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セリエA 4年前

ミラン、イブラヒモビッチがかけた“魔法”。これぞストライカーの一撃、一方でピョンテクは…

コッパ・イタリア準々決勝、ミラン対トリノが現地時間28日に行われ、延長戦の末、4-2でホームチームが勝利している。90分まで1-2と敗色濃厚だったミランだが、そこから怒涛の3ゴールを挙げ見事ベスト4入りを決めている。ゲームの流れを変えたのはやはりあの男だった。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

試合の入りは完璧

ミラン
【写真:Getty Images】

 実に2002/03シーズン以来となるコッパ・イタリア制覇を目指すミランだが、ここ最近の好調ぶりを見事に発揮し、無事にベスト4入りを決めた。現地時間28日に行われたコッパ・イタリア準々決勝、トリノ戦。ほぼベストメンバーに近い形で試合に挑んだミランは、4-2で勝利を収めている。

 この日は立ち上がりから積極的に攻めたミラン。リーグ戦2試合で3発中と絶好調のFWアンテ・レビッチに、チーム内得点王であるDFテオ・エルナンデス、左右両足を巧みに使ったドリブルが魅力的なMFジャコモ・ボナヴェントゥーラを揃えた左サイドからの攻めを基本とし、トリノを押し込んだ。

 すると12分には、左サイドをレビッチが突破し、グラウンダーのクロスを中央に送ると、中に飛び込んだボナヴェントゥーラが右足でボールを押し込み先制点を奪取。試合の入りは非常に良かった。

 ミランはその後もゲームの主導権を掌握。果敢に裏のスペースを狙ってくるFWアンドレア・ベロッティに対しては、DFアレッシオ・ロマニョーリを中心とした守備陣が丁寧なラインコントロールを見せ、決定機を与えなかった。MFイスマエル・ベナセルとMFラデ・クルニッチのダブルボランチも中盤で積極的に動き、エリアを狭めることでトリノのビルドアップを阻止している。

 しかし33分、ミランは“弱点”を突かれた。敵陣でボールを奪われると、トリノのカウンターが開始。T・エルナンデスが前線に飛び出していたことで空いていた左サイドを突かれると、CBのロマニョーリがカバーに入るためつり出される。そこを外されると、最後はDFブレーメルに背後のスペースを突かれ失点を喫した。

 前半、ミランが許した枠内シュートはこの1本のみであった。しかし、スコアは1-1。嫌な空気のまま、後半へ向かうこととなった。

存在感を失うピョンテク

クシシュトフ・ピョンテク
【写真:Getty Images】

 後半も試合の流れ自体に大きな変化はなかった。しかし、一瞬の隙を突いて同点に追いついたトリノは前半よりも落ち着きを取り戻しており、守備になかなか綻びが生まれない。ミランはそんな相手を前に苦戦。3-4-2-1のシステムを採用するトリノに3+4での守備を展開され、重心をサイドへと追いやられた。

 そうなると孤立してしまうのが、この日2トップの一角に入ったFWクシシュトフ・ピョンテク。相方のレビッチはサイドに流れるなど状況に応じてポジション変更を果敢に行ったが、ポーランド人FWに関してはほとんど中央の位置に固定されていた。2トップのうち一人は中盤の幅広いエリアで味方をサポート、もう一人は中央でボールの収め所となる。これは、ミランにおける4-4-2システムの基本となっている。

 今季から背番号9を身に付けるなど大きな期待を背負っていたピョンテクであるが、ここ最近は昨季のような爆発力は影を潜めている。それはこのトリノ戦でも払拭することはできず。冬に加入したFWズラタン・イブラヒモビッチに比べると、前線での存在感、そして仕事ぶりもやはり物足りなさを感じてしまう。

 先制点の場面では、レビッチが突破した際、ニアサイドでピョンテクが潰れたことでボナヴェントゥーラの得点が生まれている。確かにこのシーンの動き出しは良かったのだが、その他の場面では味方との呼吸が合わないこともしばしばあった。

