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セリエA 4年前

ミランに芽生えた新たな武器。イブラヒモビッチとレオンの2トップに見る、“進化”への期待

セリエA第19節、カリアリ対ミランが11日に行われ、0-2でアウェイチームが勝利している。ミランがリーグ戦で白星を手にしたのは、実に4試合ぶりのこと。複数得点を挙げるなど、ポジティブな要素を多く残した。その中でイブラヒモビッチとレオンの2トップに、新たな可能性を見た。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

ミランは2トップでスタート

ミラン
ミランはカリアリと対戦し、2-0で勝利【写真:Getty Images】

 前節、ミランは下位に沈むサンプドリアと対戦し、ホームで0-0と引き分けている。自分たちがボールを保持する展開が長く続いたが、攻撃陣はゴール前で精彩を欠き続け、シュート19本も虚しく無得点。守備陣は軽率なミスからピンチを招くなど、内容は散々であった。GKジャンルイジ・ドンナルンマの好セーブがなければ、恐らく勝ち点を落としていただろう。

 そんなサンプドリア戦から約1週間が経ち、ミランはリーグ戦でカリアリと対戦している。相手はロランド・マラン監督の下、ゾーンでのボール奪取から縦に素早い攻撃を持ち味としているチームであり、第18節終了時点で6位につけるなど好調を維持している。MFラジャ・ナインゴランやFWジョバンニ・シメオネを擁するなど、タレントも豪華。ミランにとって簡単な相手でないことは明らかであった。

 ステファノ・ピオーリ監督は、この試合で4-4-2システムを採用している。2トップはFWラファエル・レオンと新加入のFWズラタン・イブラヒモビッチだ。これまで4-3-3システムがベースであったミランだが、この4-4-2システムがどこまで機能するのか。ここは、カリアリ戦の注目ポイントになった。

 試合は立ち上がりからアウェイのミランがボールを保持する展開に。ただ、支配率が高かったのは確かなのだが、プレーエリアは自陣のものがほとんど。つまり、カリアリを相手にボールを保持していたのではなく、ボールを持たされていたという表現が正しいだろう。1トップ+2シャドーが横並びになってビルドアップを阻止してくるカリアリに対し、ミランは効果的な攻めを繰り出せなかった。

 反対に、カリアリの鋭い攻めがミランを襲う。ナインゴランとMFジョアン・ペドロの2シャドーがミランの中盤底2枚の脇のスペースを突き、CBをつり出すと、今度はインサイドハーフのMFナイタン・ナンデスらが飛び出してくる。ミランの守備陣は素早いアクションを起こすカリアリを前にマークが混乱し、何本か際どいシュートを放たれた。

 ミランは攻撃時にイブラヒモビッチへボールを当て、そこから素早く縦への突破を図ったが、それがなかなかうまくいかない。レオンとイブラヒモビッチの距離感も曖昧で、FWサム・カスティジェホとMFハカン・チャルハノールのサイドハーフもサポートに回るまではいいが、その後が続かない。30分にはレオンからイブラヒモビッチへ絶妙なクロスが入り、決定機を生んだが、2トップが絡んだチャンスらしいチャンスはそのくらい。35分過ぎにはイブラヒモビッチがハーフウェーライン付近まで下がってボールを受けようとするなど、2トップに良い形でボールが収まる回数は限られた。

 結局、ミランは前半だけでシュート10本を放った。しかし、枠内に飛んだのはわずか2本だけ。リーグ戦3試合無得点中と怖さを発揮できない攻撃陣が、このゲームでも脆さを露呈することになった。

後半2得点で勝利

 しかし、そんな悪い空気を払拭させたのが後半立ち上がりの45分であった。敵陣でファウルを受けたカスティジェホがリスタートすると、走り出したレオンがペナルティエリア内でボールをコントロール。右足で放ったシュートはDFに当たったが、ボールはそのままGKロビン・オルセンの頭上を越えゴールへ吸い込まれた。

 これで勢いに乗ったミランは、その後もカリアリを押し込んで追加点を奪いにかかった。すると65分、MFジャコモ・ボナヴェントゥーラが蹴ったボールが左サイドのDFテオ・エルナンデスに渡ると、同選手は左足でグラウンダーのクロスを送る。これを合わせたのがイブラヒモビッチ。左足でボールをファーサイドに流し込み、チームの2点目を奪取した。

