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中島翔哉、ライバルの覚醒で迎える真の正念場。出番減は不可避? 「結果」は何よりも重い

ポルトに所属する日本代表MF中島翔哉が岐路に立たされている。いまだ公式戦ではノーゴールが続く一方、同じポジションのライバルはハイペースでゴールを重ねて日に日に評価を高めている。今後ベンチスタートが続く現状を打破して左ウィングの定位置を奪い取るためには、何が必要なのだろうか。(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

ワールドクラスへの階段を登るライバル

ルイス・ディアス
ポルトのFWルイス・ディアスは大ブレイクの気配を漂わせ始めている【写真:Getty Images】

 中島翔哉に与えられた出番は、2点のリードとともに勝利を手中に収めつつあった終盤の10分間だった。比較的早い時間からウォーミングアップをしてはいたものの、一度別の選手と入れ替わりでベンチに下げられた。その時は「今日は出番なしか…」と肩を落としたが、アピールのための時間は与えられた。

 現地10月27日に行われたポルトガル1部リーグの第8節、中島が所属するポルトはファマリカンと対戦して3-0の快勝を収めた。昇格組ながら無敗で首位を走って国内に旋風を巻き起こしていた相手ではあったが、しっかりと力の差を見せつけた形だ。そして前評判に違わぬ実力を備えたチームとの大一番は、様々な意味で印象的だった。

 勝利して今季初の首位に立ったこと以上に重要なのは、チーム内の競争が活性化されたことかもしれない。同月24日のヨーロッパリーグ(EL)のレンジャーズ戦で低調だった選手たちがスタメンを外れ、一方でチャンスを与えられた脇役たちが肉体的にも精神的にも充実したプレーで勝利に貢献した。

 例えば右サイドバックに入ったDFチャンセル・ムベンバは最近センターバックやセントラルMFとしても出番を与えられるようになっており、セルジオ・コンセイソン監督の信頼は高まっているはず。左サイドバックとして起用されたDFウィルソン・マナファも本来とは逆のサイドで安定感あるプレーを披露し、評価を高めている。彼らは10月30日のリーグ第9節マリティモ戦でも継続して先発起用された。

 こういった激しい競争によって、左ウィングに大ブレイクの気配が漂い始めている。代表ウィーク明けから全ての試合に先発出場したコロンビア代表FWルイス・ディアスが、3試合連続ゴール。8月半ば以来、公式戦でゴールのなかった選手がいきなり3試合で4得点を奪って見せた。

 いずれのゴールも彼の持ち味が存分に発揮されていた。特にレンジャーズ戦、カットインからの強烈なミドルシュートで動かした先制点は堅い展開になっていた試合の流れを一変させた。一時は中島にスタメンの座を奪われかけた22歳は、持ち前のドリブルのみならず、ゴール前で決定的な仕事をする感覚にも磨きをかけている。

 今夏にコロンビアのジュニオールから700万ユーロ(約8億5000万円)の移籍金でポルトに加入した若手が、ワールドクラスのタレントに化けようとしているのだ。

勝利に貢献する活躍はなく…

 ポルトのセルジオ・コンセイソン監督は、基本的に「勝ったチーム」を動かさない。戦術的なバリエーションの少なさや、柔軟性に乏しい対処療法的な采配は目につくが、100%の状態でなければ使わないという選手起用に関しては一貫している。

 特別扱いを許容せず、全てのポジションの選手に攻守にわたるハードワークを要求する幻覚な指揮官の下でいかに出場時間を伸ばし、信頼を勝ち取るか。一時はハードワークを怠ってコンセイソン監督の怒りも買ったが、守備における献身性を高めて公式戦3試合連続で先発起用された。ただ、再びベンチに座る日々が続くようになった今の中島に求められるのは、一にも二にも「結果」。ゴールやアシストという「数字」に他ならない。