 たとえば58分のシーンでは、レビッチが右サイド深い位置に侵入しクロスを上げた際、ピョンテクはニアサイドに飛び込むタイミングが少し遅れ、DFオラ・アイナに先にボールを触られている。ボックス内での強さや嗅覚などはもう少し発揮したいところだった。

 DFの死角に入り、そこから一気に飛び出してシュート。昨季のピョンテクはこうした動きが非常に冴えており、ゴールを量産した。しかし、今はこのようなアクション自体が明らかに減っている。もちろん、相手の警戒度もミラン加入当初よりは上がっているだろう。とはいえ、そこを打開できなければ、スタメン確保は難しいと言わざるを得ないだろう。移籍を薦める気はないが、現状は厳しい。

 結局、ピョンテクは65分にイブラヒモビッチと交代。この日はわずかシュート1本に終わった。タッチ数も20回。CFとしてはあまりに不甲斐ない成績である。トッテナムやマンチェスター・ユナイテッドへの移籍も噂されているが、その可能性は高まったかもしれない。

ミランをベスト4に導いた21番と24番

ズラタン・イブラヒモビッチ
【写真:Getty Images】

 ピョンテクの不調もあり攻撃陣が停滞に陥ったミランは、イブラヒモビッチ投入からわずか1分後、再びブレーメルに得点を許しついに逆転されてしまった。その後も得点を奪うことなく、時間は後半ATへ。誰もが2020年の初黒星を予想していた。

 しかし90分、途中出場のMFハカン・チャルハノールが強烈なミドルシュートを叩き込み土壇場で同点に。試合は延長戦に突入することとなった。

 そして、お互いに疲労も限界に達してくる延長戦。トリノを崩壊へと導いたのは、あの男であった。

 105分、味方のスローインを受けたイブラヒモビッチがボールを胸でコントロールし、柔らかい右足のタッチで中央のMFフランク・ケシエにパス。ボールを受けたケシエは左サイドを走っていたチャルハノールへパスを出すと、背番号10が左足を振り抜きゴールネットを揺らした。

 さらにその3分後、右サイドを突破したFWサム・カスティジェホのクロスをペナルティエリア内でFWラファエル・レオンが収める。その瞬間にイブラヒモビッチが動き出し、DF二コラ・ヌクルの前に出ると、最後は右足でシュート。これがネットに突き刺さり、4-2とトリノを突き放した。

 ピョンテクには物足りなかった素早い動き出し。イブラヒモビッチが持つ抜群の感覚が凝縮されたシーンであった。これぞストライカー。鳥肌が立つような、そんなゴールだった。

 試合はチャルハノール、イブラヒモビッチの活躍もあり4-2でミランが勝利。ベスト4入りを決めている。

 出場時間60分。その中でチャルハノールの得点の起点となり、自らも1ゴール。イブラヒモビッチの存在感は圧巻だった。まるでピッチで魔法をかけたかのようにチームの勢いは加速し、敗色濃厚の中、最終的には4-2。イブラヒモビッチとは何者なのか? そう思いたくなるようなゲームであった。

 出場時間60分は、ピョンテクとまったく同じだ。ただ、果たした仕事ぶりを見れば、両者の違いは一目瞭然だろう。今後しばらく、ミランは「イブラヒモビッチのチーム」となる。

 また、この日はヘリコプター墜落事故により急逝したNBAの元スーパースター、コービー・ブライアント氏を追悼し、両チームともに喪章を腕につけて試合に臨んでいた。ブライアント氏が現役時代に着用していた背番号24に合わせ、24分にはスタジアムから大きな拍手も送られている。

 黄金期ミランの大ファンであったことでも知られているブライアント氏。イブラヒモビッチの活躍はもちろん、“背番号24”の存在もまた、ミランを勝利に導いたのかもしれない。

(文:小澤祐作)

【了】

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