 良い時間帯に2点のリードを奪ったミランは、全体の距離感をコンパクトに保ってカリアリに反撃を許さなかった。マラン監督はFWアルベルト・チェッリやMFアルトゥール・イオニタ、MFルーカス・カストロらを投入し、攻撃に新たな可能性を見出そうとしたが、状況はなかなか好転せず。後半半ばからはサイド攻撃一辺倒となり、ミランの守備陣を攻略できずいにいた。

 さらに、カリアリの守備陣は集中力が切れたのか、後半の途中から人にマークがつけなくなってきた。全体の距離感が広くなっており、一人外された後のカバーリングも一歩遅れている。よって、中盤には前半見られなかったスペースがあり、なかなかそこを埋められない。そうすると、躍動するのがレオン。縦への突破力とスピードを兼ね備えるポルトガル人FWは、スペースがあるとより持ち味を発揮しやすくなる。カウンターを繰り出したいカリアリであったが、レオンの突破などによりラインはズルズルと引き下がったため、高い位置でボールを奪うことが難しくなってきた。

 カリアリは終盤、前線に多くの人数を集めパワープレーでなんとか1点を奪い返そうとした。しかし、DFアレッシオ・ロマニョーリを中心にしたミランの守備陣は大きく揺るがなかった。結局、試合は2-0のまま終了。上位につけるカリアリだが、これでリーグ戦4連敗と痛い足踏みとなった。

 一方でミランはリーグ戦4試合ぶりの白星。リーグ戦では3試合連続無得点中であったが、この日は複数得点を奪うなどポジティブな要素を多く残した。順位も暫定ながら8位に浮上している。

カリアリ戦に見る2トップの可能性

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レオンとイブラヒモビッチの2トップには期待を抱いても良いかもしれない【写真:Getty Images】

 さて、難敵・カリアリを撃破したミランだが、この日は2トップがうまくハマったと言えるだろう。とくに後半は、4-3-3システム時にはなかった躍動感のようなものが感じられた。

 その中でもやはりイブラヒモビッチの存在感は大きい。チームの2得点目を奪ったことはもちろん、恵まれた体躯を生かしてとにかくボールを収めることができる。それに加え足下の技術があるため、相手DFからするとボールを奪うのは至難の業。この日もカリアリ守備陣は大苦戦を強いられていた。

 そして、38歳となった今でもゴール前での嗅覚は失っていない。得点シーンではT・エルナンデスにボールが渡った瞬間、マイナス方向にポジショニングし、ボールを呼び込んでいる。30分の決定機の場面では、レオンにボールが入ると、あえて中央には飛び込まず、ファーサイドに位置。身長178cmのDFルカ・ペッレグリーニとのミスマッチを作り出すためであった。このあたりの感覚、そして判断力はストライカーとしての怖さを十分に表している。

 イブラヒモビッチが躍動すると同時に、水を得た魚のようにイキイキとしたパフォーマンスを見せるのがレオン。前半は少し背番号21との距離感が微妙であったが、時間が経つにつれ慣れてくるとボールに触れる機会も増えた。

 イブラヒモビッチが守備をしない分、前線からのアプローチはレオンが任されているタスクだ。また、攻撃面では流れの中で4-4-1-1のトップ下のような位置を担うこともある。ただ、役割としては典型的なトップ下ではない。イブラヒモビッチにボールが収まった場合のサポート役の一番手を担う存在である。つまり、元スウェーデン代表FWがボールに触れる場所に応じて、レオンのプレーエリアも大幅に変わる。ある意味、ある程度の自由を与えられているというわけだ。

 4-3-3システム時のレオンはサイドに張りっぱなしであったが、やはり同選手の場合、いまのミランでは4-4-2システムである程度自由を与える方が活きる。ポルトガル人FW自身も加入後間もない頃、『Milan TV』のインタビューで「1トップより2トップの方が得点力は上がると思う。もう1人は中央でプレーし、もう1人はフリーに動き回る。監督がどのような起用法にするかだけど、僕自身はサポートに回る準備ができているよ」と話している。FWクシシュトフ・ピョンテクよりもボールが収まり、散らすことができるイブラヒモビッチが加入したいま、レオンが覚醒する可能性は高い。

 イブラヒモビッチ加入による効果はやはり大きい。38歳となったいまでも、そのセンスはまったく錆びついていない。現在のミランは「戦術の根幹」がイブラヒモビッチになっており、同選手が退団した後への不安は残るが、いまは結果こそが大事な時期であることに変わりはない。カリアリ戦で得た勝利を自信に、ここからピオーリ監督がどのようにチームを進化させていくのか。引き続き目が離せない。

(文:小澤祐作)

【了】

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