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マンU、悲劇を生んだ采配ミス。一体なぜ、目前の勝利を手放してしまったのか?

プレミアリーグ第13節、シェフィールド・ユナイテッド対マンチェスター・ユナイテッドが現地時間24日に行われ、3-3のドローで終わっている。前半はわずか1本のシュートしか放つことができなかったマンUは、0-2とビハインドを背負うものの、後半に入り3点を奪って一時は逆転。勝利は目前かと思われた。しかし、最後の最後で失点。なぜ、勝ち点2を落としてしまったのか。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

狙われたP・ジョーンズ

プレミアリーグ
マンUは試合終盤の失点で勝ち点2を失う形となった【写真:Getty Images】

 トッテナムは、チームを指揮して6年目を迎えていたマウリシオ・ポチェッティーノ監督を成績不振で解任。さらにアーセナルを率いているウナイ・エメリ監督も結果を残せておらず、日々解任の噂が飛び交っている。ビッグ6に数えられるクラブが、苦戦を強いられているのだ。

 そんなアーセナル、トッテナムのロンドン勢と同じような状況に置かれているのがマンチェスター・ユナイテッドである。同クラブはプレミアリーグ第12節を終えた時点で10位。チャンピオンズリーグ(CL)出場圏内である4位のマンチェスター・シティとは9ポイントの差があるなど、大苦戦を強いられている。当然ながら、チームを率いるオーレ・グンナー・スールシャール監督の仕事ぶりに満足しているサポーターは少ない。エメリ監督と同じく、今季中に解任される確率の高い指揮官として数えられている。

 そのマンUは現地時間24日にプレミアリーグ第13節でシェフィールド・ユナイテッドと対戦しているが、この日のゲームでもスールシャール監督の“力不足”が露呈してしまうことになった。

 マンUはこの日、3バックシステムを採用。いつもと少し違う形を見せてきたが、その変化はシェフィールドにとって何の問題もなかったと言える。立ち上がりから相手の強度の高いプレーに苦戦したマンUは、中盤で幾度となくボールを失っては自陣深い位置まで押し込まれるなど、リズムを掴めない。ボールホルダーに対し、一秒も遅れることなく張り付いてくるシェフィールドの守備を前に、攻撃陣のエンジンは止まった。

 シェフィールドはボールを奪ったら縦に素早く仕掛ける。最前線のFWリス・ムセは突破力に長ける選手。その特徴を最大限生かす攻撃を、早い時間から狙ってきたのである。

 とくにマンUの守備陣でターゲットにされたのが左CBの位置に入ったDFフィル・ジョーンズ。彼の下に多くボールを集め、人数をかけて崩す戦い方を、シェフィールドは徹底して行ってきた。19分にはそのP・ジョーンズがあっさりとムセに突破を許し、サイドを崩されると最後はMFジョン・フレックが得点。アウェイチームは相手の勢いにまんまと飲み込まれ、かつ相手の狙い通りの攻撃を許してしまうことになった。

 1点のビハインドを背負ったマンUは、当然ながら得点を奪いに行く。しかし、最終ライン、中盤、前線と誰一人サボることなくプレッシャーを与えにくるシェフィールドの守備を前にボール回しすらもままならない。FWダニエル・ジェームズやFWマーカス・ラッシュフォードら突破力に長ける選手はマンUにも健在であったが、彼らがボールを持っても2人以上に囲まれるため、スペースができない。前半のシェフィールドの勢い、強度は凄まじいものがあった。

試合の流れを変えた68分の出来事

リス・ムサ
リス・ムセの負傷は両チームにとって大きな影響を及ぼした【写真:Getty Images】

 前半のマンUはこれでもか、というほど何もできなかった。事実、同クラブが前半45分間で放ったシュートわずか1本のみ。対してシェフィールドには7本のシュートを放たれるなど、すべての面で機能不全に陥っていた。

 そんな状況で迎えた後半立ち上がりはマンUが相手ゴールへ迫ることもあった。が、攻撃に出たからこそ、今度はその“裏”を突かれたのである。52分、中盤でMFアンドレアス・ペレイラがボールをロストすると、そこからカウンターが開始。ムセにボールが渡ると、FWデイビッド・マクゴールドリックがオフ・ザ・ボールの動きでDFハリー・マグワイアを左側へ誘導させる。それによって中央のエリアが空き、ドリブルのコースができたので、ムセがそのエリアへ侵入。そのまま最後は右足を振り抜き、リードを2点に広げた。

 この時点で、マンUの完敗は決まったも同然であった。攻撃の糸口も見えず、守備のバランスも整わない。そんな状況で2点のビハインドを背負ったので、逆転するのは不可能だと言えた。

