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久保建英が90分間起用された大きな意味。「違いを生める選手」から「得点できる選手」への変化

リーガ・エスパニョーラ第14節、レバンテ対マジョルカが現地時間22日に行われ、2-1でホームチームが勝利している。先発出場を果たしたMF久保建英は、巧みなボールコントロールと繊細なタッチで攻撃陣を牽引。躍動していた。チームメイト、そして、監督からの期待も高いと言えるだろう。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

久保はスタメン入り

久保建英
レバンテ戦でスタメンフル出場を果たした久保建英【写真:Getty Images】

 U-22日本代表での試合を終え、マジョルカに戻ってきたMF久保建英は、現地時間22日に行われたリーガ・エスパニョーラ第14節のレバンテ戦でも先発メンバー入りを果たした。ただ、この日はスペイン移籍後当初からの基本ポジションであった右サイドハーフではなく、左サイドハーフでのスタートとなった。

 試合は立ち上がりからマジョルカペースで進む。レバンテは開始わずか6分でMFゴンサロ・メレロが負傷により交代を余儀なくされ、その影響もあってかなかなかリズムを掴むことができなかったのである。代わりにピッチに入ったMFルベン・ロチーナも、突然訪れた出番に準備が万全とは言えず。マジョルカにとっては少しラッキーな形で流れが舞い込んできた。

 久保の最初の見せ場は12分。左サイドでボールを持つと、相手DF2人と対峙。突破できるコースは限られていたが、久保は自信満々にボールを運ぶと、2人の間をぶち破り中へ侵入した。クロスはミートせず、相手ゴールキックとなってしまったが、立ち上がりからコンディションの良さは明らかであった。

 しかし、20分過ぎあたりからペースはレバンテへと傾く。徐々にリズムを掴み始め、マジョルカのゴール前へと何度か侵入するシーンを作った。それに対しマジョルカは4-4-2の形を崩さず、あまり前からプレッシャーを与えずに深い位置でブロックを築く。

 ただ、マジョルカは守備に自信を持っているチームではないので、ブロックを築いているだけでそれが効果的であったかは別の話。実際、自陣深い位置まで引いているため、当然ながら攻撃を開始する位置も低くなる。そうなると、レバンテの守備陣にはラインを整える余裕を与えてしまう。それによって、久保がボールに触れる機会も立ち上がりに比べると減っていた印象だ。マジョルカにとって前半の半ばは耐える時間帯だったと言える。

 なんとか前半を0-0で終えることに成功したマジョルカであったが、後半立ち上がりの51分にサイドから崩され失点。クロスを上げられた際のポジショニングが問題で、SBとCBの間に大きなスペースが空いていた。そこを、FWロジェール・マルティに使われたというわけだ。

 悪い流れを断ち切ることができず失点を許したマジョルカであったが、64分にMFダニ・ロドリゲスがゴールを奪って同点に追いつく。やや劣勢となっていた中で、この得点は非常に大きかった。

 ただ、この勢いを勝利へと繋げることは叶わなかった。72分にロチーナに強烈なミドルシュートを叩き込まれてしまい、万事休す。試合はこのまま2-1で終了し、マジョルカは連勝を果たすことができなかった。

攻撃陣を牽引

 マジョルカはこれで今季リーグ戦におけるアウェイゲームで全敗という結果に。順位は現時点で14位と、厳しい位置にいる。

 さて、この日先発入りを果たした久保であったが、残念ながら2試合連続ゴールやアシストといった目に見える結果を残すことができなかった。とはいえ、試合全体のパフォーマンスを振り返ると、やはりその存在感は別格だったと言える。

 本来、マジョルカにおける左サイドの絶対的存在であるFWラゴ・ジュニオールが不在ということもあってか、この日の攻撃の中心は背番号26であった。ボールを持てば相手を引き付けドリブル、あるいはパスで攻撃を加速させることができる選手は、マジョルカにおいて久保のみである。味方もここまでの久保のパフォーマンスを評価してか、加入当初より明らかにボールが回ってくる回数が多い。前節のビジャレアル戦で得点を奪ったからなおさらだ。

 実際、マジョルカの得点シーンは久保が起点となって生まれたものである。右サイドでボールを持った久保に対し、レバンテは2人が背番号26を囲む。その内側を走ったDFホアン・サストレに対してはマークが誰も付いておらず、そこを見逃さなかった久保がラストパス。そこからのクロスをD・ロドリゲスがゴールへと結びつけたのである。

 ただ、ボールを持つと何かをやってくれる、というのはマジョルカ加入当初から見せていた。そういった意味で、この日一番の変化は久保の動きに対し味方が応えてくれるようになったことだ。

 マジョルカ加入当初の試合を観てみると、久保はただサイドに張るだけでなく、状況に応じて中へ入る動きを見せている。ただ、味方はその動きに対しアクションを起こすことなく、久保のそうした動きが無駄になることが多かった。

 しかし、つい最近の試合でもそうしたことがあったがこの日は違った。久保のインサイドを突く動きに対して味方がそこを使ってくれるようになった。57分には中央に位置していた久保をFWアンテ・ブディミールがしっかりと確認し、パスを供給。そこからシュートも生まれている。

 後半ATにもドリブルで中へ切り込みMFイドリス・ババへパス。そこからもう一枚味方を使ってリターンを受けると、最後は質の高いラストパスで決定機を生んだ。前節のビジャレアル戦も中央でボールを受け、そこから得点が生まれているが、真ん中のエリアで仕事を果たせるようになってきたのは大きい。これは久保自身の力でもあるし、味方との呼吸が合ってきた証拠と言っても過言ではない。久保に対するチームメイトの意識は、明らかに変わっている。

 また、ビセンテ・モレノ監督が久保を90分間使い続けたことも収穫だ。これまで、1点ビハインドの中で点が欲しい時間帯でも久保が途中で代えられてしまうことがあったが、この日は1点リードを許した時間帯でも久保が下がることはなかった。もちろんモレノ監督の中に様々な考えがあったはずだが、久保が「点を取ることができる選手」として意識されたのは間違いない。前節のビジャレアル戦での得点がなければ、もしかしたらこの日も途中で下がっていたかもしれない。そういった意味でも、得点という目に見える結果を残すことはいまの久保にとって重要だ。

 チームメイト、そして監督の久保に対する意識が変わったことはこのレバンテ戦で明らかとなった。しかし、そうした状況の中で、求められている役割を果たすことができなければ、意味がない。久保のマジョルカでの冒険はまだまだ続く。

(文:小澤祐作)

【了】

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