバは決定的なパスを2本繰り出し(両チーム合わせてトップの成績)、シュート2本を放つ。そして3回のタックルを成功させるなど攻守両面で躍動した。

 後半にポグバが躍動した理由として、トレイラがベンチへ下がったことが影響しているというのは否定できない。前半からしつこくマークに張り付いていた背番号11の存在がなくなったことで割と自由が利くようになったのは紛れもない事実だ。そうなるとポグバは力を発揮できる。結果論になってしまうが、ウナイ・エメリ監督は采配を間違ったのかもしれない。

ミスで失点。不調ぶりが明らかに

 ユナイテッドは前半アディショナルタイムにMFスコット・マクトミネイが鮮やかなミドルシュートを沈めて先制ゴールを奪取。いい時間に1点を取ったことでチームの勢いは加速するかに思われた。

 しかし58分、ユナイテッドは自陣深い位置でDFアクセル・トゥアンゼベが痛恨のパスミス。これをサカがワンタッチでオーバメヤンに送ると、同選手は冷静に左足でボールを少し浮かせてゴールネットへ押し込んだ。オーバメヤンにボールが出る際にDFハリー・マグワイアは懸命にオフサイドラインを上げたが、間に合わなかった。

 試合はこのまま1-1で終了。ユナイテッドは再び勝ち点3を得ることができなかった。アーセナルの方も決して内容は良くなかった。しかし、そういったチームにホームで、しかもミス絡みで失点を喫し勝ち点2を落とす辺りは、いまのユナイテッドの不調ぶりが表れている。

 ユナイテッドは失点直後こそアーセナルの攻撃に苦戦を強いられたが、その後は徐々に落ち着きを取り戻し自分たちのペースを取り戻した。が、ここで浮き彫りとなったのは今季の課題である。

 ホームチームは相手陣内深い位置まで侵入することに成功するものの、最後の最後でアイデア+質を欠き、追加点が奪えない。もちろんGKベルント・レノの好セーブに阻まれたシーンもあったが、全体的な崩しは不十分。MFアンドレアス・ペレイラ、MFダニエル・ジェームスの突破力は効果があったが、それはあくまで個人的な崩し。ゴール前まで侵入して、そこからどうするのか。このあたりはまだまだチームとして甘い。

 FWマーカス・ラッシュフォードはサイドに流れることも多かったが、そうなると中央で決定的な仕事を果たす人物がいなくなる。ポグバはどちらかと言えばエリア外でセカンドボールを回収することが多く、D・ジェームスやペレイラは迫力があるがボックス内で勝負し、点を取る能力はまだまだ向上が必要。リンガードはそもそも存在感を失っており、スタメンで起用する意味は“攻撃面”ではないようにも思える。そろそろMFファン・マタを定着させても良い気がするが…。

 FWアントニー・マルシャルが怪我で離脱中という事実は踏まえなければならない。が、現状では上位へ食い込むことも不可能であることも事実。もはやここまで来ると今夏の補強を疑いたくなるが、シーズンは始まってしまった。このメンバーで、少なくとも冬までは乗り越えなければならない。リーグ開幕から7試合で勝ち点9。スタートは最悪だ。しかし、まだシーズンは序盤。巻き返しの可能性も十分あるはずだ。

(文:小澤祐作)

【了】

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