 また、マンUにとって厄介だったのがシェフィールドの二つの「顔」。同クラブはオフェンス時、速攻でも遅攻でもどちらでも怖さを発揮することができたのだ。そのため、マンUはプレスを与えるのか、それとも速攻に備え深い位置で守るのか。ここの判断が曖昧となる。守備のバランスが崩れた最大の要因も、そこにポイントがあったと言える。このあたりの強さが、シェフィールドが上位にいることができる理由の一つでもあるだろう。

 しかし、わずか一つのキッカケで状況は大きく変化する。68分にこの日1ゴールを挙げていたムセが負傷でプレー続行が不可能となってしまったのだ。フランス人FWは攻撃面での存在感はもちろんのこと、守備時もプレスのスイッチをチーム全体に入れる役割を担っており、攻守両面で必要不可欠な存在。そんな同選手がピッチ上からいなくなるのは、シェフィールドにとって大きな誤算であった。

 ムセの負傷から間もなくして、やはり勢いはマンUに傾いた。ボールホルダーに対するシェフィールドのアプローチは明らかに遅くなっており、アウェイチームには前半に見られなかった余裕のようなものが感じられた。

 そんな中で72分にDFブランドン・ウィリアムズが得点。これで流れは完全にマンUに向いた。シェフィールドは前半でかなりの体力を消耗したのか、攻→守への切り替えが遅くなってしまい、中盤に大きなスペースを与える。ボールに対しても次第に寄せることができなくなっており、マンUの攻めに圧倒される形となった。

 するとシェフィールドは77分にFWメイソン・グリーンウッド、79分にラッシュフォードに立て続けに得点を許してしまい、ついに逆転された。ホームチームにとっては体力的にも精神的にも辛い時間帯だった。

 一方でマンUにとっては申し分ない逆転劇。勝利までに残された時間は10分ほどで、さらにその流れを見ると4点目、あるいは5点目までいってもおかしくはなかった。リーグ戦連勝は、目前。しかし…。

采配ミスにより終盤に悲劇

 良い時間帯に逆転したマンUはラッシュフォードの得点後も勢いを持ってシェフィールドに襲い掛かっていたのだが、その流れがピタッと止まった。ブレーキをかけたのは他でもない、スールシャール監督だった。同指揮官は終了間際の85分にFWアントニー・マルシャルを下げ、DFアクセル・トゥアンゼベを投入したのだ。もちろん、1点を守り抜こうとしての交代である。しかし、結果論になってしまうが、この采配が運命を大きく動かすことになる。

 それまで良いリズムを持って仕掛けることができていたマンUの攻めは、守備に重心を置いたことで当然ながら無くなる。しかし、トゥアンゼベもうまく試合に入れたとは言い切れず、守備で対抗するどころかやや押され気味となってしまったのだ。

 そして、最後はついに崩れた。90分、左サイドをDFエンダ・スティーブンスに破られ、クロスを上げられると、ペナルティエリア内でFWカラム・ロビンソンがキープ。背番号11が難しい体勢からクロスを上げると、最後は途中出場のFWオリバー・マクバーニーがワンコントロールから右足を振り抜き、ゴールネットを揺らしたのだ。

 結局、試合はこのまま終了。3-3でシェフィールドと引き分けたマンUはリーグ戦での連勝を逃す形に。また、リーグ戦におけるアウェイゲームでは2試合未勝利という結果になった。

「複雑な気持ちだ。試合の大半では良いパフォーマンスができなかったので、満足はできない。だが、選手の姿勢や状況を変えたプレーは、選手たちに何ができるかを示せた部分はある」

 クラブ公式サイトによると、試合後の会見でスールシャール監督はこう話していたという。確かに、ウィリアムズやグリーンウッドといった若手選手が得点し、難しい相手に一時は0-2から3-2にしたのだから、「示せた部分」はあるだろう。怪我人が多くいるのも事実で、そうした中で若手選手が結果を残せたことは収穫である。

 しかしながら、やはり最後の采配には疑問が残る。あの時間帯、リズムに乗りながら攻めに転じていたのに、なぜ守備を固めてしまったのか。1点のみのリードでは怖い部分は確かにあるだろう。それでも、攻撃により厚みを加えていれば、もう1点取るほどの可能性はあった。どうしても結果論にはなる。ただ、采配のミスによって勝ち点2を落としたのは紛れもない事実だ。

 マンUはこの勝ち点1を積み上げたことにより9位につけた。CL出場圏内の4位・チェルシーとは勝ち点差「9」。首位・リバプールにはすでに20ポイントの差をつけられている。状況は言わずもがな厳しい。スールシャールはマンU指揮官として、2020年を迎えることができるのだろうか。

(文:小澤祐作)

【了】

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