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パブロ・マリはアーセナルを救うラストピース? 初陣で見せた驚異のスタッツ、異色の経歴を歩む26歳のCBが必要な理由

FAカップ5回戦、ポーツマス対アーセナルが現地時間2日に行われ、0-2で勝利したアーセナルが準々決勝進出を決めた。この冬にフラメンゴから加入したパブロ・マリは、移籍後初出場を飾った。センターバックで見せたそのプレーは、アーセナル浮上のカギを握るポテンシャルを秘めている。(文:加藤健一)

text by 加藤健一 photo by Getty Images

デビュー戦で出色の出来

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【写真:Getty Images】

 試合序盤からシュートチャンスを得ていたのは、リーグ1(3部)のポーツマスだった。中盤でボールを奪うと、少ない手数で敵陣に侵入してフィニッシュへとつなげる。しかし、シュートはなかなか枠を捉えることができず、決定機へ持ち込むことはできなかった。

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 5分が計上された前半アディショナルタイムの半分過ぎようとした頃、アーセナルはCKから先制に成功する。リース・ネルソンのキックは相手に跳ね返されたが、それを拾った味方がネルソンにつないで再びクロスを上げると、ソクラティス・パパスタソプーロスがボレーシュートでゴールネットを揺らした。

 51分には右サイドをネルソンが単独で縦に突破してクロスを上げる。ニアに走り込んだエディー・ヌケティアが2人のDFに囲まれながらゴールに押し込んで追加点。ポーツマスの足が徐々に止まってきたこともあり、これで試合の大勢は決まった。

 この試合が初出場となったDFパブロ・マリは攻守に安定感のあるプレーを見せた。「彼はずっと4バックを統率していて、まるで何カ月前もプレーしているようだった」と、アーセナル公式サイトはミケル・アルテタ監督のコメントを伝えている。実際に、相手のプレッシャーにも動じずに、長短のパスをピッチの至るところに通した。

 データサイト『Who Scored』によると、マリはこの試合でチーム2番目に多い86本のパスを通した。特筆すべきはロングパスの精度で、17本中13本を成功させている。前線にストロングヘッダーがいないアーセナルにおいてその数字は驚異的で、フリーの選手にピンポイントで通していた。

 相手のシュートに対するポジショニングも的確で、シュートブロックはチーム最多の3本を記録している。アルテタの評価通り、出色のパフォーマンスを見せたマリは最終ラインを引っ張る存在になっていた。

異色の経歴を歩む26歳のスペイン人DF

 この冬にフラメンゴからアーセナルに加入したマリだが、26歳ながらに異色の経歴を歩んできた。

 マジョルカの下部組織で10代を過ごしたマリは、18歳でトップチームデビューを果たし、ヒムナスティック・タラゴナでは3シーズンプレーした。2016年夏にマンチェスター・シティに完全移籍したが、シティでプレーすることなくジローナ、NAC、デポルティボ・ラコルーニャと、レンタル移籍を繰り返した。

 2019年7月にフラメンゴに移籍すると、過酷な日程のブラジルで、7月28日の初出場からわずか半年で30試合に出場する。クラブを38年ぶりのコパ・リベルタドーレス制覇へと導き、南米王者に輝いた初のスペイン人となった。12月のFIFAクラブワールドカップも2試合ともにフル出場して、惜しくも敗れた決勝ではリバプールの最強攻撃陣を延長前半途中まで無失点に抑えている。

 スペイン、オランダ、ブラジルでプレーしたマリは、シティ加入から3年半の月日を経てイングランドでのキャリアを開始した。加入後は負傷もあり、クラブワールドカップ決勝を最後に公式戦から遠ざかっていたが、U-23チームでの実践を経て、この日トップチームデビューを果たした。

アーセナルの弱点を埋める可能性

 UEFAヨーロッパリーグ(EL)での早すぎる敗退から中3日、チームはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得に向けて、再び歩み始めた。週末にリーグカップ決勝が行われてシティ戦が延期となったために1試合消化が少ないアーセナルは、4位・チェルシーを8ポイント差で追っている。

 アーセナルのセンターバックはウィークポイントのひとつである。カラム・チェンバースは年末に左ひざの前十字靭帯を痛めて今シーズンの復帰は絶望的。ダビド・ルイスは不動の存在だが、オリンピアコス戦でセットプレーから2度も失点に絡んでしまうなど安定感に欠いている。

 スコドラン・ムスタフィはここ最近、良いパフォーマンスが続いていたが、木曜日のオリンピアコス戦で負傷交代してこの試合はベンチから外れた。センターバックとして心許ないソクラティスは、右サイドバックでの起用が増えている。

 193cmの長身と高い足下の技術を持つスペイン人のマリのプレーは、長らく同国代表をけん引してきたジェラール・ピケを想起させる。相手のハイプレスを受けると途端につなげなくなってしまうビルドアップも、マリがロングレンジのパスを操ることで一気に展開することが可能になるだろう。

 3月のアーセナルは、ウェストハム、ブライトン、サウサンプトンとの対戦が控えている。上位陣との対戦がないことは、マリのチームへの適応を考えれば好都合だ。本当の勝負はウォルバーハンプトン、レスター、トッテナム、リバプールと続く、再終盤の4連戦になるだろう。

 ただ、ポーツマスはあくまで3部のクラブ。ここまで煽っておいてなんだが、過度な期待は禁物で、プレミアのクラブを相手にどんなプレーができるのかは未知数だ。しかし、アーセナルが逆転でCL出場権を獲得するためのラストピースに、マリがなれる可能性を感じさせたことだけは確かだった。

(文:加藤健一)

【了】

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