 先月30日に行われたリーグ第9節、アウェイでのマリティモ戦も中島はベンチスタートだった。コンセイソン監督は勝利した前節と全く同じ先発メンバーをピッチに送り出す。

 だが、チームは機能しなかった。開始早々の11分にセットプレーの流れから失点すると、ポルトの選手たちのプレーには時間とともに焦りが見られるようになる。特に急ぐ必要のない場面で雑なロングパスを蹴ってしまったり、単純なパスをミスしてボールを失ったり。ほとんどの時間帯でボールを握って攻め続けたがフィニッシュにも落ち着きを欠いた。

 中島の出番は1点ビハインドの63分に、2つ目の交代枠を使って左サイドに投入された。ルイス・ディアスが左サイドから右サイドに回る。80分にそのルイス・ディアスが下がると、中島はDFアレックス・テレスと左サイドでコンビを組んだ。

 ただ、先述したようにチーム全体として空回り感が否めず、中島もスムーズに試合の流れに乗れたとは言えなかった。見せ場は終盤に左サイドに流れてワンタッチクロスから味方のヘディングシュートを演出した場面くらいで、基本的に中央寄りで2トップの背後を彷徨う10番には輝くための余白がほとんどなかった。

 結果的には終盤にコーナーキックから執念で同点ゴールを奪うが、終始精彩を欠いたポルトの反撃は1点止まり。中島にも逆転勝利につながる貢献はなかったという評価しか残らなかった。

 正直なところ、このままの状態では中島のポルトにおける出場時間が飛躍的に伸びていくとは考えにくい。左サイドではこれまで述べてきた通り、ルイス・ディアスの方が明らかにチームの勝利につながる結果を残してきているし、2トップの一角やトップ下、右サイドにも優秀な人材がひしめいている。

 それぞれに異なるタスクのある複数ポジションを攻守にわたってこなせる器用さを期待するのも難しいだろう。ひとまずは左サイドを起点に中央へ進出していきながら自分の持ち味を出す方法を探していく必要がある。

今こそ正念場。危機感を持って一層の奮起を

中島翔哉
中島翔哉はポルトで出場時間を伸ばせるだろうか【写真:Getty Images】

 現状、中島の良さである切れ味鋭い突破や、思い切りのいいシュートは完全に鳴りを潜めてしまっている。結果を出せているルイス・ディアスとの決定的な違いは、まさに持ち味を組織の中で発揮できているか、いないかだ。

 もう少し細かい改善点を挙げるとすれば、ボールを求めてフラフラと自分のポジションを離れてマークを引き連れたまま味方のボールホルダーに近寄っていってしまう中途半端さだろうか。本人とクラブでの役割やプレーに対する考え方などについて取材できる機会がないため想像するしかないが、ボールに引き寄せられるように動く中島へのパスは出し手からすれば危険な選択肢にしかならず、味方が使えるスペースを消してしまっているようにも見える。

 こういった組織を逸脱した自由奔放さは、チームメイトたちと中島のプレーの呼吸がなかなか合っていかない一因なのではないかとも感じる。もちろんサイドバックのオーバーラップを引き出す効果的な動き出しになることもあるが、タイミングが合わずに攻撃が止まってしまうこともあり、まだギャンブル性が高い。

 なりふり構わず目に見える結果を残す。何より「自分らしい形」でゴールを奪うことこそが、「中島翔哉とはこういうプレーをする選手で、こんなことができるんだ」とチーム内外に示すことのできる最良かつ最短の方法に他ならない。チームメイトたちも中島の力を本当の意味で認め、活かし方をより真剣に考えてプレーするようになるだろう。

 ポルトは3日にリーグ戦で最下位アヴェスと対戦する。前節マリティモ戦からは中3日で、その試合が課題の多い内容だったことからも先発メンバーの入れ替えは十分に考えられる。もしアヴェス戦でベンチスタートになったとしても、その後は中3日でアウェイでのヨーロッパリーグ、さらに中2日でリーグ戦と続く過密日程となるため、どこかで出番が必ず与えられるはずだ。

 ここから代表ウィークによる中断までの3試合は、リーグ後半戦に向けて出場時間を伸ばすためにも真の意味で正念場になる。そのことを肝に銘じ、より一層気を引き締めて臨まなければ、中島のポルトでの将来の可能性が閉ざされてもおかしくはない。

(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)

【了】

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