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モウリーニョは「個の力の最大化」で勝った。白熱した師弟対決、右足1本で引き寄せたトッテナムの勝利

プレミアリーグ第17節、ウォルバーハンプトン対トッテナムが現地15日に行われ、1-2でトッテナムが勝利を収めた。アウェイチームは先制したものの、試合の主導権を握られ一時は同点に。それでもトッテナムの一撃が劇的な勝利へと結びついた。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

ポルト時代の師弟対決

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トッテナムを勝利に導いたジョゼ・モウリーニョ監督【写真:Getty Images】

 今季のウォルバーハンプトン(ウルブス)はプレミアリーグと並行してUEFAヨーロッパリーグ(EL)を戦っているが、うまくやりくりしている。開幕から6戦未勝利と苦しんだが、そこからはマンチェスター・シティやアーセナルといったビッグクラブも含めて10戦負けなしで、順位を7位まで上げた。ELでも4勝を挙げ、危なげなくグループリーグを突破した。

 トッテナムもジョゼ・モウリーニョが指揮官に就いて以降は復調している。新体制下のリーグ戦は3勝1敗で、勝ち点を23ポイントまで伸ばしてウルブスに次ぐ8位まで順位を上げてきた。

 さらにトッテナムはこの試合の勝利によって、順位を5位まで上げた。4位チェルシーとの勝ち点差は3ポイント。一時は希望を失いかけたトップ4への挑戦権を取り戻すことに成功した。

 この試合は師弟関係とも言える両指揮官の対決になった。ヌーノ・エスピリト・サントは現役時代、ポルトでモウリーニョを師事。ヌーノは控えGKだったものの、ポルトは2003/04シーズンにはビッグイヤーを掲げている。

 守備時は4-2-3-1でありながら、トッテナムは3-2-4-1のような形で攻撃がスタートさせた。左サイドバックのヤン・ヴェルトンゲンは低い位置に残ってセンターバックと並び、右はサイドバックのセルジュ・オーリエ、左はサイドハーフのソン・フンミンが幅を取る。2列目のソン、ルーカス・モウラは推進力を活かしてゴールへ襲い掛かった。

 しかし、試合はウルブスが主導権を握る展開となった。左サイドではウイングバックのホニー・カストロとシャドーのディオゴ・ジョッタによるコンビネーションで中央へと侵入。右サイドはシャドーのアダマ・トラオレがスピードの優位性を活かして果敢に仕掛けた。

両軍ともにミドルシュートから得点が生まれる

 開始8分、左サイドからソンが左足を振りぬくが、GKに防がれる。こぼれ球はクリアされたが、これを拾ったルーカスが個人技で突破を図り、右足を振り抜く。強烈なミドルシュートはゴール上に突き刺さり、トッテナムが先制に成功した。

 67分、相手を押し込み続けたウルブスに同点弾が生まれた。左サイドでボールを持つラウール・ヒメネスから中央のトラオレにボールが渡る。再三にわたって1対1を仕掛けてきたトラオレはタイミングを計りながら、意表を突いて右足を振り抜く。対峙したヴェルトンゲンは間合いを詰めることができず、弾丸シュートはゴールネットに突き刺さった。

 時間の経過とともに疲労がたまってきたのか、両チームともにラフなプレーが増えてくる。戦術的なファールも中にはあったが、60分まで出なかったイエローカードが、それ以降の30分間で8枚も出された。

 1-1で試合は終盤に突入すると、トッテナムが89分に動いた。先制弾を挙げたルーカスを下げて、クリスティアン・エリクセンを投入した。

 4分を示すアディショナルタイムの掲示が出された直後だった。エリクセンのアウトスイングのCKは、ヴェルトンゲンが下がりながら頭で合わせるとこれがゴールに吸い込まれた。投入されたばかりの背番号23と、守備で苦しめられ続けたDFによって、トッテナムは1-2と勝ち越しに成功した。

一枚上手だったモウリーニョの采配

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ウォルバーハンプトンのヌーノ・エスピリト・サント監督(左)とトッテナムのジョゼ・モウリーニョ監督【写真:Getty Images】

 リードに成功したトッテナムは直後にファン・フォイスとハリー・ウインクスを入れて守りを固める。アディショナルタイムは消費され、トッテナムは難敵を下した。

 試合後、モウリーニョは「ファンタスティック」を連呼した。両者ともに激しく、拮抗した試合だったことを物語っている。89分にエリクセンが投入されるまで、両指揮官は交代枠を使わなかった。拮抗した試合でにらみ合いが続く形になったが、経験と実績で上をいくモウリーニョの采配が一枚上手だったと言うべきだろうか。

 就任3年目のヌーノのように、モウリーニョにはチームを作る時間は与えられていない。こぼれ球を拾って個人で打開してゴールを決めたモウラにしろ、決勝弾となったエリクセンのCKとヴェルトンゲンのヘディングにしろ、つまるところは個の力だ。

 攻撃面においては特に、「個の力の最大化」にベクトルを向けた戦い方をしているように見えた。高度な戦術的な崩しではなく、ソンやモウラを中心に直線的にゴールへと突き進む。そうして勝ち点を積み上げていきながらチームを構築していくのだろう。

ウルブスは主導権を握ったが…

 モウリーニョが「とても難しい相手だった」と振り返るように、ウルブスはトッテナムを苦しめた。昇格年にチームをEL出場に導いたヌーノが標榜するサッカーは、年々精度を高めている。

 左サイドのホニーとジョッタは、どちらかがタッチライン際に開けば、もう一方は中へのカットインを狙う。2人とも右利きなのでサイドチェンジのための角度を作ることもできる。右サイドではウイングバックのマット・ドハーティが空き、トラオレはヴェルトンゲンとのマッチアップに挑むことができた。

 前線ではラウール・ヒメネスが利いていた。的確なスペースに潜り込んで、ポストプレーで時間を作る。スタッツには残らないオフザボールの動きも素晴らしかった。

 トラオレの同点弾もヒメネスがアシストしている。敵陣でヒメネスがトラオレにパスを送ると、そのまま右サイドに向かって斜めにスプリント。トラオレに対峙したヴェルトンゲンには、おそらく走り込んでくるヒメネスが視界に入ってきたことだろう。2人のDFがヒメネスを追走するが、ヴェルトンゲンの重心がヒメネスの方へと移った瞬間をトラオレは見逃さず、ミドルシュートを放った。

 ウルブスは58.1%のボール保持率をマークし、相手の2倍となる18本のシュートを放った。長い時間を敵陣で過ごし、相手には自身の4倍近い37本ものクリアを強いた。CKは11本対して、トッテナムはわずかに2本。しかし、その2本のうちの1本が試合を決した。2倍のシュートを放ちながらも枠内シュートは5本で同数だった。

 サッカーはゴールの数を競う。ピッチ内の主導権を握っていたのはウルブスだったが、より相手ゴールを脅かしていたのはトッテナムだった。ゴール前の質だけを見れば、1-2というスコアは妥当という見方もできるだろう。

(文:加藤健一)

【了】

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